カーボンニュートラルの実現は2050年までに必要だと言われています。現在、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を目指しています。
では、なぜ「2050年」なのでしょうか。また「2050年」に設定することで見えてくる展望は何なのでしょうか。
今回は、2050年カーボンニュートラルがなぜ設定されたのかに加え、その歴史や世界と日本の取組事例まで紹介します。
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2050年カーボンニュートラルとは
そもそもカーボンニュートラルとは
カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすることを意味します。
つまり、温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させることを意味します。
実質ゼロとは、プラスマイナスゼロの状態のことで、人間が排出したCO2などを含む温室効果ガス排出量と植物が吸収した温室効果ガス量がプラスマイナスゼロになる状態を目指すものです。
温室効果ガスの排出量を減らすこともカーボンニュートラルの取り組みですが、削減しきれなかった温室効果ガスを森林などに吸収してもらうために、森林保全や植林活動を行うのもカーボンニュートラルの大事な取り組みです。
近年、国内外でさまざまな気象災害が発生しています。こうした気候変動は、農林水産業、自然生態系だけでなく私たちの経済活動等にも影響を及ぼします。気候変動の一因には温室効果ガスが挙げられます。
国民一人ひとりの衣食住や移動といったライフスタイルに起因する温室効果ガスが日本全体の排出量の約6割を占めるという分析もあり、国や自治体、企業だけの問題ではありません。
カーボンニュートラルの実現に向けて、誰もが無関係ではなく、全員が意識して取り組む必要があります。
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なぜ2050年までにカーボンニュートラルを達成しなくてはならないのか?
2015年に開催された「パリ協定」では以下の目標が設定されています。
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これに加えて、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「IPCC1.5度特別報告書」によると、1.5度努力目標を達成するためには、2050年近辺までのカーボンニュートラルが必要という報告がされています。
つまり、気候変動防止に必要な1.5度目標を達成するために2050年カーボンニュートラルの考え方が生まれたのです。
2050年カーボンニュートラルに至ったロードマップ
2050年カーボンニュートラルの起源である2015年「パリ協定」に加え、1997年「京都議定書」、そして最新の2021年COP26について時系列順に紹介します。
京都議定書│温暖化に対する世界初の国際条約
京都議定書とは、初めての温暖化に対する国際的な取り組みのための国際条約です。1997年に京都で開催されたCOP3(国連気候変動枠組条約第3回締約国会議 Conference of Kyoto)
で採択されたため、「京都」の名が冠されています。
京都議定書は、参加している先進国全体に対して次のことを要求しています。
「温室効果ガスを2008年から2012年の間に、1990年比で約5%削減すること」
加えて、国ごとにも温室効果ガス排出量の削減目標を定めています。この取り決めにより、EUは8%、アメリカ合衆国は7%、日本は6%の削減を約束しました。
アメリカは後に京都議定書体制を脱退したためこの約束を破棄しましたが、この削減目標は国際社会が協力して温暖化に取り組む大切な一歩となりました。
一方、京都議定書は途上国には削減義務を求めていません。
これは、気候変動枠組条約の「歴史的に排出してきた責任のある先進国が、最初に削減対策を行うべきである」という合意に基づき、京都議定書の下での最初の約束については、まずはこれまで温暖化を引き起こしてきた先進国が率先して対策をするべきだ、という考え方が反映されたためです。
パリ協定│脱炭素社会を目指す
パリ協定とは、2015年12月にフランス・パリで開催されたCOP21(国連気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、世界約200か国が合意して成立したものです。パリ協定は「京都議定書」の後を継ぐものであり、カーボンニュートラルを2050年までに達成する理由となった協定です。
パリ協定では、地球温暖化防止に向けた対策の大枠のみが定められており、脱炭素社会の実現のために、各国が具体的な政策を立案し、実行していくことが求められています。主なパリ協定の要点を以下にまとめました。
平均気温が上がるのを2℃未満にする。努力目標は1.5℃未満にする。(努力目標を達成するには2050年までのカーボンニュートラルが必要)
各国が温室効果ガス削減目標を立て、5年ごとに見直す。
温暖化で起きる被害を軽減する対策を立てる。
また、1.5度に気温上昇を抑えることができたとしても、異常気象や海面上昇などの温暖化の悪影響は避けられません。こういった悪影響に対応するための適応策の強化や、途上国の持続可能な開発を支援する資金や技術供与の仕組みも、パリ協定の大きな要素として組み込まれています。
グラスゴー気孔協定(COP26)│120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」を目指す
2021年にイギリスのグラスゴーで開催されたCOP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議 Conference of Praties)では、約120カ国の代表団、科学者、環境保護活動家など2万5000人以上が参加し、気候変動に向き合うため、協議が行われました。
COP26では、世界的なCO2の削減目標や、その手段、2015年に策定されたパリ協定の具体的な実施ルールについて議論されました。
COP26では、成果文書「グラスゴー気候協定」が採択されました。石炭火力発電の利用を段階的に廃止することが明記されたほか、「気温上昇を1.5度に抑える努力を追求すると決意する」とパリ協定の努力目標の1.5度を追求する姿勢が鮮明になっています。
この実現に向けて、世界が取組を進めており、120以上の国と地域が「2050年カーボンニュートラル」という目標を掲げているところです。
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2050年カーボンニュートラルの矛盾点・反対意見
世界でカーボンニュートラルが進む一方で、カーボンニュートラルは「矛盾している」、「意味がない」、「おかしい」と批判の声も存在します。
反対意見の1つとして「CO2濃度は増えても問題ない」という意見があります。
現在の地球のCO2濃度は410ppmであり、これは江戸時代の1.5倍です。その間、地球の気温は0.8度上がりました。この間について、データベースで事実を見ると、災害はほとんど増えていません。むしろ緩やかなCO2濃度増加と温暖化は健康にも農業にもプラスだったと考えることができます。
CO2濃度が高くなり、気温が高くなると植物の生産性が上がります。植物のほとんどが630ppmまでであれば、CO2濃度が高ければ高いほど光合成が活発になり、生産量も増します。つまり、CO2濃度の上昇は農業の助けとなり生態系も豊かにするのです。
そもそも温室効果の強さはCO2濃度が上昇するにつれて鈍化していきます。CO2濃度が低い状態だと僅かに増えるCO2によって赤外線吸収が敏感になります。しかし、濃度が高くなるにつれて、赤外線が飽和状態になるのです。既に吸収された赤外線はそれ以上吸収されることはないのです。
これらを踏まえるとこれまでの温暖化はさしたる問題ではなく、今後も同程度のペースで温暖化が進むならカーボンニュートラルは本当に意味のあるものなのでしょうか。
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政府の取組
EU│「Fit for 55」でカーボンニュートラルを目指す
EUは、共通の目標として2050年までにカーボンニュートラルの達成を掲げています。
「Fit for 55」は2050カーボンニュートラルへの具体的な計画であり、2030年までに排出レベルを1990年の水準から55%下げることを目的としています。
主要な計画を下にまとめました。
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米中が共同宣言│気候変動対策で協力強化
パリ協定で設定した、気温上昇を摂氏1.5度に抑えるという目標を達成するため、アメリカと中国は今後10年間の気候変動対策での協力を強化することを盛り込んだ共同宣言を発表しました。
共同宣言では、排出規制や環境基準の枠組み作り、温室効果の高いメタンの削減などで協力するほか、25年に35年の削減目標をともに提出するとしました。
二酸化炭素排出量トップ2かつ、経済対立など多くの対立をもつ中国とアメリカの二国が共同宣言を出すことで、協調姿勢を国際社会にアピールする狙いがあると見られています。
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企業の取組
ネットフリックス│2022年末までにCO2排出量を実質ゼロに
190カ国以上で動画配信を行うネットフリックスは、来年末までにCO2排出量を実質ゼロにし、その後も維持していく計画「Net Zero + Nature (ネットゼロ+自然)」を掲げました。CO2排出量の削減、熱帯雨林などのCO2吸収源の保全、そして自然生態系の再生への投資を通じて取り組んでいきます。
具体的な取組計画として、パリ協定が掲げる「気温上昇を1.5度以内に抑える」という目標に沿い、排出量削減を目指します。
また、2022年末までに危機的状況にある自然生態系の再生への投資を拡大し、カーボンニュートラル達成を目指しています。
参照:ネットゼロ + 自然: 気候変動に対するNetflixの取り組み
P&G│2040年までにカーボンニュートラルを目指す
P&Gは、2040年までに原材料から小売店までの事業とサプライチェーン全体で温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするという新たな目標に加え、この10年間で有意義な進展を図るための2030年の暫定目標を設定しました。
再生可能な電力を100%購入するという2030年の目標に向けて、すでに全世界で97%を購入しており、目標に近づきつつあります。
原材料から小売店までのサプライチェーン・物流の排出量は、事業活動の約10倍であり、2030年までに排出量を40%削減する目標を掲げています。また、出荷する完成品の輸送効率を2030年までに50%向上させることを計画しています。
参照:世界全体で2040年までに温室効果ガス排出量をNET ZERO
2050年カーボンニュートラル宣言の日本の取組4選
政府の取組
菅内閣総理大臣の所信表明演説│カーボンニュートラルへのさらなる挑戦
菅内閣総理大臣は2020年10月の所信表明演説において、2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しました。加えて、2021年4月、地球温暖化対策推進本部及び米国主催の気候サミットにおいて、「2030年度に、温室効果ガスを2013年度から46%削減することを目指す。さらに50%の高みに向けて、挑戦を続けていく。」ことを表明しました。
日本政府は「2050年カーボンニュートラル宣言」の対策として「グリーン成長戦略」を掲げています。グリーン成長戦略とは企業の温暖化への挑戦を後押しする産業政策です。
この戦略で民間企業の大胆な技術革新を促し、日本の「経済と環境の好循環」をつくっていくことが目的です。企業の技術革新の大胆な投資を後押しするには企業のニーズにあった支援策が必要です。研究開発、実証、導入拡大、自立商用といった段階を意識して、それぞれの段階に最適な政策がきめ細かく措置されています。
▼「グリーン成長戦略」について詳しくはこちら
カーボンニュートラルに向けた産業政策“グリーン成長戦略”
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「2030年度までに温室効果ガス削減46%」経済界が賛同|経団連、日商が意見を表明
企業の取組
J-オイルミルズ│天然資源に依存する企業として2050年カーボンニュートラルを掲げる
J-オイルミルズは2021年度現在、2030年度までにCO2排出量を2013年度対比で50%削減という目標を新たに設定しています。同時に2050年度までに排出ゼロにするカーボンニュートラルを掲げ、一層の取り組みを進めていきます。
また購入する原材料や商品の製造に関するCO2排出量など、サプライチェーン全体での削減も目指します。
このようにJ-オイルミルズは、原料の多くを天然資源に依存する企業として、地球温暖化や気候変動、原料の生産量や作柄へ影響する重要な課題として温室効果ガスの排出量削減に積極的に取り組んでいます。
参照:温室効果ガス(GHG)削減|JOYL – J-オイルミルズ温室効果ガス(GHG)削減
日本製鉄│ゼロカーボンスチールへの挑戦
日本製鉄は脱炭素社会に向けた取り組みにおいて、「日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050〜ゼロカーボン・スチールへの挑戦〜」を掲げています。
まずは現行の高炉・転炉プロセスでのCOURSE50(水素活用還元プロセス技術)の実用化、既存プロセスの低炭素化、効率生産体制構築などによって、2013年比で30%のCO2削減をターゲットとしています。
下図は日本製鉄の2050カーボンニュートラルのシナリオです。
画像引用:日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050 | 気候変動への対応
2050年ビジョンのためには3つの超革新技術が必要です。
大型電炉での高級鋼製造
高炉水素還元(COURSE50・Super COURSE50)
100%水素直接還元プロセス
日本製鉄の公式ページではこれらの技術の課題と必要な外部条件がリストアップされています。気になる方は確認してみてください。
▼日本製鉄の公式ページはこちら
日本製鉄カーボンニュートラルビジョン2050 | 気候変動への対応
日本郵政グループ│電気自動車の導入と利用拡大
日本郵政グループは、グループ中期経営計画「JPビジョン2025」におけるESG目標として、「2050年カーボンニュートラルの実現を目指す」という超長期の目標と、これを着実に推進するためのマイルストーンとして「2030年度46%削減(対2019年度比)」を掲げ、カーボンニュートラルの実現に向けた取組を推進しています。
日本郵政では取組の一例として電気自動車の導入や拡大を行い、CO2の排出を抑えています。
また、比較的小さな荷物の配達には四輪車よりCO₂排出量の少ない二輪車を活用しているほか、都市部を中心に電動アシスト付自転車を約2,000台配備し、環境負荷の少ない配達に努めています。
2020年度までに東京都を中心とした近距離エリアにおいて、郵便物や荷物の配送時に使用する軽四輪自動車1,500台および郵便配達で使用する自動二輪車等2,200台をガソリン車から電気自動車へ切り替え済みです。今後は2025年度までに軽四輪車約12,000台、自動二輪車等約21,000台を電気自動車へ切り替えることにより、さらなる環境負荷の低減を目指します。
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まとめ
今回は2050年カーボンニュートラルについて、その理由から歴史や各国の取組事例まで解説しました。
パリ協定で設定された努力目標(平均気温上昇を産業革命以前に比べ、「1.5℃に抑える努力を追求」)を達成するには2050年までのカーボンニュートラルが必須です。
2050年カーボンニュートラルを達成することで、我々は気候変動がもたらす最悪の事態を回避できます。
SDGs CONNECT ディレクター。ポイ捨ては許さない。ポイ捨てを持ち帰る少年だった。
現在はCO2の約300倍もの温室効果をもつと言われている一酸化二窒素(N2O)を削減できる微生物について研究。将来は環境×ITの第一人者になりたい
▶https://www.instagram.com/reireireijinjin6