【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈】
SDGs未来都市。聞いたことはあるけれど実際にどのような取り組みをしているのか、どのような街なのか、知らない人は少なくないだろう。
この特集では、「SDGsで変わる街、変わらない想い」をテーマにSDGs未来都市に選定された自治体にインタビューを実施し、街の魅力やSDGsの取り組みについて伺う。
今回は、仙台市まちづくり政策局 政策企画部 政策企画課の中島 敏さんに未来都市の取り組みについて伺った。
見出し
人々が丁寧に手入れをしてきた緑こそが仙台の宝
ーー仙台市について教えてください。
仙台市は、仙台藩初代藩主の伊達政宗公が築いた城下町を礎として、1889年に誕生しました。その後、市町村合併により市域を拡大し、市制施行100周年を迎えた1989年に、全国で11番目となる政令指定都市となりました。1999年に人口100万人を超え、2021年12月時点の人口は約109万人となっています。宮城県の中央部に位置し、東は太平洋、西は奥羽山脈を境界としており、宮城県を東西方向に貫いています。
ーー仙台市の魅力について教えてください。
街中に映えるケヤキ並木に象徴されるように、自然豊かな環境と都市が調和した「杜の都」は仙台の代名詞となっています。「杜の都」の由来は、伊達政宗公が飢餓対策や建築資材確保を目的として植樹を奨励したことに端を発しており、緑が色濃く残る城下町の景観を指して、明治末期頃からこのように呼ばれるようになったと言われています。この言葉には、「人々が丁寧に手入れをしてきた緑こそが仙台の宝」という市民の想いが込められています。
東日本大震災によって浮き彫りになった課題に向き合い、「杜の都」が暮らしに活きるようにしていく
ーー今までに、仙台市にはどのような課題がありましたか?
東日本大震災によって多くの課題が発生しました。これまでに仙台市では1978年の宮城県沖地震の教訓を踏まえてハード・ソフト両面で災害対策を進めてきていました。しかし、東日本大震災にはこれまでの防災・減災対策では対応しきれなかったのです。
具体的な課題として、温室効果ガスの排出量やごみの総量が増加したほか、沿岸部においては津波により広範にわたって緑が失われるなど、都市環境に影響を及ぼしています。世界的に環境配慮への意識が大きく高まっていることも踏まえ、それらの課題の解決に向けた取り組みを進めるとともに、「杜の都」の豊かな自然環境がより暮らしに活きる施策展開を検討していく必要も感じています。
今後は、インフラの整備・維持管理など公助の取り組みに加えて、少子高齢化に伴う地域防災の担い手不足や平時における助け合いに対応していかなければなりません。また、未来への教訓の継承のために防災・減災の最も基礎となる多様なステークホルダーの意識の向上に向け、様々な手立てを講じていく必要があります。さらに、本市で開催された第3回国連防災世界会議で採択された「仙台防災枠組」の推進は、SDGsターゲットにも含まれていますが、本市はこの枠組みの採択地として率先して国内外の防災文化に貢献する責務を果たすことが求められています。
ーーSDGs未来都市として仙台市は、どのような街に変わっていくのでしょうか?
仙台市では、東日本大震災の教訓を踏まえ、将来の災害や気候変動リスクなどの脅威にも備えた「しなやかで強靭な都市」に向け、「防災環境都市づくり」を進めています。「杜の都」の豊かな環境を基本としながら、インフラやエネルギー供給の防災性を高める「まちづくり」、地域で防災を支える「ひとづくり」を進めていきます。さらに、あらゆる施策に防災や環境配慮の視点を織り込む「防災の主流化」を図り、市民の生活と経済活動の安全・安心や快適性が高い水準で保たれている都市を目指しています。
あらゆるステークホルダーとのまちづくりと環境への取り組み
ーー仙台市は具体的にどのような取り組みをしていますか?
災害に強い「まちづくり」と気候変動をはじめとする環境への対応の主に2つの観点から取り組みを推進しています。
被災した東部地域の再生と強靭なまちづくりに向けて、複数の施設で津波を防ぐ「多重防御」、津波から逃れる「避難」、住まいの「移転」を組み合わせることで、千年に一度の規模の津波にも安全を確保する対策を講じています。しかし、ハード面の対策だけでは災害による被害を防ぐことはできません。市民一人ひとりの防災意識の向上をはじめ、「自助・共助・公助」をより一層徹底していくための取り組みを行っています。また、「仙台防災枠組」にも重要性が明記されている、これからの防災・減災の推進に向けた女性や若者のリーダーシップ・教育機関・企業などの多様なステークホルダーの参画や連携が一層促進される環境づくりにも取り組んでいます。
災害に強い分散型エネルギーや環境負荷の小さい再生可能エネルギーの導入に一層取り組むため、脱炭素社会を目指したライフスタイルの啓発や、事業者と連携した地球温暖化対策を推進しています。この背景には国内外で環境配慮への意識が高まっていることや、東日本大震災で大規模・集中型のエネルギーシステムの脆さが露呈されたことがあります。
「杜の都」の環境資源に、市民がより一層愛着を持ち、日々の暮らしに密着したなじみのあるものとなるよう、主に津波により被害を受けた沿岸部において、市民とともに緑を育む活動や新たな賑わい・憩いの創出にも取り組んでいます。
また、防災産業は今後も成長が見込まれています。新たなイノベーションを世界に先駆けて創出し、国家戦略特区を活用した防災・減災分野における近未来技術の社会実装や、産学官連携によるオープンイノベーションの取組みを進めることで本市の価値を高めていきます。そして、「仙台防災枠組」に基づいた新たな製品・サービスによる事業化も推進しています。
東日本大震災から10年。経験を未来の防災に生かすため記憶と教訓を伝えていく
ーー東日本大震災から10年が経ちました。経験を「伝える」面ではどのような取り組みをなさっていますか。
東日本大震災当時の記憶は薄れ、震災を経験していない市民が増えています。震災の経験と教訓を、市民はもとより、国内外の都市と幅広く共有し、未来の防災へ活かすため、市民・地域団体が活用しやすいメモリアル施設の運営、映像や写真によるアーカイブの整備など、誰もが経験と教訓を学ぶことのできる環境づくりに取り組んでいます。
あわせて、毎年開催している市民参加型イベント「仙台防災未来フォーラム」や、本市で隔年開催されている「世界防災フォーラム/防災ダボス会議」をはじめとする国際会議などの機会を捉えて、経験と教訓の発信に取り組むことで、「仙台防災枠組」の普及やステークホルダーの育成、世界の防災・減災の推進に貢献しています。
防災の主流化に取り組みことは使命。防災×ITで防災関連産業の創出を目指す
ーーSDGsの取り組みにかける想いを教えてください。
国内観測史上最大の巨大地震と、千年に一度とも言われる津波が未曽有の被害をもたらした東日本大震災から10年が経過しました。国内外からの多大な支援をいただきながら、市民や地域団体、地元企業など、多様な主体が持つ力をあわせて復興に取り組み、今日に至っています。第3回国連防災世界会議における「仙台防災枠組」の採択地として、震災の経験と教訓を国内外に伝え、防災の主流化に取り組むことは本市の使命です。今後も、多様なステークホルダーにおける連携を強化し、自然災害はもちろん、感染症を含む様々な災害リスクの脅威に備えた「しなやかで強靭な都市」を目指していきたいと考えています。
ーーSDGs未来都市の取り組みの具体的な成果について教えてください。
「仙台防災未来フォーラム」は、東日本大震災の経験や教訓を未来の防災につなぐため、セッションやブース展示、体験型イベントなどを通じて市民が防災を学び、日頃の活動を発信できるイベントです。国連世界防災会議の翌年となる2016年から毎年開催しており、多くの方にご来場いただいています。東日本大震災から10年の節目となった2021年は、新型コロナウイルス感染症の影響を受けつつも、オンラインを含めて2日間で約4,300名の方にご参加いただくなど、市民をはじめとする様々なステークホルダーの防災・減災に関する意識が一層高まっていると感じています。
また、仙台市では、「仙台防災枠組」が掲げる世界の災害リスク低減への貢献と、仙台・東北の持続的発展への貢献に向けて「BOSAI-TECH(防災テック)イノベーション創出促進事業」に取り組んでいます。この取り組みは、BOSAI-TECH(防災×IT)やドローン等の実証実験などを通じた防災関連産業の創出を目指すものです。大手企業・地域企業・海外企業・自治体・学術機関等によるオープンイノベーションを通じて、BOSAI-TECH分野の新製品・サービスの創出を支援しており、本事業による製品・サービスの開発支援件数はすでに30件を超えています。今後も引き続き新たな防災関連産業の創出に取り組み、災害リスク低減や企業の持続的な成長に貢献したいと考えています。
災害対応や環境政策は世界共通の課題。だからこそ、仙台市が伝えていく意義がある。
ーーこれからのSDGs推進の戦略、展望について教えてください。
国内において地震や豪雨による甚大な被害が多発しており、世界中のあらゆる場所で地震や気候変動の影響による災害に直面する可能性があります。安全・安心な暮らしを確保するために災害対応や環境政策を講じていくことは、世界共通の課題です。東日本大震災により、私たちは、様々な災害の脅威にさらされていることを改めて認識させられました。持続可能なまちであるためには、自然災害のみならず、今後も起こり得る様々な災害リスクに配慮した強靭さと回復力を兼ね備えることが欠かせません。今後も、安全・安心に市民生活や経済活動を営める、持続可能な魅力あるまちづくりを進めるとともに、その取り組みを国内外に発信し、「仙台防災枠組」の採択地にふさわしい世界に誇る「防災環境都市」を目指したいと考えています。
さいごに
仙台市では東日本大震災で浮き彫りになった課題一つひとつに向き合い、あらゆるステークホルダーとの協働で防災・減災に取り組んでいました。特に、防災関連産業の創出など日頃から防災・減災に寄り添い、新たな価値を創造している姿勢が印象的でした。
東日本大震災から10年が経ち、日本全体で当時の記憶が薄れてしまっています。だからこそ、仙台市が発信する安心・安全で持続可能な魅力あるまちづくりへの情報はとても貴重なものだと感じます。そして、日本のみならずあらゆる災害対応や環境対策を講じる必要がある世界において、非常に意義のあるものになるでしょう。
仙台市が世界に誇る「防災環境都市」への取り組みを今後も期待しています。