2022年に創業50周年を迎えた株式会社モスフードサービス。
経営理念である「人間貢献・社会貢献」の心をもとに、食を通じて幸せを届けるモスフードサービスは、D&Iをどのように捉え社内外に浸透させているのだろうか。
今回は、モスグループ*においてD&Iに関わる方々に集まっていただき座談会を実施した。
参加メンバーは、株式会社モスフードサービスの人事制度改革に携わる人材開発部の田中さん、
グループの特例子会社として障害者の採用・活躍を推進する株式会社モスシャイン(以下、モスシャイン)代表取締役社長の須之内さんと取締役営業部長の秋山さんだ。
そして、SDGsを担当する飯田さんに新たにモスグループがスタートさせた社会貢献活動・地域活動の特設サイト「モスの森」について、新たな発信のかたちや込めた想いについても伺った。
*モスグループ 株式会社モスフードサービス(に加え、モスバーガーチェーン)とグループ会社(国内・海外の子会社及び関連会社)からなる。 |
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チャレンジ&サポート。次の50年に向けたモスの人事制度改革
ーー自己紹介をお願いします。
田中:人材開発部 採用・厚生グループ シニアリーダーの田中です。
1988年に新卒で入社後、いったん家庭の事情で退職し、2000年に再度入社しました。2度目の入社以降は、スーパーバイザーとして加盟店さんとともにお店を盛り上げたり、営業企画部として本部と加盟店さんを繋いでいく企画の仕事に従事したり、マーケティングに携わったり、さまざまな仕事を経験させていただきました。
現在は、人材開発部で採用や健康経営などに関わる仕事をしています。
須之内:株式会社モスシャイン代表取締役社長の須之内です。1988年の10月に中途で入社しました。もともと、神楽坂にあったモスバーガーでアルバイトをしていました。アルバイトを退職する際に、当時の部長と課長からお誘いいただき、社員にさせていただきました。
入社後は、直営店に約1年勤めた後、経営企画室やお客様相談室・店舗システムを担当しました。
モスシャインが2018年に特例子会社として認定され、2019年4月に出向となり、その後、2022年4月から代表取締役社長に就任しました。
秋山:モスシャイン取締役営業部長の秋山です。モスシャインの立ち上げが予定されていた2017年に株式会社モスフードサービスに入社し、人事にて1年間、モスシャインの立ち上げに従事しました。2018年からは特例子会社としてモスシャインに出向となり、現在に至ります。
飯田:飯田と申します。1992年に入社し総務・商品開発など幅広く部署を経験してきました。商品開発では、デザートとドリンクの開発を行っていました。そして、現在は店舗で働くメンバー向けの教育ツールであるSDGs通信の発行などSDGs推進やモスフードサービスの社会貢献活動の業務に携わっています。
ーーモスフードサービスの人事の取り組みにおいて、大切にされている理念はありますか?
田中:「チャレンジ&サポート」というスローガンがあります。このスローガンには「メンバーのチャレンジを後押しする組織風土をつくり、全力でサポートする体制を構築する」という思いがこめられています。
ここ2・3年の間に働き改革を進めており、それに応じて人事制度を大幅に見直しています。弊社が今年50周年を迎える中で、次の50年に向かっていくために国内だけではなく世界で評価や尊敬される会社を目指しています。
目標達成のためには、社員である一人ひとりが成長し続けるための人事制度が必要であり、推進を進めています。
ーーどのように人事制度が変わるのですか?
田中:人事制度の中でも、評価・報酬・等級の3つの制度を変えました。
年功序列ではなく、実力主義に変えていくためにメリハリをつけて評価していこうという方針に変わってきています。変革によって社員には動揺もあったようですが、社内の座談会や説明会を繰り返し行ったことで前向きに捉えてくれるようになりました。
ーー人事制度の中でも、D&Iに関して社内での取り組みはありますか?
田中:ダイバーシティに関して、育児勤務制度を少し変更しました。今までは、育児勤務制度の使用期間が法律の最低限のラインである、「子どもが小学1年生に進学するまで」だったのですが、「子どもが小学4年生に進学するまで」に拡充しました。
制度変更前も産休・育休を経て仕事に復帰する方が100%と「働きやすさ」の充実はあったと思うのですが、残業や時短勤務に関する要望が増えてきていました。
ーー制度改革の効果などありましたか?
田中:育休取得率と職場復帰率の双方で100%を維持しています。また最近では、男性の育休取得も増えてきました。
10月から新しい法律に変わったことも踏まえて、社内の勉強会を繰り返し行っているので、社内には「会社で応援してもらえるなら、取ってみようかな」という前向きな捉え方が広がってきています。
小さな取り組みが集まって芽を出せば、カラフルな森になる
モスグループは、自社の社会貢献活動・地域活動を発信するコンテンツ「モスの森」を2021年11月にスタートさせた。
ーー「モスの森」について、どのようなきっかけで発信をスタートされたのですか?
飯田:モスフードサービスの中で、「発信しているサステナビリティに関する取り組みの内容が伝わりづらいものになっているのではないか」という意見が多く出たことがきっかけでした。
本当にさまざまなことに取り組んでいるのですが、社員の自己満足で発信してしまっているのではないかと考えたのです。また、レポートや企業サイトでの発信ではお客様が直接見る機会が少ないのではないかと思いました。
発信方法を増やしてみることで、少しでもお客様がモスを身近に感じる機会を増やしたいと考えたのです。
ーー「モスの森」というネーミングに込めた想いを教えてください。
飯田:さまざまな小さい取り組みが集まって、大きな森のように発展していきたいと願い、命名しました。
丸いイラストは木の実や種をイメージしています。カラフルな木の実や種が集まって芽を出し、森を形成するというコンセプトです。
ーー「モスの森」はどのような人に見てもらいたいですか?
飯田 :モスに関わるすべての方に見ていただきたいと思っています。普段、お店を利用していただくだけでは分からない、「こういうこともやっているんだ」というような気づきを提供できたらと思っています。
アジア全体のフードビジネス人材の育成を目指す「ベトナム カゾク」とは
モスフードサービスでは、アジア諸国との人材交流を通して、アジア全体のフードビジネス人材の育成への貢献を目指す「ベトナム カゾク」を開始した。
ベトナムから特定技能1号在留資格取得者を特定技能社員として迎え、実店舗での実習及び技術習得支援を実施する。
ーー「ベトナム カゾク」を始めたきっかけを教えてください。
田中:2019年4月に在留資格制度の特定技能1号において、外食業が認定されたことが大きなきっかけです。
もともと、お店で働いている外国人の中で、ベトナムの方が一番多かったんです。また、みなさん勤勉で一生懸命働いてくださっていたのでベトナムという国に対して好印象がありました。
さらに、ベトナムにある技能実習生を送り出す機関で支援を行っている日本人の方と弊社の人事担当が知り合いだったことで、交流が生まれたことも大きいです。
ーー具体的にはどのような学習の機会を提供しているのですか?
田中:ベトナムのダナン観光短期大学にて日本語教育やフードサービス、日本の習慣などについて研修を行います。
資格として、日本語能力試験のN4レベルに合格していただくことや外食業特定技能試験に合格してもらうことを支援し、この二つの必須資格条件が揃った後はモスバーガー店舗で就労するために必要な研修を実施しています。
ーー実際に現地の大学で教育機会を作り、日本の実店舗で働く機会も提供しているのですね。
田中:そうですね。実は、2020年にスタートするはずだったところ新型コロナウイルスの影響で日本に来られなかったので、大学での勉強や試験に合格した第一弾の14人のメンバーが2022年4月にようやく来日することができました。
日本国内で内定した方も含めたべトナム カゾク1期生、計16人のメンバーで本部とトレーニングセンターで研修を一通り実施し、6月中旬から直営店と直営子会社の店舗にて勤務が始まっています。
ーー受け入れてから4ヶ月経ってみていかがですか?
田中:真面目に一生懸命やってくださる方が多く、開始前の心配は吹き飛びました。また、仲間同士の結びつきが強く、お互いのことを支えあっていることが伝わってきます。
受け入れてもらうお店側には担当者がベトナム カゾクの目的や就労にあたっての注意事項などについて直接説明を実施し、店舗就労状況確認の定期面談も行い、集合形式のフォロー研修を定期的に実施して、人材を受ける側と特定技能社員の双方のケアを継続するようにしています。
ーーベトナム カゾクは今後どのように取り組みを進めますか?
田中:今後も継続して優秀な若手人材に教育投資を行っていきます。現在、第2弾のメンバーの在留資格取得申請、及びベトナムでの出国ビザ申請をしており、早ければ2022年11月下旬に7人が来日される予定です。
一人ひとりの個性が輝く場所へ。モスシャインが目指す障害者雇用
ーーモスシャインを特例子会社として立ち上げた経緯を教えてください。
須之内:モスグループ全体で障害者雇用の拡大や雇用条件の整備など、障害者の方が就労しやすい環境づくりを行うことで持続的な組織にしていきたいと考えたことがきっかけです。
ーー特例子会社を作ることのメリットはどのようなところにあると思いますか?
秋山:2点あると考えています。
1点目は障害者の方がより活躍できる場を作れるということです。
2点目は、企業目標としての障害者雇用率を達成していけるということです。子会社1社のみではどうしても達成が難しいですが、グループとしての認定に繋がりグループ全体で持続的な組織を構築していけます。
ーー会社が掲げているビジョンや大切にされていることを教えてください。
須之内:これが私たちの大切にしているミッションです。
私たちのミッション
モスグループで働く チャレンジメイト一人ひとりの 能力・特性に配慮し
それぞれの社員が働きがいを得 モスグループの一員として 輝けることを通じて、社会に貢献できる 会社を目指します私たちは、働いている社員のことを一緒にチャレンジする仲間として、「チャレンジメイト」と呼んでいます。チャレンジメイトさんとともに輝いていくということを大切にしています。
ーー現在、何名くらいのチャレンジメイトが活躍されているのですか?
須之内:大崎の本社で働いているチャレンジメイトが現在12名、店舗で働いているチャレンジメイトが5名です。
採用活動も進めています。ハローワークなどにオープンで出すのではなく、もともと繋がりがあり、信頼している支援機関や特別支援学校の先生・東京都教育庁の就労支援員の方から紹介をいただき、面談を行っています。
ーーどのような仕事をされているのですか?
須之内:本社では、事務・清掃メンテナンス・作業の3つの仕事を担当しています。基本的にモスフードサービスや関連会社から業務を受託している仕事です。
事務としては、金券処理を担当します。全国の各店舗から送られてくるモスバーガーの金券を集計する作業を任されています。伝票や請求書の整理も行っています。また、書類の整理としてpdf化を行ってペーパーレスを進めています。
最近では、社内にグリーン(観葉植物)が増えたこともあり、お手入れを担当する「グリーンチーム」も結成されました。
ーー設立されてから仕組みに落としていく中で難しかったことはありますか?
秋山:2つあります。
1つ目が、採用人数を増やす中での業務拡大についてです。
業務を拡大するために、実際に私自身が金券をカウントし、仕分けする作業を1週間ほど体験してみたりしました。実際に作業としてできることを部門の方に理解していただき、口コミとして広げていってもらうことを期待しました。その効果もあって、チャレンジメイトが活躍する場は日々拡大しています。
2つ目が、働く環境についてです。会社立ち上げの際に、行政の方からチャレンジメイトが働く場所に「必ずパーテーションをつけるように」と指示がありました。安全性を重視しての指示だと思いましたが、こういった区別は時代に合わないと感じ、「時代と逆行している考え方ですよね?」と抗議させていただきました。
モスシャインが大切にしている考え方を理解していただき、今はフリーアドレスの社内でチャレンジメイトも同じフロアで働いています。
ーー現在進められている取り組みなどはありますか?
須之内:分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を活用した取り組みがあります。OriHimeは子育てや介護・身体障害など社会的ハンディキャップにより外出が困難な人の分身で、ロボットを通して温かみのあるコミュニケーションを可能にするロボットです。
OriHimeを分身としてリモートで会話や動作を行う人のことをパイロットといいます。
チャレンジメイトがパイロットになり、実際に接客をしています。今後、より活動を拡大させていく予定です。
※「OriHime」は株式会社オリィ研究所の登録商標です。
ーー実際にパイロットとして接客を行ったチャレンジメイトさんの様子はどうでしたか?
秋山:接客のお仕事として人とコミュニケーションをとることは初めてなので、「難しい」と言いながらも、どうしたらお客様に快適なサービスを提供できるかと非常に楽しみながら行っていました。
普通の会話と接客としての会話はまた違った難しさがあると思うので、伝えることを考える良い機会だと思います。今後もチャレンジメイトが活躍できる場を提供していきたいです。
モスで働くすべての人が輝けるようにしていきたい
ーー今後の展望を教えてください。
飯田:モスの森を基盤に、モスで働きながら輝く人や出来事をこれからも発信し続けていきたいと思っています。
田中:「チャレンジ&サポート」というスローガンを掲げているので、制度や働く人たちの気持ちを大切にしながら実現していきたいです。
須之内:特例子会社として法定雇用率を守ることはもちろん、障害者雇用を行う中で、本人たちがもっと輝ける場を作って、人間貢献・社会貢献を通して本人たちが自分たちで人生設計をできるような企業にしていきたいです。
秋山:モスシャインの社員なので、「輝く」ということを大切にしたいと思っています。モスシャインは障害者の活躍の場という位置付けではありますが、ベトナム カゾクやOriHimeなどダイバーシティという観点を障害者を通して深められるとモスがもっと楽しい会社になるのではないかと思っています。
さいごに
SDGsの全体像について一度インタビューした株式会社モスフードサービス。今回は、株式会社モスシャインも加えて、モスグループ全体の取り組みを伺った。
取材を通して何度も「社員の輝き」という言葉が出てきた。ステークホルダー一人ひとりを大切にするからこそ、ベトナム カゾクやOriHimeといった新しい取り組みを推進し、多様な個性が輝く場所を創り出しているのだと感じた。
また、株式会社モスシャインが特例子会社としてスタートするまでの経緯を伺い、あらゆる個性を輝かせるために工夫を重ねていることが伝わってきた。
取材中に実際にチャレンジメイトさんが社内でお仕事する様子を見学させていただいたが、他の社員と同じ場所で一つひとつの仕事を丁寧に、時折笑顔を見せながら活躍している姿が印象的だった。
次の50年に向けて、さらに輝くモスグループの取り組みに今後も注目だ。
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