【SDGs事例集】次世代の最強資源”藻”を石巻から世界へ|イービス藻類産業研究所

2023.05.17

この記事をSNSでシェア!

 

【更新日:2023年5月17日 by 中安淳平

昨今、環境や食に関する問題が日々様々なところで取り上げられています。 その中でも最近メディアでよく目にするのが、「人口に対してタンパク質の需要と供給のバランスが崩れる」というタンパク質危機問題です。タンパク質危機は2050年までに起きるのでは、と欧米を中心に議論されています。また、現代の食生活におけるタンパク質摂取は食肉に大きく依存しています。肉消費の増加には限度があるため、人口増加を支えるタンパク質の確保という意味では食肉がボトルネックになっています。

そんな中、この問題の救世主となるのではないかと注目を集めている食材があります。それが “ナンノクロロプシス” という藻の一種です。宮城県石巻市にあるイービス藻類産業研究所はナンノクロロプシスを世界最高峰の技術で研究・培養を行い、このタンパク質危機問題に立ち向かっています。

ナンノクロロプシスとは?

微細藻ナンノクロロプシスは、直径 2〜5μmほどの小さな海の植物プランクトンです。

自然界には30万種以上の藻が存在すると言われており、近年では食用として販売されている藻も何種類かあります。その中でもナンノクロロプシスには、他の藻と比較した際に非常に優れている点が2つあります。それは、葉酸とEPAの含有量です。葉酸とは、免疫細胞が抗体をつくる時に欠かせない成分であり、赤ちゃんの新しい細胞が作られる妊娠期や授乳期の母親にとって不可欠な栄養素です。EPA は「必須脂肪酸」と呼ばれ、血管・血液の健康維持に非常に重要な成分であり、「血液をサラサラにする」「心臓病・ 脳梗塞を防ぐ」といった重要な効果があります。

出典:https://www.ebisalgae.com/nannochloropsis/

上の画像を見てわかる通り、ナンノクロロプシスはタンパク質のほかにも様々な栄養素を含んでいます。また、生育環境にも特性があり、他の藻は 南の温かい海で育つのに対し、ナンノクロロプシスは北の寒い海で育ちます。寒い海で育つことで、油分を豊富に含んでいるのです。

食材としての可能性

タンパク質と豊富な栄養素を含むとはいえ「藻を食す」ということに抵抗があったり、「どのように食べるのか」と疑問に思われる方も多いのではないでしょうか。しかし、藻の製品はそのほとんどが粉末状であり、水に溶かして飲むこともできます。一杯で多くの栄養素を摂取できるため時間のない現代人にもピッタリです。また、粉末状なのでいつもの料理に少し加えるだけで栄養食に早変わりさせることもできます。味噌汁に加えればさながら「アオサの味噌汁」のようになり、おすすめです。

イービス藻類産業研究所の概要

イービス藻類産業研究所は微細藻ナンノクロロプシスを効率的に生産する技術開発に取り組み、商業生産の低コスト化を進めながら加工・販売を行っています。栄養素を豊富に含むナンノクロロプシスから機能性食品や化粧品の原料としての利用を促進し、世界一の培養・生産技術を確立していくことで環境社会への貢献を推し進めています。

2011年の東日本大震災で甚大な被害を受けた宮城県石巻市。震災後、石巻市から耕作不適地の活用と石巻の新たな産業の創出のため、石巻の方たちと共に立ち上がりました。職員の多くが石巻市出身で、震災で職を失った人もいましたが、「石巻の雇用を増やすことで復興にも貢献できる。石巻の力で世界に通用するような研究をしていきたい」と考えています。

イービス藻類産業研究所の会社概要

会社名 株式会社イービス藻類産業研究所
代表取締役社長 寺井 良治
会社役員 取締役CTO 井上 元 博士(理学)
取締役   村山 宏
CSO    並木 幸久 博士(工学)
監査役   大橋 一彦 
資本金 3億2,000万円
設立 2018年6月20日
事業内容 クライメートテックの研究開発

カーボンクレジットの創出と販売

微細藻類の屋外培養・処理技術の研究・開発・実験及びエンジニアリング業務

微細藻及びその関連商品の開発・生産・加工・販売

バイオ燃料及びその関連商品の開発・生産・加工・販売

医薬品、オメガ3、キノコ菌類及びサプリメントの製造・販売

藻関連商品及びサプリメントの輸出入・販売

社会貢献事業の支援

イービス藻類産業研究所の事業紹介

イービス藻類産業研究所はナンノクロロプシスを様々な分野で活用しています。そのいくつかを紹介したいと思います。

家畜・水産養殖飼料

  • 家畜の飼料へのEPA・タンパク質の添加として。養鶏飼料としてEPA強化卵が可能。ナンノクロロプシスを加えた飼料により鶏の産卵期間が延びたとされています。
  • 稚魚養殖の際の餌料であるワムシの餌として、EPAを豊富に含むナンノクロロプシスを与え栄養強化を図ります。ワムシの他にも稚貝、稚蟹などの養殖にも用いられています。
  • 成魚養殖においては大量に安く捕獲できるアンチョビ等の小魚が用いられていますが、漁獲量が不安定で近年は急激に減少しています。そのため、代替飼料としてオメガ3やタンパク質を豊富に含むナンノクロロプシスなどの微細藻類が注目されています。

水産養殖飼料として使われるフレッシュナンノ(冷蔵生ナンノ)

出典:https://www.ebisalgae.com/nannochloropsis/

機能性食品

ナンノクロロプシスのEPA・パルミトレイン酸等の成分を利用したサプリメント、健康食品、化粧品、医薬品などが商品化されています。

農業

・ナンノクロロプシスの栄養を含んだ肥料を使用することで農作物に好影響を及ぼします。

ナンノクロロプシスとSDGs

ナンノクロロプシスは様々な分野でSDGsに貢献しています。

第3目標  すべての人に健康と福祉を


ナンノクロロプシスにはタンパク質、糖類、オメガ3脂肪酸、ビタミン、ミネラル等、人体に必要な栄養が豊富に含まれています。植物由来タンパク質、オメガ3の需要が高まっている現在、人々の健康増進に貢献します。

第7目標  エネルギーをみんなにそしてクリーンに


ナンノクロロプシスには約25%の脂質が含まれ、菜種油、ひまわり油、大豆油、コーン油などを原材料とした液体燃料であるバイオディーゼル燃料に利用することが可能です。実験レベルでは既にナンノクロロプシス由来のバイオディーゼルが試作されています。将来のクリーンエネルギーに貢献します。

第13目標  気候変動に具体的な対策を


ナンノクロロプシスは光合成をして増殖する独立栄養生物で、増殖する際に自身の体重の倍近いCO2を吸収することが可能です。ナンノクロロプシスの生産を広げることを通して同時に脱炭素社会に貢献します。

第14目標  海の豊かさを守ろう


ナンノクロロプシスはこれまで何十年もの間、高付加価値養殖餌料として広く利用され続けてきました。仔魚の生存率や奇形率が改善されます。養殖業を盛り上げ、魚資源の減少等に対応し、豊かな海を守ることに貢献します。

まとめ

イービス藻類産業研究所は、将来私たちの食生活の救世主になり得る最強資源”ナンノクロロプシス”を最先端の技術で研究・培養している事が分かりました。

ケーキや、お味噌汁、ヨーグルトなどの普段の食事にナンノクロロプシスの粉末を加えてあげることで今までの食生活よりも効率的に栄養素を摂取することができ、タンパク質危機問題に対応できるようになります。

食に関してだけでなく、環境においてもSDGsに貢献できるところがナンノクロロプシスの魅力であると感じました。ナンノクロロプシスの今後のより一層の普及拡大が期待されます。

この記事をSNSでシェア!

  • ランキング

    新着記事

    アシックスの新しいランニングシューズNIMBUS MIRAI(ニンバスミライ)

    SDGsの基礎知識

    食品ロスとは?原因や日本と世界の現状、家庭でできる対策を紹介

    もっとみる

    おすすめ