初めてのイベント算定で得たもの|ハースト婦人画報社が取り組むCFP算定

#CFP算定#カーボンフットプリント 2024.06.06

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少しでも環境に優しいものを買いたいとは思うけれど、どの商品が環境に優しいのかがわからないという消費者の方や、会社として温室効果ガス削減に取り組んではいるものの、それをどう発信していけばいいかわからないというサステナビリティ担当者や広報の方。カーボンフットプリントという言葉をご存じでしょうか。

カーボンフットプリント(以下、CFP)とは「商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルに至る過程を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算し、商品やサービスにわかりやすく表示する仕組み」のことです。

今回はハースト婦人画報社 社長室サステナビリティマネージャーの大竹紘子さんに、環境省様と取り組まれた自社イベントのCFP算定についてお話を伺いました。

過去のハースト婦人画報社の記事はこちらから

脱炭素のためのCFP算定

ーー自己紹介をお願いいたします

社長室サステナビリティマネージャーの大竹紘子です。以前はファッション業界に勤めていて、その現場で環境問題や人権問題を考えるような機会があったので、サステナビリティにはファッション業界にいたときから取り組んでいました。そこからご縁があり、2022年7月に当社に入社しました。

ーー今回の環境省様との取り組みの概要について教えてください

サステナビリティ活動の取り組みとして、環境省様が実施する2023年度「製品・サービスのカーボンフットプリントに係るモデル事業」に参加しました。この事業は製品・サービスのCFPの算定及び表示・活用の取り組みに関する先進的なロールモデルを創出することで、日本国内におけるCFPの取り組みの拡大や、脱炭素に貢献する製品・サービスの選択を国民に促すことを目指したものです。本事業において、製品以外の無形商品(サービス)を対象とした算定は当社が初めてでした。

対象となった取り組みは、ファッションメディアの『ELLE』が主催する「ELLE ACTIVE! FESTIVAL 2023(エル アクティブ フェスティバル 2023)」というイベントで、サステナビリティに特化したリアル開催イベントとして昨年(2023年)の11月にシェアグリーン南青山で実施されました。

参加者の方にサステナブルな未来のために私たちができることを考える1日にしてもらうことが趣旨であり、 当日は5つのトークセッションがありましたが、女優の柴咲コウさんやモデルの森星(もりひかり)さんらがセミナーのゲストとして参加してくださいました。来場者とスタッフで650名規模のイベントでした。

ーーCFP算定を始められた背景について教えてください

前提として、弊社は婦人画報を創刊した約120年前から女性活躍を中心とした社会問題や環境問題などをメディアとして精力的に発信してきました。特にこの2年の間では、気候変動に対する脱炭素の取り組みを最重要課題として取り組んでいます。

脱炭素を推進していくにあたって、やるべきことが3つあります。最初に温室効果ガスをどれくらい排出しているのかの可視化です。どのくらい温室効果ガスを出しているのかがわかったら、次にできる限り削減していきます。そして最後に、それでも出てしまった温室効果ガスを別の手段を用いて相殺するいわゆる「カーボンオフセット」をするという流れになります。当社は最初の可視化の部分をこの1〜2年で力を入れてやってきました。

そういった流れで、可視化の最初のステップとして2022年に会社全体の排出量を算定しました。その結果を分析し、 より詳細に当社が提供するいくつかの商品やサービスの温室効果ガス排出量の可視化をしていくために、プロジェクト化をしました。そのプロジェクトのうちの1つがイベントで、今回環境省様のモデル事業で算定させていただいたものでした。 

ーーどのような経緯で環境省様のモデル事業に参画されたのでしょうか

CFP算定をするのは、すごく難しいことですし、最初は特にどうやればいいのか分からないことが多いので様々なところへアンテナを張り、情報収集をしていました。そのような情報収集をする過程でこの「製品・サービスのカーボンフットプリントに関わるモデル事業」を環境省様が募集されているのを知って、社内で検討した結果応募させて頂いたという経緯です。

初の無形商材の算定からわかったこと

ーー貴社ではプロジェクトとしてイベント以外にも商品のCFPも算定されていますが、商品とイベントでの算定ではどのような違いがあるのでしょうか。イベントの算定の難しい点についてお聞かせください。

算定対象ごとに、どこからどこまでを算定範囲とするのかといったバウンダリーの設定から行うのですが、それがイベントでは大変でした。

というのも、環境省様がこのモデル事業をされて2年目になるんですが、実はこの2年間の中でイベントのような無形商材は弊社が初でした。通常バウンダリー設定は「製造→物流→使用→廃棄→リサイクル」という5つのフェーズに分けるのですが、イベントの場合はこれに綺麗には当てはまりませんでした。どこからどこまでを算定の範囲に含めるかを決めるのがチャレンジングでしたし、1番特徴的だったかなと思います。

ーー今回の算定では範囲をどこからどこまでにされたんですか

今回のイベントでは、イベントの企画の段階から、前日の設営、そして当日使用した資材の廃棄、リサイクルの一連の活動を算定の範囲としました。

どこから始めるかが鍵だったのですが、今回は環境省様とモデル事業を支援されていたボストンコンサルティング様とよく相談をした結果、イベントのキックオフのミーティングから計測をスタートさせることにしました。イベント前日や当日の算定内容として、一人一人の移動手段を出来る限り正確に計測したり、当社メンバーだけではなく関係者として携わっていただいた企業の方々にも情報提供をしてもらう為に事前に説明するという事も算定の為に必要な過程でした。

また、イベントに関する資材などを輸送する際に、 様々なものをいろんなところから手配するのですが、1つ1つのものの材料・重量・運ばれた手段や距離を計測しなければいけなかったところもとても時間が掛かりました。

ーー今回の算定の結果とそこからわかったことについて教えてください

今回の1日開催のトークイベントから排出された GHG(温室効果ガス)の排出量は、「7,167kg-CO2eq」でした。日本国内でイベントのCFP算定の前例がまだ少ないので、この数値が多いのか少ないのかの判断が難しいのですが、この結果から様々なことがわかりました。

今回の内訳の中で、一番大きな排出源となっていたのが「人の移動」でした。この部分をもう少し細かく見てみると、対象者の15%が利用した車からの排出量が90%を占め、主に関係者による利用ということがわかりました。つまり全体の約半分の排出が15%しかいない人の車から排出されていたのです。この部分への対策として、なかなか車以外の代替手段を探すのが難しい為、燃料部分をガソリンから電動車両(EV)へと変更する事で削減を見込んでいき、EVの普及状況などもしっかりと情報収集をしていきたいと思います、

次に約30%を占める原材料というのは、会場の備品等の制作物、スタッフ・関係者の方にお配りしたお弁当や飲み物などが該当します。中でも、お弁当の部分で実は削減の努力をしようと思いまして、動物性のたんぱく質を含んだものではなく、ビーガン弁当を手配しました。しかし、モデル事業の中で使用しているデータベースではお弁当の材料まで分類されておらず、逆に計算の単位が金額だったので、単価の高いビーガン弁当にしたことで、排出量が増えてしまう結果になりました。このことから、削減の努力はしたんだけれども、算定の実態として、 その使える係数によって制限が今のところはあるんだなというような学びになりました。

また、「廃棄/リサイクル」が0.9%と少ないですが、これは出来る限りシングルユースの制作物を避け、備品などは繰り返しの使用をしたり、レンタル製品を採用したことで、「廃棄・リサイクル」からの排出量は全体の 1%未満となりました。具体的な一例として、会場で提供していたドリンクのカップはその後リサイクルが出来るように回収をしています。

ーー今後日本でCFP算定が広まっていくためには何が必要だと思われますか

海外ではCFP算定用のツールが沢山あり、業界ごとに推奨されているツールもあったりします。その点で言うと、日本よりもCFP算定に挑戦しやすい環境が海外にはあるのかなと感じています。

また、CFP算定をするにあたってコンサルティング会社の方のサポートを得たり、認証していただいたりなど、費用がかかりますし、時間と人的リソースもかかりますがまだ利益に直接結び付くわけではなく、法制化や業界としてやっていきましょうというムーブメントも大きく動いていないので、環境問題について意識の高い企業でないとなかなかやれない状況です。

例えば、業界内でバウンダリーの設定があるだけでも、取り組むハードルは下がると思いますし、業界内でのデータとして一貫性も出るので、早く日本でもそういった動きを進めていかなければいけないなと感じています。

2026年のカーボンニュートラル広告プランを目指して

ーー2026年には貴社メディアでの宣伝、イベント実施に際して排出されるCFPを算定して実質ゼロにできる広告プランの提供を通じ、広告主様のプロモーション活動における脱炭素化支援を目指しているとされていますが、こちらの詳細について教えてください

こちらは「カーボンニュートラル広告プラン」と言いまして、広告主様に対してのソリューション提供を目指しています。具体的には、広告を出稿いただいた際のコンテンツ制作や雑誌製造、デジタル媒体の運用、イベントを開催した時に出る温室効果ガスを算定し、できる限り減らせるところを減らしていくといった広告プランとなります。

広告主様から見ても、当社のメディアへの出稿やイベント開催依頼などのプロモーション活動は広告主様のスコープ3(製品の原材料調達から製造、販売、消費、廃棄に至るまでの過程において排出される温室効果ガスの量。また、事業者の活動に関連する他社の排出)に該当します。だからこそ、広告出稿やイベント開催依頼の部分でも温室効果ガスの削減や算定をしていかなければならないというニーズに対して応えられるようなプランにしたいと考えています。

ーー2026年からのスタートを目指されているかと思いますが、現在の進捗率はどれほどなのでしょうか

50%でしょうか。それぞれの算定対象のロジックやデータ収集範囲などに関するノウハウはたまってきているのかなと思います。

残りの50%はもっと精度や速度をあげていくことになります。

現状では算定に不慣れであったりもっと様々な知識や経験を増やす必要がありますのでそこをもっと伸ばしていきたいです。また、どこで削減していくのかといった知見を深めていくことも必要だと考えています。

ーー今後の戦略・展望について教えてください

メディア企業として当社が最も力を発揮できるのは、メディアの発信を通した啓発活動だと思います。当社は幅広いジャンルやチャネルを持っているので、その中で脱炭素などのサステナビリティに関するコンテンツを日々強化しようと考えています。ライフスタイルなどの楽しい情報を通して、どんどん読者の方にサステナビリティを知っていただき、リテラシーをあげていただいたり、行動変容に繋げていただきたいというところもあるので、今やっていることをさらに強化することがすごく重要だと思います。

CFP算定に関しては、前述した通り2026年でのカーボンニュートラル広告プランのスタートを目指して、精度と速度をあげていきたいです。モデル事業の中で算定した「ELLE ACTIVE! FESTIVAL 」が今年も6月末に行われCFPも算定するので、昨年の数値よりもいい結果となるように取り組んでいければと思います。

「ELLE ACTIVE! FESTIVAL 2024」の詳細についてはこちらから

さいごに

CFP算定を行っている企業が日本ではまだ多いとは言えないものの、算定したからこそわかることや個々人の意識の変容などCFP算定を行うメリットを沢山知ることのできたインタビューでした。

ただ、記事内でもおっしゃっていたように、金銭面や時間・リソースもかかり、どうやればいいのかわからないところも多いと思うので、業界内でのノウハウの共有やパートナーシップを結んでいくことが必要なのだと感じました。

2026年でのカーボンニュートラル広告プランスタートを目指し、今後もCFP算定に力を入れて取り組んでいくハースト婦人画報社には期待が高まるばかりです。

 

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