近年、地球温暖化の抑制や環境保護のためにカーボンニュートラルが求められており、政府や企業レベルで取り組みが広がっています。脱炭素化・カーボンニュートラルへのアクションが求められる今、正しい知識を元に取り組みを行うことが重要です。
今回は、日米の中小企業間の販路拡大事業を行ったご経験から、カーボンニュートラルの重要性を知り、自らカーボンニュートラル検定を立ち上げられた一般社団法人脱炭素事業推進協議会の笠原様にお話を伺いました。
農業問題の解決につながる「泥炭」との出会い
ーー笠原様の自己紹介と、SDGs(サステナビリティ)に関心を持たれたきっかけを教えてください
一般社団法人脱炭素事業推進協議会 理事長の笠原曉と申します。IT業界や広告関連の会社などインターネットデジタル業界で働いてきていたのですが、そんな中、『物事の本質』を見極めたいと思い独立しました。その際に、自分が始めたのが販路開拓に特化した会社でした。この会社では、日本とアメリカの中小企業をつなぎ、各種技術やノウハウの販売を行っていました。優れた技術を持つ商材の販路が確立できていない企業を支援したいという思いがあったからです。
そうした中で、アメリカの『泥炭(バイオスティミュラント資材)』を販売する会社と出会い、その泥炭を日本に輸入するという試みを行いました。その結果、育つ野菜の質が向上し、農業問題の改善策が見つかったのです。この事業を約10年続ける中で、その泥炭を用いることで植物が成長する際に二酸化炭素を吸収し、カーボンニュートラルに寄与することが明らかになりました。とはいえ、これを事業として行っている会社は存在せず、また自治体や省庁のスタッフと話をする中で、二酸化炭素吸収の重要性についての認識が人によって大きく異なることを認識しました。
そこで我々が始めたのが、カーボンニュートラル検定事業です。これにより、カーボンニュートラルへの貢献度を可視化することが可能になりました。
ーーなぜ泥炭に関心を持ち、事業を始められたのですか
私が元々IT業界出身で、農業については無知だったことから、泥炭についての知識も皆無でした。しかし、メーカーから泥炭に関する基本的な話が目からうろの事実が多数ありました。その中で泥炭に潜む可能性を感じ取ることができました。それは非常にシンプルな事実で、この泥炭を利用することにより収穫量が飛躍的に増加し、これは食糧問題の解決に繋がるのではないかと考えるようになりました。
また、日本では政策や肥料、農薬、化学薬品など、農業に関する問題が山積みです。しかし、この泥炭の活用はこれらの問題解決に一石を投じるかもしれないと感じました。なんと、アメリカンフットボールのフィールドやエンジェルススタジアムの外野でもこの泥炭が使われているんです。
最初の頃はなかなか商品として売れず苦労しましたが、西日本を中心に徐々にその価値が認知され始め、遊園地のハウステンボスでは園内の土として全てこの泥炭を利用してくれるようになりました。このような経験を通して、私自身も農業や植物成長についての知識が豊富になっていきました。
カーボンニュートラルは大きなビジネスチャンス
ーーESG情報の開示を求められるようになったことをきっかけにSDGsに力をいれている企業が増えてきたように感じますが、笠原様から見て、今の日本の経済やビジネスと環境への関わりというのはどのように映っていますか
個人的に見て、SDGsが直接的にメリットをもたらすものではないと感じています。しかし、SDGsの真の意味を理解すると、ESG投資、M&A、株価などの要素が浮かび上がってきます。それらの背後にはカーボンニュートラルという概念が存在します。SDGsとカーボンニュートラルの違いは、国の法規制や炭素税という税制の問題にあると思います。
近年、製品1つを生産する際に出すCO2量を示す「カーボンフットプリント」証明書が必要となるような状況が進行しています。しかし、これには数多くの問題点が存在します。それでも、2021年のダボス会議で提唱された「グレートリセット」という概念により、これまでの既得権益社が一新される流れが生まれました。
その結果、環境関連分野への投資が増え、新興企業にとっても大きなビジネスチャンスとなりました。つまり、これまでの立場や資源を巡る競争が新たなステージに移行したのです。
ーーカーボンニュートラルに関する知識を持つ人が社内にいるメリットは何だと思われますか
カーボンニュートラルに関する知識を持つ人が社内にいるメリットは、脱炭素化に関する様々な問題を予防できることです。カーボンニュートラルという用語はやや抽象的で理解しづらい部分もあるため、地方ではこれに絡んだ詐欺事件も発生しています。例えば、「近い将来には炭素税が課されるため、今のうちに電気自動車に乗り換えるべきだ」というような誤ったセールスピッチが行われることがあります。そのようなことが起きないためもそうですが、今後身近にカーボンニュートラル・脱炭素に関わる情報の『正・誤』の判断できるひとがいることがメリットになるような社会へとなっていくのではないでしょうか。
用語の変化やルールの頻繁な変動があるからこそ、正確な知識を身につけることが重要となります。それにより、誤った情報に左右されず適切な判断を下すことができるのです。
カーボンニュートラルに関する学びのサイクルと価値を広げていきたい
ーー今後のカーボンニュートラル検定のあり方や目指すべき姿など、展望について教えてください
私たちの団体では、検定事業とカーボン・ファーミングという2つの事業を展開しています。
検定事業では、企業人から地方公務員、一般の方々、さらには次世代を担う中学生・高校生にも、カーボンニュートラルに関する知識を身につけてほしいと考えています。脱炭素化は特定の分野に限られず、CO2の計算は数学の範疇に入り、地政学の観点から社会科学とも結びつきます。これらの分野を跨いだ学びは豊かな教育に繋がると考えており、私たちはその最新の知識を常に提供し続けたいと思っています。
一方、カーボン・ファーミングは、土壌に貯留した炭素をクレジット化することで、炭素を金銭的価値に転換する仕組みです。現在、全国各地に農業従事者がいないために活用されていない土地が多数存在します。これらの土地の炭素排出削減量を「炭素排出権」として取引することで、それが自治体の収入源となります。こうした排出権を購入するのは、CO2排出量が多い航空会社などです。
私たちが行うカーボンニュートラル検定を通じて、カーボンニュートラルに対する理解が深まれば、カーボン・ファーミングにも関心を持つ人が増えると思います。炭素が金銭的価値に換えられるという事実に気づくことで、この市場はさらに拡大し、それは地球環境保護にも寄与すると考えています。
さいごに
今回は、一般社団法人脱炭素事業推進協議会の理事長、笠原曉さんからカーボンニュートラルの重要性とその取り組みについてお話を伺いました。笠原さんは日本とアメリカの中小企業をつなぐ事業を展開する中で、二酸化炭素の吸収に貢献する「泥炭」を発見し、これを農業問題解決の手段として導入した経験が印象的でした。さらに、カーボンニュートラル検定の展開を通じて、脱炭素化の問題を予防するとともに、豊かな教育にも繋がるという考え方は大変新鮮に思いました。
笠原さんが進めるカーボンニュートラル検定への知識の広まり、そして炭素排出削減量を金銭的価値に換える「カーボン・ファーミング」事業の拡大という取り組みは、今後の地球環境保護に大いに寄与することでしょう。これらの活動に期待が高まります。
SDGs connectディレクター。企業のSDGsを通した素敵な取り組みを分かりやすく発信していきたいと思います!