【更新日:2024年1月29日 by 俵谷龍佑】
「キットカット」や「ネスカフェ」などで知られる世界最大の食品・飲料メーカーネスレの日本法人であるネスレ日本株式会社(以下、ネスレ日本)。ネスレ日本では、製品パッケージへのプラスチック使用量削減を行ったり、廃棄物の削減を目指して、サーキュラーエコノミーの構築に向けた取り組みを進めています。さらに2023年2月には、廃棄予定の資源のリサイクル率向上を推進することを目的に、複数の企業や団体と「一般社団法人アップサイクル」を共同設立しました。
今回は、ネスレ日本のサステナビリティ担当であると同時に、一般社団法人アップサイクルの事務局長を務める瀧井 和篤(たきい・かずしげ)様に、同社のサステナビリティ活動や一般社団法人アップサイクルの立ち上げの背景や取り組みについて話を伺いました。
パーパスをもとに、全社員がサステナビリティに取り組む
ーーまずは自己紹介をお願いします。
瀧井 和篤(たきい かずしげ)と申します。2019年10月にネスレ日本株式会社へ中途入社し、現在はコーポレートアフェアーズ統括部 サステナビリティ&ステークホルダーリレーションズ室でサステナビリティ関連のプロジェクトの企画に従事しています。また、2023年2月に設立された一般社団法人アップサイクルでは事務局長を担当しています。
ーーネスレ日本では、サステナビリティ活動をどのように捉えているのでしょうか?
当社が掲げる「食の持つ力で、現在そしてこれからの世代のすべての人々の生活の質を高めていきます」というパーパスがサステナビリティ(持続可能性)の考えそのものであることから、自然と根付いているといった方が近いです。サステナビリティ担当の私だけでなく、全社員がパーパスに基づき物事を考え、事業活動を行っています。
ーー具体的には、どのような活動を行っていますか?
ネスレ日本が行うサステナビティ活動は大きく3つあります。
1つ目が地球環境保護に関する取り組みです。例えば当社の代表製品である「キットカット」や「ネスカフェ」の製品パッケージの改善などが代表例として挙げられます。
2つ目が地域コミュニティとの連携です。いくつか例を挙げると、名護市や琉球大学などと産学官で連携しながら、沖縄県内の耕作放棄地を活用し国産コーヒー豆栽培をする取り組みや、育児相談を行える拠点として助産師常駐のラウンジ併設型産後ケア施設を各地で立ち上げる支援を行っています。
3つ目が家族やペットのための健康で幸せな生活の実現です。代表例としては「ネスカフェ」のコーヒーメーカーを職場やコミュニティに無料で貸し出す「ネスカフェ アンバサダープログラム」が挙げられます。
他の例では、神戸市と共同で行っている「介護予防カフェ」などもあります。高齢者が集まる場所やイベントにコーヒーメーカー「ネスカフェ ゴールドブレンド バリスタ」を提供し、コーヒーを楽しみながら語らう場作りを応援しています。
循環型社会を実現するには、知や技術のコラボレーションが不可欠だった
ーー「一般社団法人アップサイクル」を立ち上げた背景について教えてください。
立ち上げた背景はいくつかあって、1つが消費者の方へリサイクル製品やアップサイクル製品の魅力を発信したいから。
現在、脱プラスチック化の流れによってパッケージの紙化が進んでいます。プラスチックの使用量を減らすことはできますが、それはあくまでCSR活動やサステナビリティ活動に取り組む企業側のメッセージにすぎません。大切なのは消費者が「紙パッケージは環境に配慮されているだけでなく、資源として活用ができる」と気づき、自主的に回収に参加することだと思っています。
もう1つが、回収した資源をすべてリサイクルできていない現状を改善したいと思ったからです。例えば、家庭から排出されている73.8万トンの紙製容器包装(牛乳パックなど)のうち、わずか2万トンしかリサイクルされておらず、大半は焼却処分されています。
また、もう1つ別の問題として挙げられているのが、森林保全や道路整備のために伐採される間伐材です。間伐材はサイズや強度の観点から再利用が難しく、また搬出も不採算となることが多いため、大半が林内に放置されてしまっています。
ーー続いて「一般社団法人アップサイクル」について教えてください。
一般社団法人アップサイクルは、さまざまな企業や団体の技術やサービスを結集し、廃棄予定の資源に新たな価値を生み出すことを目的としたプラットフォームです。
消費者にとって魅力的なアップサイクル製品を生み出すには、我々の力だけではどうしても限界があります。回収した資源を有効活用するノウハウや技術をもつ会社と、アップサイクル製品を開発する企画力をもつ会社が連携すれば、さらにより多くのアップサイクル製品の開発や取り組みを加速させることが可能になります。
そのような想いから、日清紡グループのニッシントーア・岩尾株式会社やTOPPAN株式会社など14の企業や団体とともに、2023年2月一般社団法人アップサイクルを立ち上げました。2023年12月時点で、参画している企業や団体は30社ほどになります。
「サステナビリティ」な活動を、もっと身近なものにしたい
ーー「一般社団法人アップサイクル」の具体的な取り組みを教えてください。
第一弾として実施したのは、同プロジェクトに賛同いただいたスーパーや企業のオフィス、施設から回収した紙資源と間伐材を紙糸(かみいと)に生まれ変わらせる「TSUMUGI」プロジェクトです。紙糸(かみいと)にする技術は、ニッシントーア・岩尾株式会社様にご協力いただきました。
紙糸は軽量で吸放湿性が高いうえに、肌ざわりがやわらかい性質をもつため、衣類などの素材に活用できます。Tシャツやトートバッグを製品化し、2023年10月からは後楽園のカフェ「クラフト&テロワージュ」やECサイトで一般販売しています。
もう1つが、石川県金沢市に残る伝統的な染色技法である加賀友禅(かがゆうぜん)とのコラボプロジェクトです。加賀友禅に限らず、伝統産業は技術を継承する担い手が不足しているという課題があり、当団体でも何かできないかと考えていたんです。
当団体に参画していた京都精華大学の学生さんに、「環境」や「共生」をテーマとして加賀友禅を使った手ぬぐいのデザインを考案していただきました。手ぬぐいは昔から必需品であり、現代でもファッションアイテムとして幅広い年代の方々に利用されている日用品の1つです。日頃より利用できるアイテムをより多くの人に使ってもらえることで、次世代に伝統工芸の技術や地球環境をつなげていこうという意図があります。同プロジェクトで制作された「アップサイクル加賀友禅手ぬぐい」は、「TSUMUGI」の公式Webサイトで購入することができます。
ーーネスレ日本では、今後どのようなことに挑戦していきたいですか?
消費者の方々が、もっと気軽にサステナビリティ活動に参加できる仕組みを作りたいです。普段の買い物のついでに、不要になった紙パックやトレーをスーパーの回収コーナーに出すだけで、気軽にサステナビリティ活動に参加できる。そして回収した廃棄資源で作られた製品に魅力を感じて購入してもらう。もちろん、仕組みを作るだけでなく普及のための情報発信にも注力していきたいです。
ーー今後の展望を教えてください。
回収した資源を有効活用して、今までにはなかった新しい製品を作りたいですね。そのためには、やはり一社だけではできることに限界があります。私たちのビジョンに共感してくれる参画企業や団体を増やし、アイデアやスキルを共有しながら一緒に取り組んでいけたら良いですね。そして紙以外の資材を使ったアップサイクル製品も開発していきたいです。
ーー最後に、SDGs CONNECTの読者に向けてメッセージをお願いします。
ネスレ日本・一般社団法人アップサイクルともに、短期的ではなく継続性のある取り組みを行っています。当社のビジョンに共感する企業や団体とのつながりを増やしていきたいです。消費者の方が思わず欲しくなるようなアップサイクル製品を、ぜひ一緒に作っていきましょう!
ライティングオフィス「FUNNARY」代表。新卒で広告代理店に入社後、広告運用業務に従事。2015年4月にライターとして独立。現在は、小規模事業者のECサイトのSEO対策、BtoBの領域を中心としたメディアのディレクションや立ち上げ業務など、記事コンテンツ制作にまつわる業務全般を担う。ベンチャーから大手まで1000本以上の執筆実績あり。