【更新日:2023年4月17日 by 中安淳平】
あらすじ
22歳のおきく(黒木華)は、武家育ちでありながら今は貧乏長屋で父(佐藤浩市)と二人暮らし。毎朝、便所の肥やしを汲んで狭い路地を駆ける中次(寛一郎)のことをずっと知っている。ある時、喉を切られて声を失ったおきくは、それでも子供に文字を教える決意をする。雪の降りそうな寒い朝。やっとの思いで中次の家にたどり着いたおきくは、身振り手振りで、精一杯に気持ちを伝えるのだった。
江戸末期、東京の片隅。おきくや長屋の住人たちは、貧しいながらも生き生きと日々の暮らしを営む。そんな彼らの糞尿を売り買いする中次と矢亮(池松壮亮)もまた、くさい汚いと罵られながら、いつか読み書きを覚えて世の中を変えてみたいと、希望を捨てない。お金もモノもないけれど、人と繋がることをおそれずに、前を向いて生きていく。そう、この「せかい」には果てなどないのだー。
引用:映画『せかいのおきく』公式サイト (sekainookiku.jp)
「YOIHI PROJECT」第一弾としての『せかいのおきく』
この映画は、気鋭の日本映画製作チームと世界の自然科学研究者が連携して、様々な時代の「良い日」に生きる人間の物語を「映画」で伝えていく「YOIHI PROJECT」の記念すべき第1作目となります。
このプロジェクトの発起人は日本を代表する映画美術監督・原田満生氏です。「せかいのおきく」の企画・プロデューサー、美術監督も務めています。名だたる映画監督とタッグを組み、数々の賞を受賞してきた美術監督が志を持ったものづくりで次世代にメッセージを伝えていきます 。それに賛同した日本映画界気鋭のクリエイター、俳優たちが集結し、地球環境を守るために考えたい課題を、そして様々な時代や地域に生きる人間を描くことで誰もが共感できる物語を創作します。
また、「せかいのおきく」の世界から生まれた絵本『うんたろう たびものがたり』を原作としたアニメ「うんたろう たびものがたり」、
■YOIHI PROJECT 作品集 動画配信サイト U NEXT リンク
現代が目指すべき江戸時代の循環型社会
この映画では、江戸時代の農作物における循環構造が強く描かれています。人の糞尿を発酵させた後に肥料として畑にまき、野菜を育てる。その野菜が人々の口の中に入り、また糞尿となる。人の糞尿だけでなく、死んだ後の人間の身体も土に戻って、自然に還り、栄養となる。限られた資源の中で生きていくために使えるものは何でも使い、土に戻そうという文化が浸透していたのです。
映画の主要人物である中次と矢亮は江戸の循環型社会形成において重要な役割を担う下肥買いと呼ばれる商人を演じます。彼らは人の糞尿を買い、農家に肥料として売ることで生計を立てています。臭い汚いと罵られながらも、懸命に生きようとする彼らの姿をぜひ目に焼き付けてください。
江戸時代にはない言葉が飛び交う
この映画の舞台は江戸時代末期ですが、江戸時代にはない現代風な言葉が飛び交います。特に中次と矢亮のやり取りは見ていて思わずクスッとなる場面が多い印象でした。
江戸時代を思わせる着物とモノクロの映像ではありますが、現代風な言葉が使われていることによって、映画で描かれる時代がそう遠くないように感じてしまいます。まさに新しい時代劇の誕生と言えるのではないでしょうか。
現代風の言葉だけでなく、登場人物一人一人のセリフにしっかりメッセージが込められているので、そこにも注目して見て頂きたいです。
おわりに
この映画は江戸の循環型社会にだけフォーカスしているのではありません。強くたくましく生きる長屋の住人たち、溢れ出る彼らの人情、そして若者たちの恋愛までも描いています。特に後半の声を失ってしまったおきくと、中次の音声の無いシーンは必見です。メッセージ性もありながら、時にコミカルに、時にシリアスに進んでいく映画「せかいのおきく」をぜひ劇場でご覧下さい。
SDGs CONNECTライター。大学では都市政策系のゼミに所属し、都市を経済学的な視点から捉えながら学んでいる。Mr.Children大好き。歌うのも好き。