森林火災や巨大台風、集中豪雨など、近年、自然災害に関するニュースをよく耳にするようになりました。
異常気象の大きな要因は気候変動です。今ではその影響を受けていない国はありません。
しかし各国のSDGs達成度をはかるレポートの中で、2021年度の日本の気候変動対策は「不十分である」との評価を受けました。
気候変動は年々深刻化しており、対策のために残された時間は多くありません。
そこで今回はSDGs13「気候変動に具体的な対策を」についての概要から日本と世界の現状、気候変動に伴う長期的な影響、私たちにできることまで詳しく解説します。
見出し
SDGs13の概要
SDGs13「気候変動に具体的な対策を」は、気候変動とその影響を軽減するために緊急対策を講じることを目指す目標です。
今日、各国は農業生産、生態系保全、エネルギー供給など生活を支えるあらゆる分野において気候変動の被害を受けています。
気候変動への対応は、世界の将来にとって重要な課題の一つです。歯止めをかけるために2015年にはフランス・パリにおいて気候変動に関する国際的な枠組みであるCOP21が開かれました。
採択されたパリ協定では「産業革命前と比べて世界の平均気温の上昇を1.5℃未満に抑える」という長期目標が掲げられ、各国は削減目標を作成して国内での対策を進めています。
しかし依然として温室効果ガス排出量は増え続けており、包括的な脱炭素化への移行が不可欠な現状です。関連した災害に対しても、政府や企業、国際組織など多様なステークホルダーが協力して積極的に行動する必要があります。
▼目標13「気候変動に具体的な対策を」について詳しくはこちら
SDGs13 の現状
なかなか大きな進展が見られない気候変動への取り組み。気候変動対策には長い時間と莫大なコストがかかるため、各国が対策の重要性を認識しながらもエネルギー転換へ舵を切れていないのです。
しかしながら、地球はティッピングポイントに達しつつあるという予測があります。ティッピングポイントとは「人為的な活動によって温室効果ガスが少しずつ蓄積した結果、ある時点を境に劇的な変化を起こすといわれる転換点」です。
ティッピングポイントに到達してしまうと、どのような対策を講じても、異常気象や海水位の上昇を抑えることはできないと言われています。手遅れになる前に効果的な対策をしなければなりません。
具体的な取り組みについて考える前に、まず気候変動に関する世界や日本の現状を見てみましょう。気候変動はどのような影響をもたらしているのでしょうか。
世界の現状
世界の年平均気温の上昇
気候変動の影響として「世界の年平均気温の上昇」が挙げられます。
上のグラフは世界の年平均気温の変化を表すグラフです(黒点は各年の平均気温の基準値からの偏差、青線は偏差5年間の移動平均値、赤は長期的な傾向)。
このグラフによると世界の年平均気温はさまざまな変動を繰り返しながら上昇しており、100年あたり0.37℃の割合で上がっています。とくに1990年代半ば以降、高温となる年が増えているのです。
地球の歴史を見ると温暖化と寒冷化を繰り返しており、「気候変動の主因はCO2ではなく太陽活動である」という見方もあります。しかしながら現在の温暖化のスピードはかつてないほど早く、太陽活動は近年の温暖化を説明できないと考えられています。
要因について『IPCC 第6次評価報告書 第1作業部会報告書 気候変動 2021:自然科学的根拠 政策決定者向け要約(SPM) 暫定訳(2021年8月20日版)』では「温暖化の主要因は、人間活動による温室効果ガスである可能性が非常に高い」としています。
※IPCC:気候変動に関する政府間パネル
北極の海氷域面積の減少
「北極の海氷面積の減少」も気候変動の大きな影響の一つです。上のグラフは北極の海氷域面積の変化を示しています。
北極の海氷域面積は1979年以降、長期的な減少傾向にあり、2007年以降は年最小面積において毎年大きな変化が見られます。
とくに2011〜2020年の年平均海氷面積は1850年以降で最小規模でした。さらに過去千年間と比較してどの時期よりも小さかったと考えられています。
異常高温、異常多雨の増加
「異常高温、異常多雨の増加」も著しい変化です。
上の図は「2021年に発生した主な異常気象・気象災害」を示しており、主に北半球の各地で異常高温、異常多雨が発生していると見られます。
とりわけ中国中部の大雨(7月)、フィリピン中部から南部の台風(12月)、南アジア及びその周辺の大雨(5月〜11月)、ヨーロッパ中部の大雨(7月)、北米中部から西部の熱波(6月〜7月)では、多数の死者を伴う災害が起こっています。
日本の現状
極端な気温の上昇
気候変動の影響として、日本国内では「極端な気温の上昇」が挙げられます。
上記の図は、右の図が真夏日(日最高気温30℃以上)の年間日数、左の図が猛暑日(日最高気温35℃以上)の年間日数を示しています(青線は5年間の平均値、赤線は長期変化の傾向)。
気象庁の報告では、統計をはじめた1910年から真夏日および猛暑日の日数はどちらも増加しています。とくに猛暑日の日数は1990年代半ばを境に大きな増加傾向が見られます。
大雨の発生頻度と強度の増加
「大雨の発生頻度と強度の増加」も深刻な影響の一つです。
1901〜2021年の121年間で1日の降水量が100mmを超える日数が増加しています。これは地面に雨水が10cmたまるレベルの大雨です。
短時間豪雨の増加も目覚ましく、アメダス(全国約13,00地点の地域気象観測所)の観測でも、1時間の降水量が50mm以上の短時間豪雨が1年間に発生する回数の増加傾向が確認されました。
豪雨によって都市部での急激な川の増水や、道路と住宅の浸水、アンダーパスなど地下空間の水没といった被害も発生しています。
土石流の発生も引き起こし、雨による土砂災害の犠牲者が自然災害による死者数の中で大きな割合を占めるようになってきました。
大雨の頻度や強度の増加には、気温の上昇に伴う大気の水蒸気量の増加が関係していると考えられています。
気候変動対策はなぜ重要なのか?
世界の日本の気候変動の現状について見てきました。普段の生活からも猛暑日や異常気象が増えたように感じますよね。データを見るとよりはっきりとわかります。
IPCCは第6次報告書の中で、「世界平均気温は、報告書で考慮したすべてのシナリオにおいて、少なくとも今世紀半ばまで上昇を続ける。この数十年の間に、温室効果ガスの排出を大幅に削減しない限り、21世紀中に1.5℃および2℃の地球温暖化を超える」と予測しました。
上の図を見ても1.5℃から4℃に変わっただけで地球全体に大きく影響することがわかります。年平均気温が1.5℃および2℃を超えた場合、どのような変化が現れるのでしょうか。詳しく見てみましょう。
サンゴ礁の消失
まずサンゴ礁が消滅すると考えられています。高温水による白化現象がサンゴを死滅させる原因となっているからです。
地球の気温が1.5°Cを超えた場合、サンゴ礁の70〜90%が減少し、2℃に達した場合、99%が消滅すると予測されています。
サンゴは、海の生き物たちの住処や栄養分を作り出しており、海の豊かな生態系はサンゴがベースであると言っても過言ではありません。サンゴが絶滅して海の生態系が大きく崩れることが懸念されています。
海面上昇
地球温暖化によって海面上昇もさらに進むと予測されています。海水の膨張や氷床の融解が要因で、このままでは21世紀中に最大82cm上昇すると見られています。
すでにツバルやフィジー諸島共和国など海抜の低い国々で高潮による被害が大きくなり、潮が満ちると海水が住宅や道路に入り込んでいるのです。海水により田畑の作物が育たなかったり、飲み水が塩水になったりする被害も確認されています。
一方で2100年までの海面上昇は、気温上昇が2℃の場合よりも1.5℃の方が約10cm少なくなり、リスクにさらされる人々が最大1千万人減らせると予測されています。できる限り気温上昇を抑える対策が重要ではないでしょうか。
漁獲量の大幅な減少
気温の上昇や気候変動が進むことで、漁獲量が大幅に減少することも予測されています。年平均気温が1.5℃上昇した場合、世界の漁獲量は150万トン、2℃の場合は300万トン減少するといいます。
気象庁によると、日本近海における約100年あたりの海域平均海面水温(年平均)の上昇率は+ 1.16℃です。これは世界平均の2倍のスピードで、日本の気温の上昇率(+ 1.26℃)とほぼ同じです。
海水温が上昇した場合、海洋生物はそれぞれ適温の場所へと北上したり、回遊ルートを変更したりするため、もともと地域で獲れた魚が獲れなくなる可能性も高くなります。
たとえば2050年にはオホーツク海の大部分がサケにとって高温になり、日本周辺のサケの回遊ルートは失われると考えられています。日本でサケが獲れなくなる可能性は高まっているのです。
海の生態系が壊れ、世界全体の漁獲量が大きく減少する未来も近いのではないでしょうか。
▼SDGsと地球温暖化の関係について詳しくはこちら
気候変動への対策2選
気温上昇が続いた際に想定される問題について詳しくみてきました。異常気象が急激に増加し、生態系が破壊される最悪のシナリオを回避しなければなりません。
それでは気温上昇を抑えるために世界や日本はどのような取り組みをしているのか、詳しく見てみましょう。
気候変動サミット|地球温暖化対策についての国際交渉
世界の取り組みとして「気候変動サミット」が挙げられます。気候変動サミットとは、世界各国の首脳が地球温暖化対策について話し合う国際連合の会議のことです。
「課題の共有」と「協力関係の締結」により先進国と新興国が協力して地球温暖化対策の国際交渉を加速させる狙いがあります。
オンライン開催された気候変動サミット2021年では各国が具体的な削減目標を掲げたり、削減目標達成のために補助金や減税の拡充を示したりするなど、気候変動対策強化に向けての大きな一歩となりました。
関連記事:《徹底解説》気候変動サミット2021まとめ|概要から各国の削減目標まで解説
RE100|使用電力100%を再エネ由来にする取り組み
RE100とは、「使用する電力を100%再生可能エネルギーで補うことを目指している企業が加盟する国際的な企業連合」です。国際環境NGOの「The Climate Group」が2014年に開始しました。
日本だけではなく世界中で取り組みが行われており、二酸化炭素の削減につながる再生可能エネルギーの需要と供給の拡大を図っています。
企業がRE100に参加するメリットとしては、ブランドイメージアップや投資対象として評価を得られやすい点が挙げられます。近年、消費者の環境問題に対する意識が高まっており、RE100を取得することで「持続可能な社会の実現のために努力している」という企業の魅力を伝えられるからです。
加えてエネルギーコストを抑えられることも大きな利点です。再生可能エネルギーの導入コストは大きく低下しているため、二酸化炭素を減らしながら電気代を抑えられます。
現在、日本では、株式会社リコーやイオン株式会社、大和ハウス工業株式会社など多くの企業が加盟しています。
私たちにできること3選
最後に私たちが気候変動対策として、日常生活の中でできる取り組みをご紹介します。二酸化炭素増加の要因となる大量のゴミを削減する取り組みです。
無駄な買い物を減らす
個人でできる1つ目の行動は「無駄なものを買わないこと」です。
服やバック、食べ物などつい衝動買いしてしまうことはありませんか。「同じような服があった」。「まだ食べられると思って冷蔵庫の中に入れておいたら、賞味期限・消費期限が切れてしまった」。私も同じような経験があります。
いらなくなったものや食べられなくなったものを捨てるのは簡単です。しかし生産にかかった多くの資源を無駄にすると同時に、焼却のために余計な二酸化炭素も排出されるのです。
持っている物や食べ物を買い物前にチェックして予定を立ててから買い物に行ったり、少し高くても長く使えるものを購入したり、工夫することはできます。少しずつ無駄な買い物を減らしてみませんか。
使い捨て商品の使用を減らす
「使い捨て商品の使用を減らすこと」も二酸化炭素削減につながります。
普段から何気なく使っている使い捨て商品。コンビニでもらえるスプーンやフォーク、ホテルの歯ブラシ、紙の皿など、私たちの身の回りには気軽に使える便利な使い捨て商品が溢れています。
ただ、少し考えてみてください。1回限りの使用のために生産時には木材や紙、水、石油など多くの資源が使われています。工場からお店に商品を使う際にも多くの二酸化炭素が排出されているのです。
使い捨て商品はとても魅力的です。しかし自分でマイ箸や歯ブラシなど繰り返し使えるものを用意することで、多くの資源や燃料の無駄を減らせます。ぜひ意識して実践してみてください。
ペットボトルの使用を減らす
ペットボトルの使用を控えることも、二酸化炭素を減らす大きな一歩です。
ペットボトルをリサイクルに出す方が増えてきていますが、どのように処理されているか知っていますか。
ペットボトルリサイクルの大半は国内で行われているのではありません。コストが低い途上国に輸出されリサイクルされているのです。
使い終わってからリサイクルまでの過程では船の輸送時やリサイクルの際に大量の二酸化炭素が排出され、多くの水資源やエネルギーも過剰に使われています。
「ペットボトルをリサイクルに回せば環境破壊にはならない…」。この考えは正しいと言えるのでしょうか。ぜひマイボトルの持参を習慣化し、ペットボトルの使用を減らしてみてください。
まとめ
今回はSDGs13「気候変動に具体的な対策を」と気候変動問題について学んできました。
気候変動の深刻な影響を受けていない国はありません。
気温上昇や異常気象の発生、漁獲量の減少など、その影響は徐々に私たちの生活を脅かしています。
今世紀中に気温上昇を1.5℃に抑えるには、より具体的な対策を実行することが不可欠です。
気候変動を防ぐために、私たちができることは少なくありません。「資源や燃料の無駄遣いを減らす行動」を習慣化し、対策を進めていきましょう。