航空を通じて持続可能な社会をつくる|キャセイパシフィック航空の6つの戦略

#エネルギー#ジェンダー#環境#脱炭素 2022.01.31

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【更新日:2022年4月8日 by 三浦莉奈

香港を本拠地として、世界35ヶ国110都市以上に旅客機・貨物のサービスや商品の提供を行うキャセイパシフィックグループ。

世界中の空港に拠点を持つグローバル企業はSDGsをビジネスの中でどう位置づけ、どのように関わっているのか。

今回は、キャセイパシフィック航空サステナビリティ&コーポレートレスポンシビリティ グループ統括責任者であるグレース・チャン氏を取材した。キャセイパシフィック航空が行なっている取り組みやそれらに込められた想いに迫っていく。

SDGsに会社全体で取り組む姿勢

ーーいつ頃から、どのような体制でSDGsを推進しているのか教えてください。

グレース:キャセイパシフィック航空では、「サステナビリティ」という言葉が世間で広く認識される以前から環境のための施策に取り組んできました。例えば、1996年には環境報告書を発行・2007年にはカーボンオフセットシステムをアジア圏において初めて導入いたしました。さらに、2014年に航空燃料メーカーで持続可能な燃料を開発しているフルクラム・バイオエナジー社に出資を行いました。

キャセイパシフィック航空がSDGsに取り組む上で大切にしているのは、高い倫理基準です。公平性・透明性・説明責任を持って行動することが不可欠というキャセイパシフィック航空の信念が表れています。

キャセイパシフィック航空のSDGsの取り組みのなかで、特に重要な取り組みをしているのが取締役会だ。会長を中心に、持続可能性に関するグループ全体の取り組みをリードするために3つのガバナンス組織が設置されている。

  • Sustainable Development Committee (SDC) – 持続可能な開発委員会
  • Sustainable Development Steering Group (SDSG) – 持続可能な開発運営グループ
  • Climate Actions Steering Group (CASG) – 気候行動運営グループ

また、これらの組織に加えて、取締役リスク委員会が環境・社会・ガバナンスリスクといったその他のリスクの評価と関連する取締役会の決定について管理している。

取締役会の仕事は以下の通り。

  • グループの重要なサステナビリティテーマの検討
  • サステナビリティ開発関連の戦略、目標、行動、方針の承認
  • 毎年発行している「サステナブル・デベロップメント・レポート」のレビューと承認

【提供】キャセイパシフィック航空

SDC(Sustainable Development Committee)は、最高経営責任者が筆頭となり持続可能な開発戦略、政策、目標設定、主要な取り組みへの投資を評価・承認する権限を与えられている。年間を通じて定期的に開催する同委員会の任務には、年2回の進捗状況の報告に加えてグループの重要な持続可能な開発テーマの評価と優先順位付けが含まれる。このように、サステナビリティに関する取り組みが、事業計画、予算、リスク管理といった多くの面に組み込まれ、グループの事業戦略の重要な位置を占めている。

SDSGとCASGは端的にいうと、SDCの承認と取締役会のレビューを必要とする持続可能な開発政策、取り組み、目標を検討し、提案を行う機関である。

2つの組織の議長は、カスタマーディレクターが務めており社内のさまざまな機能を担当する部門長で構成されているのが特徴だ。

航空会社だからこそできる取り組みの数々

【提供】キャセイパシフィック航空

ーーSDGsの取り組みの全体感を教えてください。

グレース:キャセイパシフィック航空では、「持続可能」をキーワードに事業の展開・開発と実践を行なっています。持続可能な開発の進捗を、6つの戦略的重点分野にしたがって分類しています。これらの項目は、持続可能な開発の優先事項でありキャセイパシフィック航空の指針でもあります。

  • 安全性
  • 炭素
  • オペレーションにおけるサスティナビリティ
  • 生物多様性
  • 人材
  • コミュニティ

ーーゼロエミッションに関する具体的な取り組みに加えて、今までに直面した課題や具体的な成果について教えてください。

グレース:「2050年までに炭素排出量を実質ゼロにする」という目標の達成に向けて、大気排出量を削減する5つの柱を設けています。

1.機材更新・燃費向上
2.オペレーションの向上
3.SAF(Sustainable aviation Fuel:持続可能な航空燃料)
4.カーボンオフセット
5.新技術

5つの柱の中で、SAFが特に重要です。2021年9月にキャセイパシフィック航空は2030年までに燃料の10%にSAFを使用することを約束したアジア初の航空会社となりました。

キャセイパシフィック航空では、脱炭素ロードマップの中でSAFが特に重要であることを早期から認識していました。

2014年には航空会社として初めてアメリカ合衆国のSAFメーカーであるフルクラム・バイオエナジー社に出資、さらに10年間で合計3億6000万USガロン(約14億リットル)のSAFを購入するオフテイク契約(長期供給契約)を締結しました。これらは、キャセイパシフィック航空が2030年までにSAF使用量を10%にするという目標達成のための要となります。

キャセイパシフィック航空では、フルクラム・バイオエナジー社との協働に加えて、2016年からコンスタントにSAF市場を支援している。エアバス社のローンチパートナーとして、フランスにあるエアバス社の施設から新しい航空機を納入する際にSAFを使用する取り組みを行なっている。

また、SAF市場の支援に加えてアジアで最初にSAFプログラムを開始することを目標にSAFプログラムの開発に取り組んでいる。このプログラムは、旅客・貨物に関する法人顧客がキャセイパシフィック航空と提携することでSAFを利用して間接的に排出量を削減することに貢献するというシステムだ。

キャセイパシフィック航空は「他の業種のパートナーと連携する」という点から脱炭素化のための次世代技術の革新とブレークスルーの促進に取り組むアビエーション・クライメット・タスクフォース(ACT:Aviation Climate Taskforce)にも創設メンバーとして関わっている。

ゼロエミッションを達成する中で、特に機材更新・燃費向上と新技術に重点を置いているキャセイパシフィック航空。

機材更新・燃費向上に関しては従来の機材に比べて燃費が25%向上した次世代環境対応型航空機A350(A350-900、A350-1000)やA321neoを導入。新技術に関しては、ブレイクスルーが重要であると捉えておりACTのメンバーとして他のパートナーと新技術の開発を加速させるために取り組んでいる。

ーーカーボンオフセットに関する具体的な取り組みに加えて、今までに直面した課題や具体的な成果について教えてください。

グレース:キャセイパシフィック航空では、カーボンオフセットはSAFの供給や新技術が登場するまでの一時的な解決策と捉えています。それを踏まえて、キャセイパシフィック航空ではアジアの航空会社として初めて2007年にカーボンオフセットプログラム「Fly Greener」を立ち上げ、お客様がフライトで排出される二酸化炭素をオフセットできるシステムを開発しました。

Fly Greenerとは、利用者が搭乗するフライトの飛行距離や使用機材をもとに計算される二酸化炭素排出量をそれに見合う相当額を現金やマイレージで支払うことを通じて、航空業界によるCO2のオフセットを推奨する第三者機関のプロジェクトへ寄付ができるプログラムであり、これまでに30万トン以上の二酸化炭素排出を相殺してきた。

ーーダイバーシティに関する具体的な取り組みに加えて、今までに直面した課題や具体的な成果について教えてください。

グレース:キャセイパシフィック航空は、グローバル企業として社員のダイバーシティを尊重します。ダイバーシティに基づいたいかなる形態のハラスメントや差別も容認しません。

我々は、お客様に素晴らしい体験を提供するために、多様な人材がどれだけ重要かを理解しています。しかし、インクルージョンを伴わない多様性だけでは不十分です。キャセイパシフィック航空では、社会への貢献や人々への対応にも気を配っています。

キャセイパシフィック航空のダイバーシティ&インクルージョン戦略はスワイヤー・ダイバーシティ&インクルージョン戦略フレームワーク(Swire Diversity and Inclusion Strategic Framework)に基づいて策定されており、世界でもっとも進歩的な航空会社のひとつになるというキャセイのビジョンが示されています。

この戦略の実施は、ダイバーシティ&インクルージョンオフィスと従業員リソースグループが主に担っており、専任の担当者が我々の特徴である包括性の強化に取り組んでいます。

リソースグループの中には、女性パイロットが現在直面している障壁についての理解を深めダイバーシティ&インクルージョンオフィスが女性パイロットたちに関わる様々な課題に取り組むのを可能にするために設立されたものもあります。現在では、その「キャセイ女性パイロット・アドバイザリー・グループ(FPAG:Cathay Female Pilot Advisory Group)」はダイバーシティ&インクルージョン推進体制において重要な一部となっています。

また、キャセイパシフィック航空ではインクルージョンに関する課題に対して議論し、決定を下し、変化を促すための機関としてダイバーシティ&インクルージョン・ステアリング・コミッティを設置。さらに、無意識の偏見に対するトレーニングを継続するとともに、ジェンダーバランスの改善を支援し、より包括的な文化を促すために取り組む男性同盟プログラムとアドバイザリーグループを継続している。

「航空」を通して持続可能な社会を実現したい

【提供】キャセイパシフィック航空

ーー事業自体を通して、キャセイパシフィック航空はどのようにSDGsに貢献しているのか教えてください。

グレース:「航空」は、経済発展・人や物の移動・文化交流・体験の向上への貢献といった多様な役割を果たしています。将来の世代も航空によってもたらされる恩恵を享受できるよう、航空を持続可能なものにする方法を見つけ、取り組む必要があると考えています。

キャセイパシフィック航空の持続可能な開発の推進における主要な成果は以下の4点となります。

1.カーボンオフセットプログラム「Fly Greener」
今までにFly Greenerを通して、30万トン(3億キログラム)以上の二酸化炭素をオフセットしてきました。これは23,000人以上の英国人の年間炭素排出量に相当します。

実はFly Greenerでは、搭乗フライトの二酸化炭素排出量を現金やマイレージを使って相殺するだけでなくカーボンオフセットの寄付金は発展途上国の生活の質の向上にも役立てられています。これらの寄付金は、インドでバイオダイジェスター(家畜の糞尿や農業廃棄物を完全に分解し、再利用可能な水とバイオガスに転換する装備)を国内各地に設置するプログラムに提供されました。

発展途上国の環境整備に貢献する一方で、お客様の旅は温室効果ガスの排出量がゼロとなっています。

2.使い捨てプラスチック製品の削減
キャセイパシフィック航空では、プラスチックが環境の与える影響をきちんと理解し2019年に、2022年末までに当社による使い捨てプラスチックの使用量を半減することを宣言しました。

20年以上前にエコノミークラスでなんども洗って再利用する回転式プラスチック製カトラリーを使い始めたことから始まり、ビジネスクラスとファーストクラスでは枕カバーと布団カバーを再利用可能な袋に入れて用意しています。

さらに、A350型機のキャビンカーペットは再生漁網、エコノミークラスのブランケットは再生ペットボトルから作られています。

3.新型航空機の購入
近年、すべての航空機では前世代の同様のモデルと比較して20~25%の燃料効率の向上を前提に設計されています。

2016年以降、我々は43機の真新しいエアバスA350を導入し、4機の新型A321neoを導入しました。さらに多くのA350を導入し、21機のボーイング777-9の導入も予定しているため、当社の航空機の平均機齢はさらに低くなる見込みです。

4.持続可能な航空燃料と低燃費戦略
フルクラム・バイオエナジー社への投資をきっかけに、2030年までに総燃料消費量の10%をSAFでまかなうことを約束しました。

フルクラム社が製造するSAFは、ライフサイクルベースで温室効果ガスの排出量を最大80%削減することができます。また、キャセイパシフィックの新型機のうち30機以上がSAFを混合した燃料を使用して納品されています。

お客様へ価値を提供しながらSDGsに取り組んでいく

【提供】キャセイパシフィック航空

ーーこれからのSDGs推進の戦略、展望について教えてください。

グレース:キャセイパシフィック航空では、お客様やステークホルダーが期待する分野に応じて、もっとも重要な環境・社会的影響を優先付けています。我々のアプローチは、2020年に改訂した気候変動、ダイバーシティ、インクルージョンに焦点を当て、グローバルの持続可能な開発アジェンダをより反映した「持続可能な開発ポリシー」に基づいています。

今回のポリシー改訂では、気候変動による潜在的な影響を認識し、世界各国の政府や国連と協力した国際的なアプローチにより、2050年までに炭素排出量を正味ゼロにするという宣言をしています。また、弊社が直面する気候変動のリスクを評価、対処、緩和し、機会を逃さないようにすることも含まれています。これらを踏まえ私たちは調達プロセスに気候変動への配慮を取り入れ、低炭素でエネルギー効率の高い製品や素材の使用を奨励しています。

持続可能な開発ポリシーの6つの重点分野は環境・社会・経済への配慮がビジネス上の意思決定に含まれるように促すためのものです。このようなやり方で、我々は事業を行なっている管轄区域でのコンプライアンス遵守はもちろん、それらを超えて、尊敬される雇用主、付加価値を提供できるコミュニティの一員、そしてお客様の期待を超えるサービス提供者となることを目指しています。

さいごに

グローバル企業と航空会社というふたつの顔を持つキャセイパシフィック航空では、様々なステークホルダー、特にお客様に対する配慮やアジアの航空会社で持続可能性という面で先駆者になるという大きな目標を持ちながらSDGsに関する取り組みを行なっています。

近い将来、航空会社が持続可能性の分野で注目を集め、中心的な存在になるのではないでしょうか。

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