近年急激に話題となり、耳にすることが増えた「SDGs」。
SDGsに取り組む企業も多いですが、中にはSDGsを「嫌い」「胡散臭い」と感じる人も多いのが現状です。
今回は、SDGsを嫌いと感じる理由から、反対意見、そしてSDGsに取り組む本当の理由までを紹介します。
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SDGsが嫌いと感じる理由
目標が壮大で、達成不可能に感じるから
社会、経済、環境の3つの側面から17の目標が定められている持続可能な開発目標(SDGs)。SDGsとは、2015年9月の国連サミットにて全会一致で採択された国際目標です。それぞれの目標に169のターゲットが設定され、具体的な課題が示されていますが、目標数の多さに圧倒される方も少なくありません。
また、幅広いターゲットに対して、無力感を抱く方もいます。例えば、目標6「すべての人が安全に水を飲めるようにする」という目標。地球上の「誰ひとり取り残さない」という視点は、国際課題を解決する上で重要な視点です。しかし、「包括的な目標であるがゆえに、ターゲットの統一性がない」ことが、「目標が壮大」「達成不可能」と感じさせる大きな要因になっているといえます。
そのため、SDGsが大事な概念だとは知りながらも、具体的な行動に結びつきにくい人が多い現状です。
メディアが急に言い出して話題になったから
SDGsへ嫌悪感を抱く理由の一つとして、メディアへの不信感も挙げられます。
昨今、SDGsがマスコミやメディアで急速に登場するようになりました。ビジネスの世界でも「共通言語」となりつつあり、日本企業経営層のSDGs認知度は58%、中間管理職においては33%という調査結果もあります。
そして、SDGsが社会に浸透する中で、SDGsをビジネスチャンスとして捉えた企業が注目を浴び、環境や社会に配慮した「優良企業」というイメージアップにもつながっています。また、企業のブランド価値向上や競争力の増強などの面でも大きな影響を持ち始めています。
このような社会の流れに伴い、近年はテレビや新聞などのメディアも積極的に取り上げるようになりました。SDGsに関する企業の取り組みから家や学校でできる簡単なことまで、多様な取り組みを紹介しています。人々にSDGsの重要性を伝え、行動を促す大きな役割を担っています。
しかし、メディアやネットを通じてあらゆる情報が手に入るようになった今日、急速にメディアで取り上げられるようになったSDGsに対して、疑問を感じる人は決して少なくありません。
企業が流行に乗って取り入れているだけに感じるから
SDGsの取り組みをする企業に対して、「流行に乗っているだけに感じる」という批判も強まっています。
SDGsが企業戦略の一つとして利用されるケースが後を絶たないためです。例えば、SDGsの達成を企業目標に掲げ、ESG投資を呼び込む手段に使われています。ESG投資とは、環境・社会・企業統治に配慮している企業を重視・選別して行う投資を意味します。
「環境に配慮していない」、「社会貢献していない」、「適切な労働環境ではない」という企業は、近年、投資家からお金を集めにくくなっています。それゆえ、SDGsをビジネスに利用しようとする企業が後を絶たないのです。SDGsをプロモーションするためのカードゲームや、SDGsを企業経営や自治体運営のなかに取り込むために助言するコンサルタントなどが挙げられます。
このような事例の増加に伴い、「SDGsブームに乗っているだけなのでは?」という消費者の批判が高まっているのです。
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SDGsをしている「フリ」をする企業や自治体がいる
「SDGsブーム」に伴い、SDGsに取り組む「フリ」をする企業も現れるようになりました。実態がともなっていない中SDGsに取り組んでいるように見せかけるビジネスは「SDGsウォッシュ」と呼ばれ、世界中で問題視されています。
SDGsが2016年12月に「持続可能な開発目標(SDGs)実施指針」を発表し、2017年11月には日本経団連がSDGsを踏まえた「企業行動憲章」を改訂しました。企業行動憲章とは、社会的責任を果たすために企業が遵守、実践すべき項目として、日本経済団体連合会が提唱する倫理規定です。これ以降、民間企業のSDGs取り組みが広がり始めました。今後、さらに投資家や消費者にもSDGsが認知されることで、SDGsの目標にかなうマーケットが一層拡大していくことが期待できるからです。
しかし、ビジネスチャンスと捉えられたSDGsの取り組みの中には、「SDGsウォッシュ」も見られるようになりました。一例として、環境にやさしい素材を利用しながらも、長時間・低賃金の児童労働により洋服を生産するアパレル企業が挙げられます。また、自社HPなどでSDGsに取り組んでいるとアピールするものの、取り組み実績を証明できない企業も存在します。
もちろん、SDGsを利用する企業ばかりではありません。ただ、SDGsに取り組むことで消費者からの購入頻度が増えたり、採用活動で有利になったりするメリットがあるため、SDGsウォッシュは無くならないのです。それゆえに「企業は環境や社会課題の改善・解決のためではなくSDGsを利用している」という批判の声が上がっています。
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SDGsの目標に矛盾する点が多い
SDGsの複数の目標に関する矛盾点も指摘されています。その一つが、気候変動対策と先進国・途上国の経済成長の両立です。SDGsに批判的な人々のなかには「SDGsはインフラ整備や貧困削減によって途上国の成長を促しているが、経済成長が進めば気候変動問題が深刻化してしまうのではないか」と考える人もいます。
実際、気候変動と経済成長を両立するのは大変難しい課題です。気候変動の深刻な影響を受けていない国はありません。温室効果ガス排出量は増加の一途をたどり、現在では1990年と比較して50%以上増えています。IPCCによると、世界の平均気温の上昇が1.5℃でも異常気象の発生頻度は高くなるものの、2℃上昇すると少なくとも2倍、3℃上昇すると4倍になるといいます。そのため、各国の政府や組織、企業などがSDGsの定める気候危機への対策に取り組むことは大変重要です。
一方で、途上国の発展もまた世界の重要な課題の一つであり、気候変動対策のために、途上国の開発は後回しにはできません。毎日、貧困や飢餓、病気などは人々の命を奪っているからです。各国の政府や企業、組織は連携して、途上国の発展を支援する必要があります。
「気候変動対策」と「途上国の発展」の両立は容易ではありません。しかし、エネルギーの地産地消を実現できる「再生可能エネルギー」や自然の地形を生かした「グリーンインフラ」などの代替手段を活用し、環境負荷を減らしながら途上国の産業・生活の基盤作りや気候変動対策をすることが重要です。
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SDGsの本当の目的がわからない
近年、「SDGsの本当の目的が分からない」という疑問の声も多く上がっています。メディアやビジネスで「SDGs」の取り組みばかりが注目され、その背景にある問題を知る機会が少ないからです。自治体や企業の運営者でもSDGsの目的を見失う人は極めて多い現状です。
例えば、マイボトル。昨今、多くの人がマイボトルを持ち歩くようになりましたが、なぜこの取り組みが重要なのでしょうか?
これには海洋のプラスチック汚染が関係しています。日本で増え続けるプラスチックごみは年間で900万トンです。プラスチックは自然回帰が難しいため、海洋プラスチック問題が深刻化しているのです。このままだと、2050年には海の魚の量をごみが上回るという予測まで出始めています。
リサイクルも解決策とはいえません。リサイクル資源の多くが途上国に輸出されていたり、受け入れ拒否が相次ぎ、ごみが行き場をなくしていたりしています。加えて、リサイクル過程でも大量のCO2が排出されています。
このように多くの課題が残るペットボトルを使用しないため、マイボトルを持ち歩くことが重要視されているのです。とはいえ、問題の背景を知っている人は多くはないのではないでしょうか?私も含め、意味や目的を考えないまま、単純に「環境に良い」といわれる取り組みをすることは多々あります。そして、「SDGsの目的」を知らないことで、取り組みを続けること自体に疑問を感じる方も少なくないのです。
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SDGsに企業が取り組む本当の目的
企業が持続的に成長するため
SDGsに企業が取り組む1つ目の目的は、企業が持続的に成長するためです。
今後さらなる成長を目指す企業は、経営においてESG(環境・社会・ガバナンス)の3つの観点を重視する必要があります。消費者や投資家の意識の変化によって、気候変動が各国に与える影響を度外視した企業経営はもはや難しくなっているからです。
消費者に関しては、モノやサービスの購入に際しても、単に「安くて良いもの」ではなく、地球環境を意識して作られているかや、倫理的に正しい製品を求めるなど、意識だけでなく実際の行動にも変化が見られます。
投資家に関しては、企業経営のサステナビリティを評価するという考えが普及し、気候変動などを念頭においた長期的なリスクマネジメントや、企業の新たな収益を上げる機会を評価する指標として、ESG投資が注目されています。
ESGを意識した取り組みは、製品・サービスの付加価値に加えて、企業ブランディングとしても機能するため、採用活動にも影響します。また透明・公正なガバナンスは企業イメージの向上とともに、何より自社の経営の安定性に大きく関わります。そのため、企業が持続的に成長するために、ESGの概念と合わせてSDGsに取り組むことが必要とされているのです。
社会課題の解決に貢献する「社会の価値」を創出するため
SDGsに企業が取り組む2つ目の目的は、社会課題の解決に貢献する「社会の価値」を創出するためです。
社会の価値とは、社会課題の改善・解決によって良い状況に近づけることで生まれる価値を指します。企業がSDGsに取り組むメリットは大きく3つあります。
まず、多くの人々が安心・安全に暮らせる社会の実現です。例えば、企業が調達先の工場で児童労働を減らす取り組みをして、周辺地域の児童労働がなくなった結果、就学率が上昇し学力も向上したという事例が挙げられます。自国だけではなく、途上国の人々の生活や労働環境の改善に努め、「社会の価値」を創造することは大変重要です。
次に、企業の将来にわたるリスクの軽減です。例えば、社会課題の一つである気候変動は、大規模降雨、洪水、高潮、干ばつ、山火事等の突発的な気象事象の発生により、企業の財務に負の影響を及ぼす可能性があります。SDGsの取り組みは、社会課題の改善・解決と同時に、企業のリスクを低減するのです。
最後に、顧客や社会からの信頼の向上です。昨今、気候変動や貧困、紛争問題などの課題に対する問題意識は高まり続けています。それに伴い、「SDGsの目標達成につながる商品を購入したい」という消費者のニーズも増えているのです。そこで、企業はSDGsの目標達成につながる商品やサービスを生産・販売することで、顧客や社会からの信頼をさらに高めることができるといえます。
このようにSDGsに取り組むことで得られるメリットはたくさんあります。そして、企業にはビジネスを通じて社会課題を改善・解決に取り組み、「社会の価値」を生み出すことが求められているのです。
引用:SDGs達成へ向けた企業が創出する『社会の価値』への期待に関する調査研究報告書
企業の社会的責任を果たすため
SDGsに企業が取り組む3つ目の目的は、企業の社会的責任を果たすためです。
SDGsという言葉ができる前、企業が意識していたのは「企業の社会的責任(CSR)」でした。CSRとは、企業が消費者・従業員・株主などから信頼を得るための慈善活動のことです。信頼を得ることで企業の持続的な成長につながり、結果的に社会の持続性の向上に貢献できます。いわば、両者の違いはCSRが「社会を良くするためのボランティア」なのに対し、SDGsは「ビジネスを用いて社会を良くしよう」という考え方であることです。
つまり、SDGsの取り組みを通して、企業はボランティアではなく、ビジネスの中で社会的責任を果たすことが求められています。
例えば、開発途上国における基本的なインフラの整備や、社会的弱者や零細企業を支援する投資やビジネスへの参入、ビジネススキルや技術の提供などは、「誰ひとり取り残さない」というSDGsの目標達成に大きく進展するものです。
従来、国内外の社会課題の解決に向け、政府や自治体、国際機関、NGOが取り組んできました。しかし、21世紀の現代において、企業の社会に対する影響力は今まで以上に大きくなっています。組織力だけではなく、技術力を有し、国境を超えて活動できる企業は、その社会に対する責任を果たすことがSDGsの大きな目的の一つです。
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まとめ
今回は、SDGsに対して否定的な理由や反対意見、そして企業がSDGsに取り組む目的を紹介しました。
「SDGsブーム」によってビジネスにSDGsが利用されたり、SDGsウォッシュが横行する今日。批判的な意見が噴出しているのは当然のことです。
しかしSDGs本来の目的や意味を見失っては本末転倒です。「なぜSDGsの取り組みが必要なのか?」「企業として何ができるのか?」もう一度、考えてみてください。
この記事から、企業のSDGsとの向き合い方についてヒントを見つけていただけたら幸いです。