パルシステム生活協働組合連合会(以下、パルシステム)は、消費者が出資金を出して組合員となり、事業や活動の運営をしながらサービスを利用する組織です。
消費者でありながら運営に参画できるパルシステムでは、日々の暮らしの気づきや商品・サービスへの希望を、組合員自らが組織に対して積極的に発信できます。さらに、自分たちの手でより良い方へと変えていける環境も整っています。
消費者が能動的に社会を変えていく「生活協同組合」は、SDGsにどのように向き合っているのでしょうか。今回は、運営本部にて発信に携わる堀籠さんにお話を伺いました。
消費者一人ひとりの声で社会をより良い方へと変えている、パルシステムの具体的な取り組みについても注目です。
見出し
フィリピンのネグロス島で生活協同組合の本質を学んだ
ーー自己紹介をお願いします。
堀籠:運営本部にて渉外・広報室主任を務めている堀籠です。学生時代にフィリピンのネグロス島に1年ほど滞在したことがきっかけで、パルシステムに就職しました。
ーーなぜフィリピンのネグロス島に行かれたのですか?
堀籠:学生時代からバナナプランテーション*の労働問題に興味があり、学びを進める中で「実際に現地でしか学べないことがあるのではないか」と感じたことがきっかけでした。
私が滞在したフィリピンのネグロス島は、もともとサトウキビのプランテーションを行っている島です。訪問前に島で起きた飢餓問題をきっかけに、山間部に自生していたバナナのフェアトレードを始めたということで、この島を紹介していただきました。
* プランテーション 熱帯・亜熱帯地域で単一作物の栽培を行う大規模農園のこと。古くから、サトウキビ・バナナ・カカオ・コーヒーなどを栽培してきた。プランテーションの特徴として、熱帯・亜熱帯の気候と生産性の高さを活用して、換金作物を集約的に生産することがある。そのため、土地と労働力の確保や国際市場へのアクセスが必要になる。【参照・引用】熱帯プランテーションとは |
ーー飢餓問題とはどのようなことが起きたのでしょうか?
堀籠:私が訪れた1997年の約10年前に、砂糖の国際価格の暴落が起きて島の多くが飢餓に陥りました。島に住む人たちはプランテーションで労働者として働いていたので、価格暴落によって仕事がなくなり、自分たちで耕作する土地もないためご飯が食べられなくなってしまったのです。
大きな問題となっていた時に、生協が島に自生しているバナナを輸入することで収入源を作り出し、付加金をつけて奨学金とすることで子ども達を学校に行かせる仕組みを構築しました。
1年間現地で生活する中で、ネグロスの人々は自分たちの問題を解決するために、お互いの力で助け合う協同組合組織を多く作っていることを知りました。また、日本から現地の視察に来た生協の方と交流したことで、生協という存在を初めて知りました。
最初はバナナプランテーションの労働者が置かれる状況や問題に興味があった私ですが、ネグロス島を訪れたことをきっかけに、島全体が飢餓から立ち直る過程には住民自身が課題解決をするための“協同組合”という存在が欠かせないことを知りました。
この経験が、私と生協の大きな出会いになったのです。
ーーネグロス島での経験を通して学んだことはありますか?
堀籠:協同組合の本質を学びました。サポート側は「かわいそうだから援助をしよう」という視点をもちやすいですが、ネグロス島では現地の方が自ら協同組合を立ち上げ、サトウキビプランテーションの地主との労働交渉やフェアトレードバナナ出荷の仕組み作りを行っていたことが印象的でした。
また、地元に住む人が立ち上がって自分たちのくらしの課題解決を進めていくことにこそ意味があると強く感じました。
プランテーションは「先進国の大企業が最大利益の追求を目的として運営を行い、生産された作物を先進国の消費者が安価な価格で買う」という構造を生み出しています。この構造自体を、先進国側の消費者自身が知り、消費構造のあり方を変えていく必要があると気づいたのです。
だからこそ、自分自身が現地で支援をしていく側ではなく、日本で生協に携わり、日本の消費者が変わっていくことに重きをおくべきだと思いました。
全員が出資者だからこそ。生活協同組合のSDGsは企業と違う
ーーパルシステムの事業内容を教えてください。
堀籠:パルシステムは、1都12県を中心に、消費者である「組合員」の一人ひとりが運営に参加している組織です。週に1回商品をご自宅までお届けする「宅配事業」をメインに展開しています。
その他にも、組合員一人ひとりが共済の掛金を出すことでくらしを保障する、「共済・保険事業」を行っています。また、再生可能エネルギーの普及を行う「電力供給事業」も行っています。組合員の声を大切にし、原子力発電に反対するだけではなく、再生可能エネルギーに置き換えることに重きをおいて活動を進めています。
ーー歴史的に「生活協同組合」の考え方が日本で広まったのはいつですか?
堀籠:戦前です。賀川豊彦氏が日本の中で協同組合の考え方を広めたとされています。消費者運動は大正以降です。戦後には公害をはじめとする環境と食の安全が危ぶまれる時代になったことで、これまで以上に消費者自身が作り上げていく生活協同組合の存在が重要視されるようになりました。
ーー組合員同士の意思決定はどのように進んでいくのですか?
堀籠:「総代会」で年度方針などの重要事項を決定します。各地区に数名規模の代表者である「総代」という役割が設置されています。例えば、東京都の場合は約500名です。総代に組織の事業と運動の方向性を説明し、意見を聞いた上で方向性を決定していきます。
総代会には全組合員が参加できるわけではないので、日常的には、組合員の声を配送に行った担当が聞いたり、メールフォームでも受け付けています。
このように、企業とは違って、組織を利用している組合員自身が出資をして事業の資本金とし、運営自体も自身が参画しています。
ーーまるで間接民主制のように、すべての消費者の方の意見がより良い生活を作り上げているのですね。「企業とは違う」という言葉がありましたが、SDGsへの取り組みも企業との違いがありますか?
堀籠:企業が取り組むSDGsとは大きく違います。
企業の方は、商売や事業を通した利益での社会還元や社会貢献に重きを置かれると思います。私たちは、利用者自身が自分たちの問題を解決するために、自分たちの力で、自分たちのお金を出し合って組織を運営し目的を果たしていく組織です。
だからこそ、「SDGsのために何かを行う」わけではなく、自分たちの暮らしをより良くしていく活動がそのままSDGsに繋がっているのです。社会的な課題も、一つひとつ変えていきたいという組合員の意識があるからこそ変えていっているという認識です。
生産と消費をつなぐ、パルシステム2030ビジョンとは?
ーーパルシステム2030ビジョンはどのような内容ですか?
堀籠:地域をもとに「つくり」、持続可能な生産と消費を確立すること。「たべる」ことの大切さを伝えあい安心で心豊かな食を地域に広げること。身近な「ささえあい」を通して誰もが暮らしやすい地域社会を広げることを目標にしています。
また、基盤となっている「きりかえる」では、環境問題に着目しています。生産から家庭での消費のすべてに環境問題が関わってくるという認識を持っているからです。
以上の目標に共通して、特に「わかりあう」ことを大切にしています。互いの違いを理解せず、否定することによって戦争が起きてしまっている世の中において、それぞれの立場を理解した上で活動を広めていく必要性を感じているからです。「わかりあう」心を広めて一人ひとりが大切にされる共生と平和の社会をつくります。
パルシステムが以前から続けてきた取り組みがビジョンである「たべる」「つくる」「ささえあう」「きりかえる」「わかりあう」すべてに繋がっているからこそ、整理して正しく伝えていくビジョンを策定しました。
ーーひらがな表記に温かみを感じますし、伝わりやすいビジョンですよね。
堀籠:今回ビジョンの策定にあたって、「誰にでも伝わる言葉で伝えていかない限り、どれだけ良い活動をしていても意味がなくなってしまう」という意見が出ました。
だからこそ、自分ごととして捉えてもらえるように、あらゆる方に伝わる言葉を選んでビジョンを策定しました。
ーー具体的にはどのような取り組みをされているのでしょうか。
堀籠:多くの活動がありますが、なかでも「たべる」では、パルシステムの原点でもある「産直」の取り組みに注力しています。
商品の質や安全、環境への配慮を願う組合員と地域社会の活性化や生産の背景を伝えたい作り手とをパルシステムがつないでいます。
産直産地の生産者との交流企画では、組合員が産地に行って実際に農作業を体験してみたり、産地の女性たちが各地で料理教室を開催したりと、相互理解を深める活動を行っています。また、組合員が監査人となり、産地の栽培履歴を確認する二者認証システムも導入しています。
このように、生産と消費を結ぶことで持続可能な共生の社会を構築しています。
一人ひとりの消費者の行動が、社会をより良い方へ変えていく
ーー現代社会では、「相対的貧困」がキーワードになるなど、生活に寄り添うパルシステムや生活協同組合の重要性が増していると思います。人々が生活する中で直面するさまざまな社会問題にパルシステムはどのように向き合われていますか?
堀籠:「橋渡し」を行うことが我々の一番の役割なのではないかと思っています。生活困窮などの課題に対して、生協の担当が家を一軒一軒回って助けにいくのでは、問題の根本的な解決にはなりませんよね。私たちが担っている事業はそこではないですし、専門性もありません。
だからこそ、専門的な知識を持つ行政や地域の活動団体にしっかりと連携をすることや、団体側に資金が不足しているのであれば基金を設けて審査をした上で助成を行ったりと、問題と対応する団体を繋ぎ合わせることで一人ひとりの課題に向き合っています。
ーー奨学金制度にも対応されているんですね。
堀籠:はい。組合員から寄付を募り、会員生協との連携団体が推薦する奨学生に月4万円の奨学金を給付する奨学金制度が2020年から本格稼働しました。
国でも多種多様な奨学金制度が用意されていますが、そのような奨学金制度に申請する発想すらもてない学生も存在します。
だからこそ、地域の団体と協力し、本当に困っている学生を推薦していただくことで支援に繋げる活動を行っています。
このように、パルシステムがすべてを行うのではなく、適切な団体や地域の方の協力を得ながら一体となって課題に向き合っています。
ーーネットワークを構築しながら課題に向き合われているのですね。最後に、今後の展望を教えてください。
堀籠:より多くの人にパルシステムに参加していただき、皆様のそれぞれの願いを一緒に形にしていきたいです。
実は、パルシステムはpal(友達)とsystem(制度)に由来しています。友達のように一人ひとりを繋ぎ合わせるシステムでありたいとの願いから名付けられました。
つまり、私たちは、「一人ひとりの消費者が社会を変えていく、一人ひとりの行動が持続可能な社会や平和に繋がっていく」と信じてます。
消費者の方が「自分ごと」として次の行動を考えてもらえるように、伝えていくということこそが組織としての責務なのかもしれません。
さいごに
インタビューを通して、「消費者一人ひとりが社会を変えていく」という言葉が何度も出てきた。
「消費者」としての私たちは、食事や地域での暮らしといった“習慣”の中で、社会や問題全体に目を向けることが難しくなっていると感じる。
生活協同組合ならびにパルシステムでは、組合員自らが商品への気づきや社会への問題意識を声で発信し、行動に移していた。取材中にもあった、「消費者でもあり、出資者でもある」からこその主体性が背景にあるのかもしれないと思った。一人ひとりが生活の中で感じた気づきが課題解決に繋がっていく過程が印象的だった。
消費者一人ひとりの声をつなぎ、社会をより良い方向へと変えていくパルシステムの取り組みの輪を今後も広げていってほしい。