投資家にとって、どの企業に投資をするのか決定する際に重要な判断材料となるESG情報。近年、世界的にも、こうした企業の非財務情報の開示は主流になっている。
今回は、ESG情報開示支援クラウドの「SmartESG」の開発・提供を行っているシェルパ・アンド・カンパニー株式会社の杉本氏を取材した。
さまざまな企業がESG経営を求められている中でシェルパ・アンド・カンパニーはどのような社会を目指しているのか、企業がESG・非財務情報開示に取り組むことに対しての考え、これからの展望を伺った。
企業の価値を向上できるサービスを。
ーー自己紹介をお願いします。
杉本:シェルパ・アンド・カンパニー代表の杉本です。
会社の名前に入っている「シェルパ」とはヒマラヤ登山などの登山客をサポートするネパール民族を指します。ヒマラヤのような、高みを目指している人々や企業の成功を手助けしたいという思いを込めています。
ーー事業内容やビジョンについて教えてください。
杉本:ESGの経営推進のSaaSを運営しています。
2022年5月からESG情報の収集・開示プロセスの効率化・可視化を目的としたサービス「SmartESG」のβ版の提供を開始しました。また、2021年の6月にリリースしたメディア「ESG Journal Japan」では、ESG・サステナビリティのグローバルの動向を日々配信しています。
経営のミッションには「ESG・サステナビリティ経営をテクノロジーの力で加速する」を掲げています。1年ほどかけてさまざまな企業・投資家様に対してヒアリングさせていただいたところ、企業が必然的にESG・サステナビリティ経営に取り組まざるを得ない状況になっています。
現在は、働き方改革によって労働時間が大幅に減少している中で、企業の経営陣はより多くの時間を使ってESGにおける幅広い情報をキャッチアップして各事業ごとコミュニケーションを取り、ESG経営を行うことを迫られています。
ESG経営では、情報開示まわりのプロセスをはじめとする、大変な作業や定型作業が多くあります。本来は高付加価値なデータの作成や会社の経営戦略にESGをどう織り込んでいくか、といった課題に対してアプローチすべきですが、あまり時間をかけれていないといった企業の現状を目の当たりにし、「SmartESG」を立ち上げました。ESG経営において、定型化されていた部分をテクノロジーで代用して、より高度なESG経営の推進になるように企業が力を発揮できるような環境を作りたいです。
ーー「SmartESG」について教えて下さい。
杉本:会社に散らばっているESG情報を一元化して分析・改善可能なプラットフォームを提供し、全社一体となったスクラムESG経営を実現するクラウドサービスです。
このサービスは社内の非財務情報を収集して、評価機関や投資家に回答を開示をします。また、評価を受けて、なぜそのスコアになったのかを分析をしています。
ーー企業の非財務情報開示に関して、今までにどのような課題がありましたか?
杉本:事業会社が開示するESG情報の幅が広いという課題があります。例えば投資家から環境のことを聞かれたら、環境の部署の方からの情報提供が必要で、人事データを開示しないといけなくなったら人事の方からの情報提供が必要になります。社内の多くの部署との連携が必要になる点が課題になっています。
また、評価機関や投資家の数がとても多く、似たような質問がかなり飛んできたり、担当者の異動が起こったりするので、去年の担当者がいなくて提出したデータのバックアップがないなど、アナログで個人的な管理をしていることが壁でした。さらに、今までESG経営があまり重要視されておらず、会社の中で大事だといった意識がそもそも欠如しているので、ガイダンスがないと何を準備していいか分からないというコミュニケーション面での齟齬も起きていました。
ESG推進に専念できる環境をつくり、生産性を向上する。
ーー「SmartESG」以前に同様のサービスはありましたか?
杉本:2021年にコーポレートガバナンスコード* が改革され、気候変動や人的資本に関してきちんと開示をしようという風潮になる前はESG経営のサービスはあまりありませんでした。
非財務情報の開示が積極的にされている背景には、2050年までのカーボンニュートラルに向けた宣言の中で、有価証券報告書上での開示が義務化される流れが作られ、開示の機運が高まったとことにあると考えています。
コーポレートガバナンスコード:上場企業が行う企業統治(コーポレートガバナンス)においてガイドラインとして参照すべき原則・指針を示したもの。
ーー今後、どのように「SmartESG」を活用していきたいですか?
杉本:多くの企業において、サステナビリティ部署の方々が、事業部と経営陣の間に挟まれて苦しんでいるという現状があります。
このような課題を「SmartESG」で解決したいと考えています。まずは独自のESGベースを社内に作り、このESGデータをひとつのプラットフォーム上で管理するデータベースを提供します。どの部署からでも必要なデータに瞬時にアクセスすることができるようにして、足りない情報を集める際に、他の部署に簡単に依頼収集できるようになります。部署間、地域も含めて、データ共有が容易になってより全社一体となったESGの情報管理開示が可能になります。
また、他社の非財務データ、スコアリング、財務評価などをAIが自動抽出して比較することで、改善案を立案する機能なども提供したいと思っています。
ーー最後に、今後の展望を教えてください。
杉本:市場価値という面では、「SmartESG」の導入により、企業の特定の部門だけではなく、経営陣・サステナビリティ担当部・事業部のそれぞれに大きなメリットがあると考えています。
経営陣においては、回答・スコア・ニュースをリアルタイムで手元にあるような状態を実現し、ESGにおけるスピーディーかつ高精度な意思決定を実現することができます。サステナビリティ部署は、今までの回答集計作業から脱却して、マテリアリティの策定や未来に向けた高付加価値の推進作業にリソースを割けるようになります。事業部では、過去の回答や他社公開データに基づく指針が用意されており、ESG情報の重要性をこれまで以上に理解した上で情報開示作業に臨む準備ができます。
これらの三者に提供する価値を通じてそれぞれの業務の質を高めて、強靭かつしなやかなESG経営を実現することが今後の目標です。「SmartESG」を利用していただき、全社一体となったスクラムESG経営を実現することで、情報開示の質の向上と、結果として市場からの評価の向上につなげていきたいです。
また、外部連携という観点では、企業だけではなくて評価機関、投資家と連携をしていくことで「SmartESG」をより社会に必要なものにしていきたいと思っています。
β版の導入をしていただいた企業様からフィードバックを受けながら、時間をかけてよりブラッシュアップしていきます。改善点を考慮しながら、AIベンチマークやダッシュボード機能などをより洗練させていきます。
さいごに
ESGの注目が急激に高まり、企業は変動する社会への対応に追われている。しかし、ESGに関する情報開示のノウハウは、まだオープンになっておらず、各社が試行錯誤を繰り返しているのが現状だ。
真に持続可能な社会を実現するには、社内の非財務情報を一貫して管理し、経営に反映できるプラットフォームをつくり、ESGに関する業務を標準化していく必要がある。
企業のESG経営における課題をテクノロジーの力で解決し続けるシェルパ・アンド・カンパニーにこれからも注目したい。