全ての開発協力はSDGsに貢献する|DXで開発途上国の課題解決を加速するJICA

#DX#インフラ#医療#金融#防災 2022.02.28

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【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈

現在、先進国だけでなく開発途上国でもデジタル技術の発展が急激に加速している。

開発途上国においては、先進国のように伝統的な商習慣や法規制、社会インフラが整備されていないからこそ、最先端の技術が段階を踏まずに飛躍的に広がる「リープフロッグ型発展」も見られ、SDGsを実現する上でもデジタル技術やデータを活用して人々の生活を豊かにしていくDXの重要性が高まっている。

​​>関連記事:DX(デジタルトランスフォーメーション)とは? 定義・スキル・事例を解説

今回は、JICAの特別インタビュー企画 第2弾として、SDGsの実現におけるDXの可能性についてJICAガバナンス・平和構築部STI・DX室の浅沼さんと二木さんの2人に話を伺った。

途上国に起こったデジタルの変化。STI・DX室はこうして立ち上がった。

ーーお2人の自己紹介からお願いします

二木:もともと国際協力に興味があり、ファーストキャリアではメガベンチャーで事業開発やマーケティングの仕事をしていましたが、前職の国際事業を縮小するタイミングで、JICAとのご縁がありました。

浅沼:私も2年前に中途入社でJICAに入りました。前職はデジタル戦略コンサルティングに従事しており、企業向けに新規事業提案や戦略策定などを行っていました。JICAでは、ちょうど組織としてDXに本格的に取り組むというタイミングで、STI・DX室に配属されました。

ーーSTI・DX室立ち上げのきっかけを教えてください

浅沼:現在、開発途上国ではデジタル技術の発展によって、たとえば固定電話の普及を待たずにスマートフォンやWiFi通信が整備されるように「リープフロッグ現象」といわれる蛙飛びの発展がどんどん進んでいます。

多くの開発途上国において、その国の課題解決に協力するJICAとしても、デジタル技術を活用する必要性を認知、取り組みつつあったタイミングで、開発途上国側からもデジタル技術を活用したいというリクエストが増え、本格的に対応していくことになりました。

STI・DX室は、JICA内では「課題部」とも呼ばれ、特定の社会課題の分野にアプローチする部署のひとつで、たとえば環境、交通、医療などSDGsに含まれる伝統的なテーマを扱うのと同様に、私たちは途上国開発におけるデジタル化の促進に取り組んでいます。

ーーSTI・DX室の活動内容を教えてください

二木:現在、DXは国際協力の分野においても世界的なトレンドです。STI・DX室の組織的なミッションは、大きく分けて2つあります。

1つ目はODA事業全体のDX主流化です。たとえば既存の環境、交通、医療などのあらゆる分野における課題解決にデジタル要素を掛け合わせることで、透明化や迅速化、効果の増大を促せると考えています。各分野の担当部門を横断的に支援し、個々の案件にデジタル要素を追加することで開発インパクトの増大を図ります。

2つ目は1つ目のDX主流化に必要となる先方政府にとっての「デジタル化のベースとなる基盤整備」です。例えば遠隔医療一つとっても、まず安定した通信ネットワークが必要ですし、デバイスや法制度、またエンジニア等の人材育成が不可欠です。このような環境整備はJICAでも以前から実施しており、当室のミッションとして引き継がれています。

私と浅沼は主に1点目の業務を担当しています。

ーー開発途上国からのリクエストというのは具体的にどのようなものがあるのでしょうか?

浅沼:こちらも大きく分けると2種類だと思います。

1つ目は行政サービスの効率化です。開発途上国においても、政府が管理する既存のシステム同士の連携がとれていないことは往々にあります。これら政府内・政府と企業/市民とのデータのやりとりを効率化し、行政サービスの向上を促すニーズも広がっています。

2つ目はスタートアップビジネスのエコシステムの強化です。現在、世界中でスタートアップビジネスが生まれ、急速に成長を遂げています。スタートアップ企業がデジタル技術を活用し、決済プラットフォームや医療アプリ開発などで社会課題を解決するものも増えており、起業家の裾野を広げるための人材育成やエコシステム強化のためにJICAの支援が求められる場合もあります。

ビジネスエコシステム:本来は生態系を指す「エコシステム」を比喩に、主にデジタル関連産業における経済的な依存関係や協調関係、または新しい産業体系・企業間の連携関係全体を表すのに用いられる用語。研究開発や人材育成を担う大学・研究機関が含まれる場合もある。

SDGsは開発の中心|DXで多様な幸せの実現を目指すJICA

ーーJICA全体としてDXをどのように捉えているか教えてください

浅沼:ピンチでありチャンスだと考えています。

たとえばアフリカでは、経済成長著しい中国による進出が目覚ましく、デジタルツールも広く使われています。JICAが伝統的に取り組んできた活動を続けていくだけでは、多様化する今日の開発ニーズを拾いきれていないのではないかという危機感があります。
しかし、だからこそ、現状を打破して変化するチャンスだとも捉えています。DX領域にはJICAの取組みを今まで以上にイノベーティブに進めたり、あるいは民間企業と共創しながら開発インパクトを創出したりできるポテンシャルがあり、わくわくもしています。

これは個人的意見ですが、JICAはデジタルサービスの開発自体を担うわけではありません。DXのために必要とされる基礎技術を保有するのは、実際に取組みを進める日本の民間企業、もしくは開発途上国の自治体や現地企業になるので、それらのプレイヤー間の協力をうまく誘発する仕組みづくりが必要だとも考えます。

ーー国際協力にDXをかけ合わせる上で、SDGsをどのように捉えていますか?

二木:すべての開発協力はSDGsに貢献しているので、捉えるというより、常に業務と繋がっています。

思えばJICAに入構した当時は、SDGsがまだ提唱される前で、国際社会ではまだMDGs達成に向けた取り組みを進めていました。開発コミュニティ全体でより具体的な指標を追い求めていました。それがSDGsでは「サステナブル」「誰も取り残さない」といったより抽象的なキーワードになりました。

私たちの具体的な業務においても、決められた開発目標を追うだけではなく、多様なWell-beingを目指すことをより意識しなければならないと感じています。

>関連記事:《徹底解説》MDGsとは?|8つの目標・SDGsとの違いを解説 | SDGs CONNECT

浅沼:加えて言えば、「ポストSDGs」のことも常に考えなければならないと思っています。

たとえば既存の開発目標は、そのベースが経済成長の指標であるGDP(国内総生産)ですが、今度は私たちがSDGsの次となる議論をリードしなければならないと考えたときに、そもそも経済成長を前提とした議論を続けてもいいのかといった観点もあります。

そうなると代替となる指標が必要なわけですが、幸福度やWell-beingなどが現在の関心の先端にあると考えています。

ーー開発事業におけるDXのポテンシャルはどのようなものでしょうか?

二木:コロナ禍によって、私たちも開発途上国のフロントラインに、以前のようには行けないという状況が2年以上続いています。物理的な制約の中でも今困っている人たちへの協力を止めないため、DXの推進は欠かせないものだと感じています。初めからフルリモートでプロジェクトの設計ができるという点は大きなアドバンテージです。

ポテンシャルという点では以下の画像にもあるようにデータ化によって透明性があがり、緻密・迅速な案件形成が可能になります。さらにデータが統合・融合されることで、より状況把握や判断が効率・正確化され、社会包摂や解決策の浸透が進むという流れがあります。以下の画像の各要素がDXのポテンシャルであると思っています。

【提供:JICA】

浅沼:これは私見ですが、デジタルというのはデータとアルゴリズムに分解できると考えています。

開発途上国は、現状把握が難しい場所です。データを分析することで、人の流れだけでなく、最終的には幸福度の可視化など、課題を正確に見える化し把握できるようになり、取り組むべき課題の優先度なども見えてきます。

アルゴリズムでは、さまざまな問題について今まではパッケージ化しないと協力ができませんでしたが、AIなどの発展によって、アルゴリズムで個別最適化できるようになり、きめ細やかなサービスに繋がってくるのではないかと考えています。

現状把握ときめ細やかなサービスが、私の考えるDXのポテンシャルです。

ーー課題を特定し具体的に解像度を高める重要性を教えてください。

浅沼:JICAが認識するべき課題範囲は広範に渡ります。

例えば、ルワンダにおけるスタートアップのエコシステムは、変数がとても多いです。その中からJICAが協力できるポイントを見つけることは容易ではありませんが、日本の専門的な知識をフル活用し事業を推進しています。

こういった職人技の領域においても、データによって、国際協力の関係者が課題発見から解決するための発想が増えてくるといいなと考えています。

国際協力にDXを活用した3つの事例

医療DX:遠隔集中治療支援

JICAは遠隔集中治療支援のプロジェクトを進めている。日本と開発途上国の集中治療室を繋ぎ、データを共有しながら遠隔で助言を行い、新型コロナウイルスで逼迫してしまった開発途上国の医療現場に対して、迅速かつ効率的な協力が可能になるプロジェクトだ。

【提供:JICA】

二木:通常JICAでは、1ヵ国において、1課題、そして1プロジェクトと単体で事業を進めるのが基本ですが、今回は約10ヶ国で同時にプロジェクトをスタートさせました。

また、プロジェクト期間は2~3年のところが多いのですが、約1年間という短期間で結果を迅速に出すことを目指しており、これはまさにデジタルの力で実現したものです。

たとえば従来の研修では会議室などに関係者が集って専門家が講義するという形でしたが、コロナ禍で対面できない中、遠隔ICUのシステムを用いて日本からのフルリモートで人材育成を完結させています。またオンデマンド形式の研修を組み合わせ、感染症拡大の最前線でシフト制で働く医療従事者が、いつでもどこでも学べる工夫も取り入れています。

【提供:JICA】

【提供:JICA】

インフラDX:水道管の劣化診断

日本では、水道などをはじめとする多くのインフラにおいて老朽化が進み、社会問題になっている。これは日本だけの問題ではなく、中進国や開発途上国においても、効率的なインフラのメンテナンスを行う方法が模索されている。

JICAはAIを活用して水道管の劣化を診断するFracta(フラクタ)社と共に、タイの水道管の劣化を診断するパイロットプロジェクトを実施した。

多くの水道事業体では、主に水道管の設置年数に基づいた水道配管の更新を行っており、配管周囲の環境が与える劣化への影響を十分には考慮できていない。Fracta社では、管路や漏水のデータに加え、独自に収集した膨大な環境ビックデータ(1,000以上の環境変数を含むデータベース)をAI/機械学習技術を用いることで破損確率の予測精度を向上し、水道管路の維持・更新計画の最適化を図ることが可能になった。

パイロット事業の実施アプローチ【提供:JICA】

浅沼:Fracta社はこれまで先進国を中心に事業を進めていたので、今回はじめての新興国での挑戦ということで、データ不足などの課題もありました。

Fracta社の提供する水道管の劣化予測には、水道管のデータだけではなく、交通量・人口などの幅広いデータが必要なので、機密性の高い情報を取得できるのか、そしてそれを用いたAI診断がうまくいくのか当初は不安がありました。

しかし、デジタル化の促進の実績のまだ少ないハードインフラ分野において有意な結果を出しインパクトを証明できたので、とても意味が大きなことでした。

また、当初はタイ側からデータ提供に難色を示されました。デジタル技術を活用する上で、データは必須な要素です。国の重要インフラの情報を、他国の民間企業に重要なデータを開示する、あるいは収集させることはリスクがあり、警戒や抵抗もあります。JICAが間に入って丁寧に説明を重ねて最初は実験用に少しのデータを、その後分析結果を見て追加データを頂きました。これは、バンコクの首都圏水道公社と長年の協力実績があったからこそ、またFractaさんの技術が確かなものであったため実現したものと考えられます。当然受ける企業は厳格な守秘義務が求められますが、今までJICAが築き上げた信頼関係をもとに、DXを進め、優良な民間企業と連携を深める可能性を感じた例です。

【提供:JICA】

【提供:JICA】

金融DX:カンボジアの中央銀行

カンボジア国立銀行は2020年10月28日、デジタル通貨「バコン」の運用を正式に開始した。「バコン」はスマートフォンアプリを利用し、電話番号やQRコードで店舗への支払いだけでなく、個人間、企業間の送金ができる世界で初めて中央銀行が持つ決済システムだ。

「バコン」はブロックチェーン技術の開発を行う、日本企業ソラミツとの共同開発によって実現した。JICAは「バコン」の普及に向けて2020年12月〜2022年2月にかけて調査・実証事業を行っており、公共バスや病院、小売店における「バコン」の利用を促進している。

浅沼::カンボジアには、銀行口座を持っていない人やデジタルにアクセスできない農村部・貧困層の人もいます。このような人たちを含め、公的に金融DXを進めていくことで、全体の金融包摂を実現していくために、JICAとして「バコン」のプロモーションを支援しています。

「バコン」の利用を促すために、キャンペーンの実施やインフルエンサーを活用したYouTubeのプロモーションなどを行いました。

バコンの画像【提供:JICA】

開発課題×DXで解決するため、より一層のパートナー連携を

ーー最後に展望をお聞かせください。

二木:JICA内のさまざまな部署やスタートアップをふくむ民間企業と対話をして、これから私たちができることを日々試行錯誤しています。

これからは、さらに多くの外部パートナー、特に勢いのあるベンチャー企業とも連携し、より多くのSDGsを達成するための課題に取り組んでいきたいです。

デジタル技術を小手先で使うだけでなく、最初からそれを主軸にした、いわば「デジタルネイティブ」な事業をどれだけ作り込んでいけるかが遣り甲斐だと思います。

浅沼:開発途上国は「自由度の高い、柔軟な、カオスな」フィールドで、まだまだ可能性を秘めています。

JICAのDXを推進するために、民間企業などと共に、SDGs達成に向けて、一緒にデジタルを使ってチャレンジしていきたいと考えています。

さいごに

今回は、JICA STI・DX室の浅沼さんと二木さんにインタビューをさせていただいた。JICAとしてのDXの捉え方や可能性・ポテンシャルについての考え方はとても興味深いことだらけだった。これから先、どのようにデジタル化が進められていくかに注目しながら、今後の動向に注目していきたいと思う。

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