SDGs 9「産業と技術革新の基盤をつくろう」現状や問題点、取り組みとは

#SDGs目標9#技術#持続可能#経済成長#貧困 2021.02.13

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【更新日:2023年9月29日 by 田所莉沙

SDGsの目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」は、全世界の人々が生活基盤を整えるための大切な目標です。今日、私たちの生活には水や電気といったインフラが欠かせません。しかし、世界の中にはインフラにアクセスできない人がおり、貧困や格差などの問題が生じています。

今回は、SDGsの目標9の現状や問題点、取り組みについて網羅的に紹介します。

見出し

SDGs 9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の詳細解説

SDGs 9「産業と技術革新の基盤をつくろう」とはどのようなものなのでしょうか?
SDGs 9の目的や重要な理由を詳しく解説します。

目標9の目指すものとは

目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」では、以下の3つのことを目指しています。

  • 持続可能で強靭(レジリエント)なインフラを開発し、革新的な産業化を促進すること
  • 産業を持続可能なものにして、全ての人々の雇用創出と生活水準の向上をもたらすこと
  • 人々が金融サービスや技術にアクセスしやすくなること

強靭(レジリエント)とは、「回復力」や「しなやかさ」を表しています。つまり、SDGs9では、インフラが破壊されたとしても復旧可能であることを目標としています。

また、途上国の中にはインフラや金融サービスなどの生活に必要なサービスにアクセスできない人もいます。「誰も取り残さない」というSDGsの目標を達成するために、SDGs9の3つの目標が大切なのです。これらのことを通じて、社会の持続可能な開発を推進し、人々の生活やビジネスの質向上を目指しています。

▼関連記事
SDGs目標9の課題とは-産業基盤と技術革新の国内外の課題まで解説

目標9を達成することが重要な理由

目標9を達成することが重要な理由は2つあります。

1つ目の理由は、新しい技術の導入や産業の発展が雇用創出や所得向上につながるからです。特に途上国の人々の生活水準を向上させるために不可欠な目標です。ユニセフによると、2020年には世界で3億5,600万人の子どもたちが極度の貧困の中で暮らしています。そのため、一刻も早い対応が求められています。

2つ目の理由は、持続可能な技術の開発や普及はエネルギー効率の向上や排出ガス削減などが地球温暖化防止に貢献するからです。2030年ごろには平均気温が1.5度上がるという試算もあります。こちらも無視できない問題なのです。

このように、SDGs9は経済成長と環境保全を同時に進めることを目指しています。

▼参考
ユニセフ公式サイト

2030年ごろ気温1.5度上昇 温暖化の原因は人間活動「疑う余地ない」 IPCC報告 |東京新聞

目標9のターゲットと具体的な取り組み内容

SDGsの目標9は、包摂的かつ持続可能な産業化と、持続可能なインフラを必要とする全ての人々に対するイノベーションの促進を目指しています。具体的には、以下のようなターゲットが設定されています。

9.1 信頼できる・持続可能な・強靭(レジリエント)で、全ての人々が利用できるような品質の高いインフラを開発し、強化する
9.2 包摂的で持続可能な産業化を促進し、特に2030年までに途上国における雇用とGDPの割合を大幅に増加させる
9.3 特に途上国を含む小規模の製造業とその他の企業への金融サービス、貸付き、信用とその投資の質と量を増加させる
9.4 2030年までにインフラをアップグレード・産業を持続的にし、全ての人々が利益を得られるようにする
9.5 科学研究の増大と工業の技術力を強化するために、技術的な能力を全世界で促進する

これらのターゲット達成のためには、政策面での取り組みや科学技術の進歩、金融サービスの提供など多岐にわたるアプローチが求められます。各国政府のリーダーシップに加えて、企業や市民一人ひとりの行動も重要となります。

世界の産業や技術、インフラの現状と問題点

世界中で産業や技術、インフラの問題点は多く存在しています。今回は特に重要な3つの現状と問題点を紹介します。

途上国での技術導入とインフラ整備の遅れ

鉄塔

SDGs9をめぐる途上国の問題の1つとして、現代社会に必要不可欠な技術の導入と基礎インフラの整備の遅れが挙げられます。途上国では科学技術革新(STI)を用いた産業分野の開発が求められています。しかし、途上国ではインフラ整備の不足、技術導入の難しさなどが顕著に見られます。

途上国の課題 具体的な状況
インフラ整備の遅れ 電力供給の不安定さ、道路・橋・鉄道など基礎インフラの未整備
技術導入の難しさ IT・通信技術の普及不足により情報格差が生じている

このような状況を改善し、全ての人々が公正で包摂的な技術にアクセスできる社会を目指すことが、SDGs9の達成に向けた大切な課題となります。

▼関連記事
SDGs目標9の現状とは?|現状から課題解決のための取り組み事例まで徹底解説

新技術導入による環境負荷や社会格差

新技術の導入は経済成長を促進する一方で、環境問題や社会格差の原因にもなります。

例えば、電子機器を製造する際に採掘されるレアメタルは、採掘プロセスが環境負荷となります。また、電子機器はリサイクルが難しく、排出される電子廃棄物が環境問題となっています。

また、新技術の導入により生活が便利になる一方で、その技術にアクセスできない人々が取り残され、社会格差が生じています。インターネット接続環境が整っておらず、情報アクセスの機会が限られている地域もあります。

このように、新技術の導入は経済発展を促進するものの、環境負荷や社会格差という問題を引き起こす可能性があります。SDGs目標9はこれらの問題も考慮した上で産業と技術革新の基盤をつくることを目指しています。

インターネット接続率の低さによる情報アクセスの格差

インターネット接続が不十分な地域があり、情報アクセスの格差を生んでいます。

現代社会においてインターネットは情報を得るための重要であり、学習やビジネス、社会参加に欠かせないツールです。しかし、一部の地域では接続環境が十分に確保できていないため、そこに住む人々は情報を得る機会を失っています。

特に途上国や地方部では地理的、経済的な理由からインターネット接続環境が整っておらず、都市部に比べて情報アクセスが限られています。情報アクセスの格差は、教育や就労機会の格差をもたらす可能性があるため、早急な改善が求められます。

日本の産業や技術、インフラの現状と問題点

日本でも産業や技術、インフラの問題点は多く存在しています。今回は4つの現状と問題点を紹介します。

地方部でのインターネット接続やデジタル技術へのアクセス不平等

日本でも都市部と地方部ではインターネット接続環境やデジタル技術へのアクセスに大きな差があります。地方部では高齢者が多く、デジタル技術への理解が不足していることが問題となっています。また、離島や山間部では、物理的な制約から高速インターネットのインフラ整備が進んでいない地域もあります。

このような状況は、地方部の人々が情報を適切に取得し、社会参加をする上で大きな障壁となっています。教育や就労、生活サービスなど様々な場面でデジタル技術の利用が増えている現代において、情報アクセスの機会を均等にすることは非常に重要なのです。

▼参考
【デジタルデバイド】高齢者だけの問題じゃない! 情報格差がもたらす問題点と解決策

デジタル化への取り組み不足とその問題点

日本におけるデジタル化は、企業や行政の一部においては進展していますが、まだまだ全体としては十分とは言えません。特に、地方や中小企業におけるデジタル化の進行度は低く、都市部との格差が問題となっています。

このようなデジタル格差は、情報のアクセス性や効率性の悪化、新しいビジネスチャンスの損失などの経済的な格差を生み出しています。インフラ整備だけでなく、教育や支援体制の整備も重要なのです。

新しいテクノロジーを導入するときに直面する道徳的な課題

新しいテクノロジーを導入する際には、技術の利便性や効率性だけでなく、道徳的な問題についても考慮する必要があります。特にAI(人工知能)の導入については、事前の倫理的な検討が求められます。個人情報の保護やプライバシーの問題やAIの学習データの偏りなど、多角的な視点からのチェックが重要となります。

さらに、AIが人間の仕事を代替することによる雇用への影響や、AIが行った行動に対する責任の所在も大きな課題です。これらの道徳的な課題は社会全体で議論し、解決策を見つけていく必要があります。

▼参考
AI活用における倫理問題とは? 企業は何に留意すべきか

インフラの劣化やメンテナンス不足

インフラの劣化は、経済発展や生活の安全性に直接影響を与えます。日本では、高度経済成長期に作られた多くのインフラが老朽化し、その補修やメンテナンスが急務となっています。

例えば、日本の道路の約4割が開通から40年以上が経過しており、老朽化が進んでいます。また、防災面から見ても、老朽化したインフラは地震や豪雨等の自然災害時に破壊されやすく、被災者の救助や避難活動を阻害する恐れがあります。インフラの種類とそれぞれの問題点は以下のとおりです。

インフラの種類 問題点
道路 老朽化による破損
耐震性の不足
下水道 劣化による漏水

これらの問題を解決するためには、継続的なメンテナンスと適切な更新計画が必要です。

日本企業によるSDGs 9の取り組み事例3選

日本企業の中には、SDGs目標9に取り組んでいる企業が多くあります。今回は取り組み事例を3つ紹介します。

NTTインフラネット株式会社|災害に強いICTソリューション

1つ目に紹介する取り組みは、NTTインフラネット株式会社の取り組みです。

NTTインフラネットは、情報通信技術(ICT)を活用した社会インフラの開発に取り組んでいます。特に、災害に強い社会を実現するためのICTソリューションの提供に力を入れています。

例えば、防災・減災情報の収集・分析・提供を行うシステムの開発や、ICTを活用した設備の点検・保守など、社会インフラの安全管理に対する多角的な取り組みを展開しています。

▼関連記事
SDGs目標9の世界の取り組み12選-課題から日本・個人の取り組みまで徹底解説

NECネッツエスアイ株式会社|AIやIoTを活用したスマートインフラの開発

2つ目に紹介する取り組みは、NECネッツエスアイ株式会社の取り組みです。

NECネッツエスアイ株式会社は、AIやIoTを活用したスマートインフラの開発に力を入れています。

例えば、AI技術を駆使して老朽化したインフラの寿命を予測し、適切なタイミングでのメンテナンスを可能にする取り組みです。これにより、インフラの耐用年数を最大限に延ばし、予期せぬ事故やトラブルを未然に防ぐことが可能となります。

また、IoT技術を活用したスマートグリッドの開発も進めています。スマートグリッドは電力供給と消費を最適化することで、エネルギーの無駄を削減することができます。

▼参考
NECネッツエスアイグループのSDGsへの取り組み

株式会社CoLife(コーライフ)|IT技術を駆使した住宅メンテナンス

CoLife

画像引用:CoLife

3つ目に紹介する取り組みは、株式会社CoLife(コーライフ)の取り組みです。

株式会社CoLifeは、IT技術を駆使した住宅メンテナンスの新しい形を提案しています。

  • 住まいの情報が整備されていないこと
  • 価格が不透明で、確認に手間と時間がかかること
  • 職人などの人手が不足していること

これらの課題を解決するため、住まいの情報整備からサービスの提供、決済までを一貫して行うアプリ開発に取り組んでいます。また、様々な住宅事業者と提携し、新しい住宅メンテナンスプラットフォームの導入を進めています。

▼参考
SUSTAINABILITY持続可能な開発目標(SDGs)への取り組み

世界の企業によるSDGs9の取り組み事例3選

世界中でSDGs目標9に取り組んでいる企業が多くあります。今回は取り組み事例を3つ紹介します。

グローバル・インフラストラクチャー|インフラ設立の協力体制を提供

世界的なインフラサービスの拡大には、年間1兆ドル以上の追加投資が求められています。しかし、開発途上国や新興国の資金的な制約が障壁となっています。

この問題を解決するため、民間金融機関や機関投資家は国際開発金融機関と協力して「グローバル・インフラストラクチャー・ファシリティー(GIF)」を設立しました。

GIFは個別の企業では対応困難なプロジェクトを進行させるための協力体制を提供するプラットフォームです。このプラットフォームは、12兆ドルもの運用資産を持つ民間セクターのパートナーを集めています。

GIFの積極的な投資活動とインフラ整備事業は、発展途上国のインフラ整備を支え、その発展に大きく貢献しています。

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【SDGs目標9】企業の取り組み事例7選|世界や日本の取り組みまで網羅

Walty|アフリカのインフラを強化する装置

「Watly」はイタリアとスペインの合同スタートアップが開発した、太陽光から作り出した電力・クリーンな飲料水・インターネット接続という3つの基本インフラを提供する装置です。

この装置は太陽光エネルギーを電力に変換して蓄電し、そのエネルギーを使って水を浄化して沸騰させ、毎年約300万リットルの清潔な飲料水を提供します。

これにより、「Watly」はアフリカの住民の生活を改善し、彼らの生活基盤の向上に寄与する技術革新として世界から注目を集めています。

タクシー配車サービス「Grab」|東南アジアでの生活を支えるアプリ

Grab

画像引用:Grab

タクシー配車サービス「Grab」は2012年にマレーシアで設立された配車を専門としているアプリサービスです。その後、幅広いジャンルのサービスを提供する総合プラットフォームとして成長し、東南アジアの生活水準向上に大きな貢献をしています。

2018年には、Uberが東南アジア事業をGrabに売却しました。この取引により、Grabは東南アジア最大の配車サービスとして地位を確立しました。

さらに、Grabはマイクロソフトやトヨタからの投資を受け、Grabは電子決済サービス「GrabPay」やデリバリーサービス、ショッピングプラットフォームを展開しました。

個人ができるSDGs9達成に向けた取り組み3選

国内外の企業の取り組み事例を紹介しましたが、私たちにもできることがあります。その中でも重要な取り組みを3つ紹介します。

省エネやリサイクルを意識した生活をする

1つ目の取り組みは、省エネやリサイクルを意識した生活をすることです。

私たちの生活には水や電気といったインフラが欠かせません。しかし、これらの資源を節約することで、環境にかける負荷が小さくなります。

  • 使用していないときは水を止める
  • 部屋を出る時には電気を消す
  • 使用済みのペットボトルをリサイクルボックスに持っていく

ひとりひとりが気をつけることで、大きな成果を上げることができるのです。

▼関連記事
《今日からできる》SDGs9達成のために私たちができること|身近なことから考える解決策

インフラ整備に取り組む団体に募金やボランティアをする

2つ目の取り組みは、インフラ整備に取り組む団体に募金やボランティアをすることです。

インフラ整備に取り組む様々な団体が存在します。これらの団体に募金を通じて、資金的な支援を行うことができます。例えば、JICAではアフリカ地域を対象とした事業や人びとの生計向上に関する寄付を集めています。

また、ボランティア活動を行うことで、直接現場で支援することも可能です。開発途上国ではまだインフラが未整備な地域も多くあり、深刻な状況に陥っています。ぜひ気になる組織や団体の寄付について調べてみてください。

防災アプリを入れるなど災害に向けた準備をする

3つ目の取り組みは、防災アプリを入れるなど災害に向けた準備をすることです。

自然災害のリスクが増大する一方で、科学技術の進歩により、そのリスクに対処する手段も多様化しています。特に、スマートフォンの普及により、防災アプリは我々の生活に深く浸透しています。

防災アプリは、災害発生時の最新情報を提供するだけでなく、日常的に災害への備えを促す機能も備えています。また、災害時の避難行動やライフラインの復旧状況などの情報も提供しています。

防災アプリを使用して日頃から準備を行うことで、いざという時にパニックに陥らず、自分自身と大切な人々を守ることができます。

まとめ

今回はSDGs 9「産業と技術革新の基盤をつくろう」について詳しく解説しました。

インフラが整っていないことは途上国だけの問題ではありません。日本でもインフラ設備の見直しを必要とする地域は多くあります。

また、インフラ整備に携わっている多くの企業事例を紹介しました。近年はIT技術を用いてインフラ設備する企業が増えており、課題解決の幅が広がっています。

しかし、SDGs 9「産業と技術革新の基盤をつくろう」を達成するためには、金銭的・技術的に多くの課題が残っています。まずは私たちにできる取り組みから始めてみませんか。

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