【更新日:2023年5月17日 by 田所莉沙】
ESGとは、E(Environment)・S(Social)・G(Governance)の頭文字を組み合わせた言葉です。ESGは、近年世界で注目され始めており、地球温暖化や気候変動などの社会問題の解決に貢献する活動であると言われています。
ESGの活動には、生態系の保護や男女平等社会の実現など、数多くの取り組みがあります。では社会問題を解決するための方法として、世界各国や日本ではどのような方法を取り入れているのでしょうか。
この記事では、ESGの内容や世界各国のESGに関する現状について解説します。また企業がESG経営を行うメリットや、実際に取り入れている企業の紹介も行います。
【この記事で分かること】 |
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ESGとは|ESGの意味やCSRとの違いを簡単に解説
「ESG」とは、それぞれ「環境(Environment)」・「社会(Social)」・「ガバナンス(Governance)」の3つの英単語のうち、頭文字を組み合わせた言葉です。ESGでは、地球温暖化などの社会問題を解決しつつ、持続的な企業の成長を目指しています。
また似たような言葉として、「CSR(Corporate Social Responsibility)」というものもあります。「CSR」とは、企業が事業を展開するうえで担う社会的責任のことです。「CSR」が指す社会的責任では、自社の利益を第一に追求するのではなく、社会問題などの解決に貢献することを目指します。
ESGもCSRもどちらも世界各国で発生している問題や、従業員などへの考慮をすることで問題の解決を目標としています。しかしESGでは最終的に企業が利益を得ることを求めていますが、CSRでは事業を通じた利益は求めていないという違いがあります。
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ESG投資とは|非財務情報の観点を重視した投資
「ESG投資」とは、投資家たちが投資する企業などのESGに関する取り組みを評価し、投資することです。従来まで、投資家たちは企業の利益率や、企業におけるお金の流れなど、財政情報のみで投資する価値を定めていました。「ESG投資」では、これらの財政情報に加えて ESGという観点も考慮にいれて、投資をします。
「ESG投資」をすることは、持続可能な社会の実現に貢献するだけではありません。ESGは世界各国で行われており、今後ESGの市場も拡大することが見込まれています。そのため「ESG投資」を行うと、市場の拡大も期待できます。
また「ESG投資」を積極的に行うことで、近年問題となっている環境問題や労働問題などの改善につながります。結果的に、SDGsの達成にも貢献する取り組みです。ESGの具体的な取り組みについては、下記のようなものが挙げられます。
E (Environment) ・二酸化炭素の排出量の削減 ・廃棄物の削減 ・再生可能エネルギーの導入 など |
S (Social) ・労働環境における男女平等 ・現代奴隷制の撤廃 ・多様性の尊重 など |
G (Governance) ・適切な情報の公開 ・賄賂や腐敗の撤廃 ・公正な経営 など |
ESG投資の背景と現状|ESGが注目を集める理由とは
ここまでESGやその投資について、まとめていきました。
では近年ではなぜESGが注目され始めているのでしょうか。続いてESGが注目を集める理由について、説明していきます。
ESG投資の成長
まずESGという考え方が生まれ始めたのが、1920年代でした。当時のアメリカで流行していたタバコや、アルコール類などへの投資が禁止されたことがきっかけとされています。
実際にESGが普及したのは、2006年に国際連合が提唱した「責任投資原則(PRI)」によるものです。「責任投資原則(PRI)」とは、投資家が企業などに投資する際、ESGについても考慮すべきだというガイドラインを指します。このガイドラインは6つの原則で構成されており、現在は3,000以上もの機関が賛同しています。
責任投資原則(PRI) 6つの原則 1.投資のために必要な分析と意思決定のプロセスにESGの課題を組み込む。 2.活動的な所有者となり、所有方針と所有習慣にESGの課題を組み込む。 3.投資の対象を主体にして、ESGの課題について適切な情報の開示を求める。 4.資産運用業界において6つの原則が受け入れられ、実行されるように働きかける。 5.6つの原則を実行する際に、効果を高めるための支援を行う。 6.6つの原則に関連する活動状況や進行状況に関して、報告をする。 |
世界のESG投資の市場規模
ESG投資は世界各国で行われており、年々投資額も増加しています。2021年における世界全体のESG投資総額は、9,281億ドルでした。地域ごとに比較すると、イギリスやフランスなどのヨーロッパ諸国にて最もESG投資が行われています。
世界の中でESG投資総額が2位に位置するアジア太平洋地域では、中国が最もESG投資額が多い状況です。欧州と同様に、アジア太平洋地域でもE(Environment)に多くの投資がされています。一方でアフリカ大陸や、南アメリカ大陸に位置する国々では、ESG投資が活発に行われていません。
またアジア太平洋地域の中で、日本は中国に次いで投資額が多い現状です。とくにE(Environment)に関連した投資を積極的に行っており、製造業やエネルギーの項目が投資額が多くなっています。これらの項目は、今後さらに投資額が増加すると推定されています。しかし不動産業や建設業、小売業などの項目では、ESG投資があまり積極的に行われていません。
ESG投資の種類|7つの投資手法
「ESG経営」や「ESG投資」は、世界各国で行われています。その中で世界中のESG投資額の統計を集計し、さらに普及していくための国際団体として、「Global Sustainable Investment Alliance(GSIA)」があります。GSIAはESGに対する複数の取り組みがある中で、ESG投資の方法を7つに分類しています。
たとえば「ネガティブ・スクリーニング」は、ESG投資方法の中でも最も古い歴史を持ち、世界各国に普及しています。たばこや原子力発電など、特定の業界に対して投資の対象から外すことを言います。
また「サステナブル・テーマ投資」は、環境や社会問題に対する取り組みを行っている企業へ投資をする方法です。再生可能エネルギーや男女間の格差などが、この投資方法に該当します。そのほかの投資方法について詳しくは、以下の関連記事を参考にしてください。
ESG投資 7つの投資方法 1.ネガティブ・スクリーニング 2.ポジティブ・スクリーニング 3.規範スクリーニング 4.ESGインテグレーション 5.サステナブル・テーマ投資 6.インパクト投資 7.エンゲージメント・議決権行使 |
ESG経営とは|環境・社会・ガバナンスを重視する経営方法
では近年多くの企業が取り組んでいる「ESG経営」とは、どのようなものなのでしょうか。
「ESG経営」は、環境や社会を考慮し、法令遵守を重視している経営スタイルのことを言います。「ESG経営」を行うことで、企業が長期的に成長できるようになります。
たとえば近年、地球温暖化をはじめとしてさまざまな問題が、世界各国で発生しています。これらの社会問題を解決するうえで、政府や自治体の取り組みだけでは、問題解決は困難となります。そこで企業が問題解決のために貢献する取り組みが「ESG経営」です。
「ESG経営」では、森林崩壊を防いだり、男女平等な労働環境を整えたりなどの取り組みを行います。これらの取り組みを通じて、持続可能な社会の実現を目指します。世界各国で注目されているESGは、投資家たちにも注目されており、ESGを投資する判断材料にする人が増えています。そのため「ESG経営」を行うことで、投資家たちからも資金援助が得られるようになります。
ESG経営のメリット4選
続いて企業が、ESG経営を行うことで得られる4つのメリットについて、説明していきます。
①企業やブランドイメージを向上できる
まず企業がESG経営を行うことで、消費者の人々や取り引き先の企業からの印象が向上します。近年注目され始めているESGについて、積極的に取り組むことで、企業に対する信頼が得られます。
さらに、企業のイメージが高くなると、就職を希望する人々が増加し、優秀な人材を採用しやすくなります。また優秀な人材が集まるだけではなく、離職率も低下し、働きがいのある職場となる点もメリットのひとつです。
②リスクマネジメントによる経営リスクを軽減できる
ESGのうちG(Governance)では、法令遵守や管理体制を整えていったり、適切な情報の公開を行ったりすることを意味します。これらの取り組みを通じて、企業は万が一のリスクに備えることができます。
ESGに関連するリスクの例として、SNSなどのメディアを通じてバッシングを受けることや、取引先との契約が打ち切られることなどがあります。バッシングや契約の打ち切りを避けるためには、企業がそれぞれ適切な情報を開示したり、企業の体制を整える必要があります。
また近年では、急激に社会状況が変化していきます。急激な変化にともなって、企業にとっても予測していないリスクに直面する可能性もあります。「ESG経営」を行うことで、予測不可能なリスクにも対応しやすくなります。
③労働環境の改善や整備の促進につながる
「ESG経営」の中には、男女間における差別や労働環境の改善も含まれています。とくに日本は他国と比べても、残業が多かったり労働時間が長時間であったりと、厳しい労働環境の場合が多い状況です。
労働環境以外にも、男女間における賃金格差や女性が管理職を担う人が少ないことも、問題の一つです。すべての人が働きやすく、やりがいのある環境を整えることが重要です。実際に環境を整える手段として、リモートワークを推進したり、社内アンケートを通じて従業員の意見に耳を傾けたりすることが挙げられます。
これらの取り組みを行うことで、企業の労働環境が改善され、従業員の満足度も向上します。また働きがいのある職場となることで、従業員の離職率も低下し、優秀な人材も集まりやすくなります。
④新しいビジネスの創出につながる
ESG経営を継続的に行うことで、企業は従来の事業とは別に、新たな事業を創出することができる可能性もあります。
たとえば自社で取り扱っている商品を生産する際に発生する廃棄物を、別の商品の原材料として活用するという、環境に考慮した取り組みを行うことが挙げられます。この取り組みを通じて、企業は原材料にかかる費用が減少したり、廃棄物を処理する際に発生する費用を抑えるたりできるのです。
そのほかにも「ダイバーシティ&インクルージョン」という考え方を取り入れることも大切です。さまざまな宗教や文化をもつ人々の意見を取り入れることで、新たなニーズにも対応ができます。
ダイバーシティ&インクルージョン …企業の従業員一人ひとりを尊重し、能力が活かせるようにすること。性別や国籍などの違いにかかわらず、それぞれの人々が個人の能力を発揮できるようにすること。 |
ESG投資を呼び込むために企業の持続可能な取り組み
続いて、投資家などの人々に投資してもらうための企業の取り組みについて、環境・社会・ガバナンスの3つの分野に分けて、具体例を紹介していきます。
環境分野での取り組み
まずE(Environment)に関連した取り組みとして、省エネルギー設備の導入や、再生可能エネルギー設備の導入があります。「再生可能エネルギー」とは、石炭や天然ガスのような化石燃料ではなく、太陽光や風力など自然由来のエネルギーのことです。
エネルギー節約の施設の多くは、設置するために初期費用がかかります。しかし再生可能エネルギー設備や省エネルギー設備を取り入れることで、自社内で使用しているエネルギー量が削減できたり、電気代が少なくなったりと、さまざまなメリットがあります。
そのほかにも商品の生産時に発生する廃棄物をなくすことや植林活動も、環境分野の取り組みです。
関連記事:《徹底解説》今、注目を集める再生可能エネルギーとは|SDGsとの関係性も解説
関連記事:再生可能エネルギー一覧-それぞれの特徴や課題、導入事例を紹介!
社会分野での取り組み
S(Social)の分野における企業の取り組みには、自社の労働環境を改善することが挙げられます。労働環境の改善として、多様性の尊重や非正規雇用者の採用など、さまざまな取り組みがあります。
たとえば日本では、男女間で同じ労働に対して得られる給料に差が存在します。2021年において男性と同等の労働に対して、女性が与えられる給料は男性が得る給料のうち75.2%程度でした。この数値は経済協力開発機構(OECD)がまとめている平均データも下回っており、他国と比較しても男女間による賃金の格差が大きいことがわかります。
そのほかにも日本では、管理職を担っている女性の割合が少ないという現状です。働き方の多様性を尊重し、女性が要職を務めるようになることで、企業のブランドイメージも向上していきます。
ガバナンス分野での取り組み
ESGのなかでもG(ガバナンス)は、最も重要な分野と言われています。しかし多くの企業ではE(環境)やS(社会)の分野に力を入れており、十分な取り組みが行われていません。
ガバナンス分野の取り組み例としては、財務情報の開示や株主の保護、コンプライアンスの順守などが挙げられます。とくに不適切な経営や、不正会計などの不祥事が起きないよう、きちんとした管理体制を整えることが重要です。
ESG経営を実践する企業の取り組み事例3選
ここまでESGの各分野における、企業の取り組みについて、まとめていきました。
続いて実際にESG経営を行っている、日本企業の取り組みについて、紹介していきます。
①大和ハウス工業株式会社|Challenge ZERO 2055
大和ハウス工業株式会社は、戸建住宅や商業施設など、幅広い事業を展開する企業です。「人・街・暮らしの価値共創グループ」という考えに基づき、人びとが心豊かに生きる社会の実現を目指しています。
大和ハウス工業株式会社が取り組むESG経営のうち、E(Environment)に関連する取り組みが、環境長期ビジョン「Challenge ZERO 2055」です。この長期ビジョンでは、環境負担ゼロの実現を目指し、脱炭素化などの取り組みを行っています。
そのほかにも自然の生態系を考慮しながらまちづくりを行ったり、使用する木材を持続可能なものにしたりと、環境に配慮しています。
②サントリーグループ|芸術・文化やスポーツ活動
サントリーグループは、清涼飲料水やビール・洋酒などの製造と販売を行う企業です。「人と自然と響きあい、豊かな生活文化を創造し、『人間の生命の輝き』を目指す」ことを企業理念としています。
サントリーグループが行うESG経営の中で、S(Social)の分野における取り組みが、芸術・文化の活動やスポーツ活動です。たとえばサントリー美術館では、日本美術を中心に作品を収集し、展示を行っています。現在は、国宝や重要文化財など、貴重な作品も展示しています。
またスポーツ活動では、2014年から東日本大震災復興支援として、「チャレンジド・スポーツ」支援を行っています。競技用用具の寄付や、車椅子バスケットボールの体験教室など、取り組みはさまざまです。
③ANAグループ|対話や情報開示を重視した体制づくり
ANAグループは、航空事業や世界各国の旅行事業を展開する企業です。「安心と信頼を基礎に、世界をつなぐ心の翼で夢に溢れる未来に貢献する」という理念に基づき、取り組みを実施しています。
ESG経営の中におけるG(Governance)の分野で、ANAグループが取り組んでいるのが、対話や情報開示を重視した体制作りです。すべての事業活動において、安全を最優先し、コンプライアンスを順守しています。またリスクに対する対策を徹底することで、危険発生時にも適切かつ迅速な対応を行います。
さらにANAグループは2008年から「国連グローバルコンパクト(UNGC)」にも参加しています。この団体に参加する企業と情報を共有しあうことで、世界規模で取り組みを行っていきます。
国連グローバルコンパクト(UNGC) …国際連合と民間企業などが、グローバル社会を実現するためにつくられた、世界最大規模のサステナビリティイニシアチブのこと。 |
まとめ
ESGは、地球温暖化など世界各国で問題となっている事例に対して、問題の解決を目指すものです。CRSとは違い、ESGは持続的な企業の発展を目指し、取り組みを実施していきます。
ESG投資は近年、世界中で投資額が増加傾向にあり、多くの企業が積極的に取り組んでいます。とくにE(Environment)やS(Social)に力を入れる企業が大部分を占めます。
ESG経営を行うことで、企業としても企業のイメージが向上したり、万が一のリスクに対応できたりと、さまざまなメリットがあります。ぜひ実施できる取り組みから、始めてみてはいかがでしょうか。
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