【更新日:2022年12月17日 by 田所莉沙】
フェアトレードは、途上国の原料や商品を適正な価格で継続的に購入することで、弱い立場にある途上国の生産者・労働者の生活向上と自立を目指す「貿易のしくみ」です。
フェアトレード商品を購入することは、途上国の生産者をサポートすることにつながりますが、日本でフェアトレードは広まっていません。
「なぜ日本でフェアトレードは普及しないのか」「フェアトレードを広めるためにできることは何か」と思われる方も多いのではないでしょうか。
この記事では、フェアトレードの普及率や日本の現状、日本でフェアトレードが普及しない理由や、普及のための解決策を解説します。
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フェアトレードの普及率と日本の現状
皆さんは日本におけるフェアトレードの普及率や現状についてどのくらい知っていますか。
まず、日本におけるフェアトレードの普及率と現状について解説します。
2021年度における日本のフェアトレード認証商品の売上高は150億を超えており、前年度と比較すると売り上げが20%上がりました。この金額は、年間で国民一人あたり約126円分のフェアトレード商品を購入していることになります。
フェアトレード認証商品の売上高が上昇した理由として、新型コロナウイルスによるリモートワークの増加によって家庭用フェアトレードコーヒーの売上向上が挙げられます。そのほかにも、セブンイレブンのような大手小売店によるフェアトレード認証商品の拡大もフェトレード認証商品の売上向上に大きく貢献しています。
一方日本では年々フェアトレード認証商品の種類が増加し、売上も上昇しているもののドイツやスイスと比較すると、いまだ大きな成果は表れていません。たとえば2020年におけるドイツのフェアトレード認証商品売上高は2,374億円であり、日本の売上高の18倍でした。また2020年におけるスイスの国民一人あたりの年間購入金額は11,267円であり、日本の108倍となっています。ドイツやスイスなどの欧米諸国では、消費者のフェアトレードに関する意識が高いことや、企業により積極的にフェアトレード関連の事業が行われています。
そのため、スイスやドイツにおけるフェアトレード認証商品の売上高と比べると、日本の「フェアトレード」に向けた取り組みは充分と言えないのが現状です。
フェアトレードはなぜ必要なのか
世界各国でフェアトレード認証商品は販売され、多くの人が購入しています。ではなぜ「フェアトレード」は必要なのでしょうか。
「フェアトレード」とは発展途上国で暮らす生産者・労働者の生活改善と自立を目指して、経済的・社会的に強い立場にある先進国と、弱い立場にある発展途上国が対等な立場で取り引きを行う取り組みです。
私たちが日頃から口にしている食べ物や飲み物、毎日着ている衣服の原材料は、発展途上国で生産されたものがほとんどです。たとえば日本では、食品や日用品が安い価格で販売されています。しかし発展途上国では安い価格で販売するために、適正な価格で取り引きをしていません。
この不平等な取り引きによって、生産者・労働者に正当な報酬が支払われなかったり、労働環境が整っていなかったりと、生産者・労働者の健康に悪影響を与えています。
そのため、発展途上国で暮らす生産者・労働者の生活を安定させ、自立するためにフェアトレードが必要なのです。
関連記事:フェアトレードの仕組みとは?-背景にある4つの問題も解説
関連記事:フェアトレードとSDGsの関係とは?-企業や個人の取り組みも解説
日本でフェアトレードが普及しない理由5選
ここまでフェアトレードの必要性について、まとめてきまいした。
続いて、日本においてフェアトレードが普及しない理由について、5つ説明していきます。
関連記事:フェアトレードの5つの問題点とは?-普及が進まない理由も徹底解説
フェアトレードの基準が曖昧である
国際フェアトレードラベル機構(Fairtrade Inernational)が設定している「国際フェアトレード基準」は、発展途上国で暮らす生産者・労働者の持続可能な開発を促進するために設けられた世界共通の基準です。
しかし「国際フェアトレード基準」を必ず満たさなければフェアトレード商品と認証されないという、厳密な法律がありません。そのため企業が独自に定めた規定に基づいて、フェアトレード商品とみなしている場合もあります。
明確な基準がないことにより、消費者にとってフェアトレード商品が分かりにくくなっている原因の一つです。
フェアトレードの認知度が低い
日本におけるフェアトレードの認知度が低いことも、フェアトレードが普及しない要因の一つです。2019年における日本のフェアトレード認知度は53.8%であり、50%以上の人がフェアトレードについて認識しています。
しかし日本におけるフェアトレードの認知度は先進国と比べると圧倒的に低く、充分であるとは言えません。
さらにフェアトレードについて認識している人の中で、実際にフェアトレード認証商品を購入したことがある人は42.4%であり、2015年度の数値と比較しても大きな変化はありませんでした。日本では多くの人にフェアトレードが認知されているものの、実際に購入している人は少ないと言えます。
フェアトレードへの理解が進んでいない
日本ではフェアトレードの認知度が上昇しているものの、内容を正しく理解していない人も多くいます。フェアトレードにおける理解度の低さが、フェアトレードが普及しない原因の一つです。
日本でのフェアトレード普及率を上げるためには、テレビやネット記事などのメディアの力が重要となります。しかしメディアが取り扱っている内容の多くは、フェアトレードに従事する人々や企業の「社会貢献」に関する事例です。そのため「フェアトレード=ボランティア活動」という印象を抱く人がいます。
「フェアトレード」は発展途上国で暮らす生産者・労働者が安定した生活を確立し、自立するために行う取り組みであることを、理解していくことが大切です。
品質を安定させることが難しい
フェアトレード認証商品は、安心・安全で高品質な商品です。普通の商品と比較しても、フェアトレード商品の方が環境にやさしい有機栽培を活用して育てていたり、健康によい原材料を使用していたりします。
高品質な商品を保つためには、環境が整っていることも大切です。しかし発展途上国では、公衆衛生の未整備や大気汚染などの問題解決に向けた取り組みが、十分ではありません。
また高品質な商品を継続して生産するためには、技術の習得も必要不可欠です。しかし発展途上国では、技術を得るための資金がないことが多く、技術を磨くこともできていません。
商品の品質は、生産する環境や技術力にも影響されるため、品質維持が難しくなっています。
価格競争が激しい市場
フェアトレード商品は、高品質かつ価格設定が高くなっています。発展途上国で暮らす生産者・労働者の生活を支援する「フェアトレード」は、生産者・労働者への最適な報酬を支払っているため、商品価格も高く定められています。
安心・安全で高品質な商品でも、なかなか実際に購入する人が多くない現状です。日本人の消費者の多くは品質より値段を重視しており、高価格なフェアトレード商品は避けられる傾向があります。
また日本では、価格が安くかつ高品質な商品も多く販売されています。これにより、高品質であっても高価格で販売されているフェアトレード商品が選ばれにくくなっています。
関連記事:企業がフェアトレードに取り組むメリット3選-企業一覧や事例も紹介
フェアトレードを普及させるために必要な4つの取り組み
ここまで日本においてフェアトレードが普及しない理由について、解説していきました。
次に、フェアトレードを普及させるために必要となる取り組みを説明していきます。
フェアトレードの基準を審査する機関を設置する
フェアトレードにはさまざまな基準があり、企業も独自に定めることができます。世界共通の基準として「国際フェアトレード基準」があるものの、基準が絶対である決まりがありません。「国際フェアトレード基準」のほかにもフェアトレード団体(FTO)マークや、企業が定めたオリジナルの基準があるためフェアトレードに関する基準が多く、とても曖昧です。
フェアトレードの基準を明確にするためには、フェアトレードの基準を企業や消費者ではない第三者の機関に審査してもらう必要があります。第三者によって客観的に基準を調べてもらうことで、基準の公平かつ明確な基準が設定できます。
明確な基準の設定により、フェアトレード認証商品を購入する消費者にとってもわかりやすくなり、「フェアトレード」普及につながります。
メディアがフェアトレードを取り上げる
テレビやラジオ放送、新聞などのメディアの多くは「フェアトレード」の本質に関する情報をあまり取り上げておらず、見ている人に「フェアトレード=ボランティア活動」という誤ったイメージを与えています。
日本においても、年々「フェアトレード」の認識が深まっているものの、実際に「フェアトレード」に貢献している人や正しい認識ができている人はいまだに少ないのが現状です。
日本でさらに「フェアトレード」を普及するためには日頃から目にしたり、手にするテレビや新聞などのメディアが「フェアトレード」について取り上げることが必要といえます。
企業や団体が生産者と技術協力をする
「フェアトレード」を達成させるためには、フェアトレード認証商品を消費者に購入してもらうことが重要です。しかし消費者の多くはフェアトレード認証商品は価格が高いため、あまり手にすることがありません。
多くの人に購入してもらうためには、価格よりも品質を選んでもらえるように品質を維持したまま、一定の生産をすることが必要となります。しかし発展途上国では、労働環境の整備や設備の設置など、原材料を生産するのに必要な環境が充分に整っていません。
また品質の維持・向上をするためには、技術が伴います。企業や団体がこのことを理解し、ただフェアトレード商品を販売するのではなく、技術・人材支援が大切です。
学校教育でフェアトレードや貧困問題について教える
小学校や中学校でフェアトレードや貧困問題について学ぶことも、日本でのフェアトレード普及につながります。フェアトレード」は公正な貿易だけではなく、発展途上国の経済状況や歴史、文化も大きく関わってくるものです。
発展途上国についてフェアトレードを通じて知ることで、貧困などの国際的な社会問題にも目を向けられるようになります。
学校の行事として開催される文化祭の出し物として、フェアトレード商品を取り扱うこともフェアトレードに貢献する一つの手段です。フェアトレード商品を扱うショップ「Par Marche」では、高校や大学の文化祭で販売する商品を提供しています。実際に売れた分の商品のみ精算するため、売れ残った商品は返送することができます。
Par Marcheのイベント販売について詳しくはこちら▼
https://parmarche.com/pages/event/
フェアトレードを普及させるために私たちができること3選
ここまでフェアトレードを普及させるために必要な取り組みについて、まとめていきました。
最後に、フェアトレードを普及させるうえで私たちができることについて解説していきます。
フェアトレードについて調べる
私たちがフェアトレードを普及させるためにできる簡単なことは、フェアトレードについて調べることです。インターネットなどで調べることでフェアトレードの現状や、フェアトレード認証製品についての情報を得ることができます。
フェアトレード・ジャパン公式サイトでは、フェアトレードに関する情報を公開したり動画を配信したりしています。フェアトレードの普及・拡大に向けて事業を展開している企業や団体の公式サイトを調べることも、フェアトレードについて知るための手段です。
フェアトレード・ジャパンが公開する資料について詳しくはこちら▼
https://www.fairtrade-jp.org/material/
フェアトレード商品を購入する
「フェアトレード」に貢献する取り組みとして、実際にお店やネット通販でフェアトレード認証商品を購入することが、発展途上国で暮らす生産者・労働者の支援につながる行動です。
フェアトレード認証商品は、スーパーやコンビニなど身近なお店で販売されています。買い物に行った際、フェアトレード商品があればぜひ手に取ってみてください。
お店だけではなく、インターネット通販でもフェアトレード商品を購入できます。ネット通販サイト「fair select」では、コーヒー豆だけではなく紅茶やワイン、コスメ用品も取り扱っています。
同じ商品でも価格が安い商品ではなく、フェアトレード商品を購入してみてはいかがでしょうか。
フェアトレードに関するイベントに参加する
フェアトレードに関連したイベントに参加することも、フェアトレードへの理解を深めることができます。
神奈川県逗子市はフェアトレードタウンとして認定されており、フェアトレードの普及・拡大のため、さまざまなイベントを開催しています。2022年5月には、逗子市内の一部店舗でフェアトレード食材とローカルフードを用いた、ランチ・ディナー・お弁当・スイーツを提供しました。
また9月・11月にはフェアトレードに関するフィールドワークや講座を開催しました。逗子市以外だけでなく、そのほかの地域でもフェアトレードに関するイベントを開催しているため、ぜひ調べてみてください。
まとめ
「フェアトレード」は経済的・社会的に強い立場にある先進国が、発展途上国の生産者・労働者と正当な取り引きをすることで、発展途上国で暮らす生産者・労働者の生活を改善し自立を目指す取り組みです。
世界各国で「フェアトレード」の取り組みは行われており、フェアトレード商品の売上高も年々向上しています。一方で日本は、世界と比べると売上高があまり伸びていません。日本であまり「フェアトレード」が普及していない理由として、認知度や理解度の低さ、通常の商品よりも高い価格設定が挙げられます。
日本でさらに「フェアトレード」を普及させるためには、テレビなどのメディアが「フェアトレード」について取り上げたり、学校教育の中に組み込んだりすることが大切です。とくに文化祭などの学校行事で取り入れることで、楽しみながら「フェアトレード」について学び、貢献できます。
日本での「フェアトレード」活動をより活発化させるため、みなさんもぜひ「フェアトレード」商品を手にとってみてください。
SDGsCONNECT SEOライター。大学では文学を通じて、ジェンダーについて学んでいます。SDGsについて詳しくない人にとってもわかりやすく、かつ情報が正確な記事を書けるよう、心がけています。