共感力とアントレプレナーシップが重要|国際協力に求められる力

2022.03.15

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【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈

就活などを通し、これからの人生設計を考える上で、漠然と国際的に活躍したいと考えている人や、国際協力の仕事を1つの選択肢として考えている人も多いだろう。

一口に国際協力といっても、具体的にどのような職種やキャリアがあるのだろうか。

今回は、JICAの特別インタビュー第3弾として、国際協力に関わる仕事をテーマに、認定特定非営利活動法人日本ファンドレイジング協会の鵜尾さん、JICA開発協力人材室の白石さんの2名にお話を伺った。国際協力にはどんな仕事があるのか、国際協力に携わる上で求められる力とは何か探る。

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国際協力を仕事にしたいと思ったきっかけとその後のキャリア形成

ーーお2人の自己紹介をお願いします。

鵜尾:鵜尾と申します。

新卒でJICAに入構し、39歳で退職後、国際協力や国内の課題など、社会問題を解決したいという人々をコンサルティングする、NPOやソーシャルビジネス専門のコンサルティング会社を立ち上げました。

また、会社設立の翌年に、日本ファンドレイジング協会という、社会問題解決における税金以外の寄付や社会的投資などのお金の流れを生み出すプラットフォームを立ち上げ、現在、代表理事を務めています。

さらに、インパクト投資という、経済的リターンと社会的リターンの両方を実現する、投資のグローバルなプラットフォームであるGSG(The Global Steering Group for Impact Investment)の理事も務めています。ここでは、先進国、途上国に関わらず各国がフラットに学び合いながら、どうしたら持続的なお金の流れができるのかを考えています。

白石:JICA人事部 開発協力人材室で、国際キャリア総合サイト 「PARTNER」を担当しています、白石と申します。

PARTNERは国際協力の分野で活躍したい人とそういった人材を求めている企業・団体をつなぐ「国際キャリア総合情報サイト」です。

国際機関やJICA、NGO、開発コンサルティング企業だけでなく、民間企業や地方自治体、大学なども登録されていて、オールジャパンの国際協力を推進することを狙っています。 国際協力を実施する団体は2100以上、個人の会員登録者数は5万人以上います。

開発途上国での事業を支えるのは、事業に関わる「人」です。現地での事業に関わる人は、実態として、JICA専門家や企画調査員等の有期雇用のポストが多くなっています。開発協力人材室は、このような方々が中長期的に国際協力に携われるように、また、携わる人材を増やしていき、開発途上国での事業の質を高めていくための部署です。

ーー鵜尾さんが国際協力に関わったきっかけを教えてください。

鵜尾:国際協力との関わりは、大学時代にバックパックで開発途上国を旅して回ったことです。

大学時代、将来は漠然と商社に就職するのかな、海外で仕事をしたいなと思っていました。しかし、開発途上国でのバックパッカー経験を通して、貧困などの大変な状況を目の当たりにし、旅で出会った貧しい子どもたちが、より元気に、世界中の人たちと関われるようにしたいと考えたところ、JICAを見つけました。さまざまな国際協力の手段がありましたが、自分がJICAを国際協力で世界一の組織にしたいと思い、JICAに入構しました。

入構後は、世界中で仕事をしていましたが、バブル崩壊や少子高齢化など、実は日本も課題だらけだということに気がつきました。日本を世界一の国際協力国にするためには、国内の社会課題解決の構造をアップデートし、それを国際的に伝えていく重要性を感じたため、JICAを退職し、コンサルティング会社を立ち上げました。

ーーJICAでは具体的にどのような国際協力の仕事をしていたのですか。

鵜尾:初めは医療協力関連の部署に所属していました。

私が専門家として何かをするというよりかは、ファシリテーター* 役として、現場に行きたい国内の医者と現場のニーズを繋ぎ合わせる仕事をしていました。

また、人材開発に関する仕事をしていたこともありました。

キャリア相談や国際協力をしたい若者向けに全国でキャリアセミナーを行いました。国際協力への意欲があり、能力のある人はたくさんいるので、その人たちと現場をどう最適に結びつけるかを考えて取り組んでいました。こうした若者の中には、青年海外協力隊のように現場に行きたい人もいれば、裏方でファシリテーター役をしたいという人もいました。

ファシリテーター* :集団活動がスムーズに進むように支援する行為(ファシリテーション)を、専門的に担当する人物。

ーー次に、白石さんが国際協力に関わったきっかけを教えてください。

白石:昔から世界の情報を発信するテレビ番組を見ていて、世界への興味関心があったことと、人と人を繋ぐ仕事がしたいという思いが芽生えた出来事があったことがきっかけです。

大学時代は、大学の農学部で生命科学などを学びながら、農学部の国際交流サークルに所属していました。サークルでは年に1回、海外農学部生を、拠点であった新潟に招聘し、研究発表やディスカッション、近隣の農業関連施設見学など行う国際シンポジウムを行なっていました。しかしながら、私が大学3年生のときに、大学側から費用の観点から実施が難しい旨、言い渡されてしまいました。

当時サークルの同期と議論を重ね、「海外の学生との知的な交流をしながら日本の高い技術や丁寧さを伝える国際シンポジウムを終わらせてはならない」と考え、民間財団の助成金への申請による資金調達を模索しました。

応募しようとした助成金の過去の採択事業を見てみると、学生が運営する国際交流プログラムのような類似のイベントが実は何件かあり、採択されるためには何かしらの独自性が問われました。

そこから検討を重ねた結果、「農業が盛んな新潟」「新潟の地域活性化」を打ち出す、産官学を巻き込んだ取り組みを企画に入れ込むことにしました。内容は、農産物の海外輸出に力を入れる行政、食品の海外展開に力を入れる食品製造企業とタッグを組んだワークショップとし、両者ともに、外国人の味の志向に関する情報を求めていたため、国際シンポジウムに参加する海外農学部生に、味の志向を探るためのパネラーになってもらいました。

こうした経験を通して、さまざまな人、組織を巻き込んで従来にないものを作り上げていくことの楽しさや醍醐味を知り、人と人、組織と組織を繋ぐ仕事を、世界を舞台に取り組みたいと思い、国際協力の仕事を志しました。

国際協力のキャリアデザインを考える|多様な国際協力との関わり方

ーーこれから国際協力に関わりたい人も多いと思いますが、実際にどのような関わり方があるのでしょうか。

鵜尾:私がJICAで人材開発の仕事をしていたのは17〜8年前のことですが、当時に比べて現在は多様な国際協力のチャンスがあり、大きく以下の3つに分けられると思います。

➀国際機関やJICA、NGO、NPO、地方自治体などの機関、組織において行う国際協力
②SDGsや社会貢献などのために企業が行う国際協力
③テック系ベンチャー企業の開発途上国での社会課題解決型ビジネス展開

国際協力というキャリアを選んだときに、今はどこのエントリーポイントから入ってもチャンスがあります。国際機関やJICAに入っても、JICA海外協力隊に参加しても、あるいは企業に入っても、国際協力におけるキャリア設計の可能性は広がっていて多様になっていると思います。

また自分の人生において国際協力にどの程度投資したいか(携わりたいか)の観点から国際協力のキャリアを考えることもできます。人生の全てという人もいれば、自分の生活や仕事があって一部だけ国際協力に携わりたいという人、国内や一般の人にも役立つようなテクノロジーをうまく生かして国際協力にも繋がれば良い人などもいると思います。

国際協力への関わり方は現場との距離感によっても違ってきます。現場に行って誰かを喜ばせたい、何かをしたいのであればJICA海外協力隊、JICAの専門家、NGOなどで開発途上国の現場に携わるなどの道があります。この場合、何らかの専門性の軸が必要なので食や環境、水など現場で使える知見を学ぶ必要があります。国際協力の案件をファシリテートする側であれば国際機関やJICAの職員、世界銀行などの国際金融機関などで全体設計を考えていくキャリアがあります。また、医者やテック系などの専門性の高い技術を極めていき、国際協力に生かす方法もあり、この場合、特定の領域で自分の技術を高めていく必要があります。

一方、日本も課題は山積みなので、日本国内の医療、高齢化、地方創生などの課題を解決し、その経験が国際協力にそのまま生きることもあります。国際協力の入り口として、国内の課題解決をするのも1つの手です。

このように今は、国際協力におけるキャリア形成は多様になっています。自分に合う関わり方を考えて、国際協力を見つめると面白くなるのではないでしょうか。

ーー国内の課題解決も、開発途上国など海外での課題解決にとって重要なんですね。

鵜尾:国際協力はクリエイティヴな領域であり簡単な正解はありません。ひとつの制度ができたからといって、ひとつの問題が解決することでもありません。それは開発途上国でも先進国でも同じことです。

行政、企業、NPOなどの組織や、法制度、技術などのさまざまな要素が動かないと変わらないので、課題解決のために全体をデザインする力が必要です。また、解決方法が現場の人々にとって意味がある必要もあります。つまり、現場感と全体感を持っている人が強いと思います。

分断やサイロ化していては解決不可能なことが多いので、その枠を越えていけることが必要です。若い人はそのような感覚を基本的に持っていることが多いので忘れないでいることが大切だと思います。

そういう意味において、国内の課題解決も国際協力の入り口になります。

ーー国際協力に興味のある人は何を学べば良いのでしょうか?

鵜尾:「共感力」と「アントレプレナーシップ」の2つだと思います。

1つ目の共感力では、単に統計情報からではなく、現場の状況への共感的な観察から直感を得て、問題解決することが必要です。それなくしてさまざまなプレーヤーが、さまざまに対応するとかえって現場は大混乱になってしまいます。また、いろいろな人を巻き込んでいく力にも共感力は必要です。

共感力は、スキルであり身につけるには訓練が必要です。開発途上国の人とはバックグラウンドも異なるので、浅い共感に留まることなく、しっかり観察して、深く課題を理解することが大切です。例えば現場に行ったり、異文化の友達の話を聞いてみたり、さまざまな方法があります。

2つ目のアントレプレナーシップとは、自ら新しい何かを生み出せる、起業家のような精神をもって行動できる人を指す言葉です。

組織にはそれぞれの制限があると思いますが、制限を突破して物事を実現するには起業家精神が必要であり、組織内アントレプレナーになることが重要です。それこそ白石さんの経験のように、大学時代に困難を乗り越えた経験は、組織内アントレプレナーに通じることです。

また、これら2つ以外にも、開発途上国の国際協力でキャリアを繋ぐには国際関係論、開発論などを勉強することも重要ですが、現場で役立つような教育や保健といった専門分野を学ぶことも必要です。

ーーさまざまな国際協力のキャリアがある中で、お2人が最初にJICAを選んだ理由を教えてください。

白石:学生時代に、農村地域の地方創生活動を通じて、国内の課題に携わっていたため、「日本のために何かをしたい」という思いが強く、政府機関が良いと思いました。先ほど述べた大学での農業分野の国際シンポジウムの実施においても、運営や企画をする立場だったので、現場というよりも事業・案件を作る、マネジメントする立場が向いていると思いました。

また、JICA職員の人の良さ、多様さにも大変惹かれました。数名の方とOB訪問をさせていただいたのですが、みなさんそれぞれ違うキャリアパス、部署異動を経験されてきておりましたので、経験談を伺う度に、新しい発想やワクワクするような発見がありました。JICAを強く志したきっかけはこういった方々とコミュニケーションをとりながら、日々ワクワクしながら仕事をしたいと思ったことでした。

鵜尾:JICAの人は、自分の価値観や生き方、国際協力の付き合い方に対して俯瞰的に考えている人が多い印象があります。

また、JICAは国際協力に関して、ありとあらゆるタイプの事業をしているので、自分がいろいろな経験を積んで成長できると思いました。私は漠然と日本の国際協力を良くしたいと思っていましたが、自分が具体的に何を結果として残したいか、何ができるのか、初めはわかりませんでした。

JICAに入ったことによって、いろいろな人とさまざまな事業に出会えるので、その中で「日本の課題を解決したい」という自分の役割が30代になって明確にわかるようになりました。

多様化する国際協力の道|ファーストキャリアをどう選ぶ?

ーー最後に読者へメッセージをお願いします。

白石:国際協力への関わり方は、国際機関や政府機関に入ることや開発途上国の現場で事業を実施する開発コンサルタント、国際NGO、専門家になるというだけではなく、ビジネスで開発途上国支援、開発途上国での経験を国内の課題解決に活かす外国人材支援などでも可能で、非常に多様化しています。

多様化している今、ファーストキャリアはどうすればいいのか、迷われている就活生の皆さんも非常に多いのではないでしょうか。
私自身も就活しているときに非常に悩みました。

しかしながらこの業界は、鵜尾さんのように、自分の所属や立場を変えながら、キャリアを積んでいくような方々もいらっしゃいますので、ファーストキャリアに正解も不正解もない、と考えて良いと私は思います。

また、JICA職員を1年間経験してきて思うことは、この業界は、人を育てる文化がとても根強いということです。私の指導担当でないJICA職員からアドバイスをいただいたり、組織を超えて開発コンサルタントや専門家の方も気づきの点などを共有してくださったことがあります。この業界の先輩方は、皆さんのファーストキャリア選択の悩み、迷いに寄り添い、的確にアドバイスしてくださると思います。ぜひ、いろいろな方の話を聞いてみてはいかがでしょうか。

PARTNERでも、豊富な経験を積んだ職員が1時間程度で細やかにアドバイスをするキャリア相談を実施しているので、その他のキャリア図鑑・コラムと合わせて、ぜひご活用ください。

鵜尾:国際協力のキャリアは人生を通じた1つの旅のようなものだと思っています。

JICAに入るといろいろな経験ができ、JICAの中で旅ができます。休職して、専門家やJICA海外協力隊員になる人もいます。こうした点で、自分の旅の設計がしやすい組織だと感じますし、旅の設計を自分の中でイメージできるととても良いのではないかなと思います。

また、JICAは企業、学校、研究機関、開発コンサルタントなどさまざまな団体・組織とパートナーシップを組み、委託をしたりして事業を行なっています。こうした関係のある組織を調べてみるのも良いと思います。

自分の興味関心と、腑に落ちる感じで決めるのも良いと思います。私の場合、英語が得意ではなかったので国際機関は遠すぎると感じました。JICAに入社後、とても苦労しましたが、自分の距離感と合わせてロールモデルを見つけられれば、読者のみなさんにとって自分らしい国際協力との関わり方や距離感が分かると思います。

キャリアは偶然もあるので、その瞬間、瞬間で共感性とアントレプレナーシップを持って一生懸命行動していたら、必ずチャンスが来ます。

さいごに

お二人の話を聞いて国際協力への関わり方は現場に行くだけでなく、さまざまな関わり方があり、自分に合った形を探すことが重要だということが分かった。

課題に関する全体像を見てデザインする力、共感力やアントレプレナーシップが必要だという話は、国際協力だけでなくこれから何かを成し遂げる全ての人に共通して必要な力なのではないだろうか。

将来の人生設計を考えるにあたって、非常に貴重なお話を伺うことができたので、国際協力や人生のキャリアを考える上での参考にしてほしい。

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