1967年、名古屋で創業して以来、多くの人々においしい中国料理と豊かな食事時間を届けてきた浜木綿(はまゆう)。
名古屋市に本社を構え、愛知、岐阜、三重、静岡、滋賀、東京、神奈川、大阪の8都府県で、4つの業態の中国料理レストランを経営している。
外食産業において職場環境でのジェンダー平等や質の高い教育をいち早く取り入れてきた浜木綿は、どのように成長し続けてきたのか。
今回は、浜木綿の取締役で店舗運営部も兼任されている嶋津氏と、業務部総務・人事グループマネジャーの今田氏を取材した。
外食産業において新しい食文化の創造を目指してきた浜木綿の具体的なSDGsへの取り組みを伺う。
見出し
これまでの取り組みが自然とSDGsにつながる
ーーどのような経営理念やビジョンを掲げていますか。
嶋津:浜木綿は「昨日より今日 今日より より良い明日へ」という社是を掲げています。
歩みを止めずに成長し続ける企業であろうという思いから作られた社是です。
我々社員も、その社是から、失敗してもその学びを糧に成長していこうという姿勢を貫いています。
社是の名の下に「新しい食文化を創造し 来店されたすべてのお客様に 豊かでハッピーな 食事時間を提供します」というミッションを制定しています。ミッションを達成するために自分ができることは何かを常に考えながら事業を進めています。
ーー前に進んでいくという社是やミッションが、SDGsに注目するきっかけとなったのですか?
嶋津:そうですね。我々が取り組めることを考えていく中で、実は今までの事業でもSDGsに関わる取り組みがあることを再認識しました。
今後は、これまでの取り組みを続けながら、より深くSDGs目標達成に貢献していくために成長し続ける企業でありたいと考えています。
将来を見据えた多様な雇用を
ーー特に注力しているSDGs目標は何ですか?
嶋津:将来日本人の労働者が少なくなる中で、国籍や性別に関わらず誰もが活躍できる外食産業でありたいという思いから、ジェンダー平等の実現や働きがいの創出に力を入れています。
また、飲食事業として「SDGs目標2. 飢餓をゼロに」には強い思い入れがあります。
ーー外国人雇用に力を入れていると伺いました。
嶋津:4〜5年前から中国人スタッフだけでなく、多様な国籍のスタッフを雇用しています。
インバウンドが活発になって、海外から日本を訪れる機会が増えたこともあり、海外の方が日本で働くという流れは活発になっています。
少子高齢化に伴い日本人労働者が減っていることからも、どんな企業も必ず海外の方と働く時代が訪れるでしょう。
異なる言語を話す人々と共に働くためにはどのような準備や仕組みが必要なのか、ゆくゆくは役職者として働くことが可能なのかを、海外のお取引様と検討を重ねています。
ーー実際に外国人を雇用して良かったことや課題点はありますか。
嶋津:良かった点は、真面目でしっかりと貢献してくれることです。
みなさんとても勤勉で、2年目から実務責任者になった方もいます。
海外のお取引様とコミュニケーションをさらに図る上でも、社内のグローバル化をより一層推進していきたいです。
一番の課題はやはり言語の違いです。ほとんどの方が平仮名と母国語しか分からないので、漢字とカタカナの理解に苦戦しています。
一緒に仕事をしていく中で日本語の細かなニュアンスをどのように理解していただくのか、さらなる検討が必要です。
ーー地域の活性化にもつながる取り組みをされていると拝見しました。
嶋津:私たちは地域のインフラになりたいと考えています。
例えば、コロナが始まってすぐに本社の近くにある病院や学校に支援物資を寄付させていただきました。
20年、30年と長く地域に愛されるお店であるためにも、地域に密着した店舗経営を目指しています。
質の高い教育とコミュニケーションで働きがいのある職場に
ーー従業員の働きがいを生み出す上で、大事にしてることはありますか。
嶋津:私達の仕事はルーティンワークになりがちですが、それを「作業」ではなく「仕事」にすることを意識した教育を心がけています。
例えば、お客様にお茶をお出しするときに大切なのは、「お茶を出すこと」ではなく、お茶をどこに置くか、お茶の量はどれくらいかといった「お茶の出しかた」です。
「作業」ではなく「仕事」へ、「事」から「方」へ、変えていこうとすれば、常に「考える」ことが必要になります。
働きがいはもちろん、個人が成長することで最終的には会社の成長にもつながる大切な考え方だと思います。
ーー多くの店舗がある中でどのようにコミュニケーションの質を上げていますか。
嶋津:コミュニケーションは「質」より「量」が重要だと思っています。
実は、私を含め、何店舗かを統括するグループマネジャーが必ず月に一度、全店舗に訪問するようにしています。
店舗訪問を開始して1年半ほど経ちますが、直接会ってスタッフと話すことが現場のモチベーションにもつながっていると感じます。
ジェンダー平等を実現する「異見も意見」の考え方
ーージェンダー平等への取り組みについて教えてください。
嶋津:まず、我々の教育の根幹にあるのは男女平等です。
これまでの外食産業は男尊女卑が色濃い社会でした。
しかし、同じ屋根の下で働く以上は性別に関係なく、与えられる仕事も立場も平等であるべきです。
そのためにはお互いに認め合うことが欠かせません。
例えば、違う意見が出たとしても、それを真っ向から否定するのではなく、相手の立場や意見を一度受け入れ、その意見にはどのような背景があるのかを考えます。
「異見」も1つの「意見」であることを忘れない姿勢が、社内の活発なコミュニケーションにつながっています。
ーー女性管理職が多いとお聞きしました。
嶋津:現在、11名の取締役のうち3人が女性です。
また、42店舗のうち10店舗は女性が店長を担っています。
今期は創業50年以来、初めて女性の調理長を輩出しました。
ーー女性の調理長は珍しいことなのですね。
嶋津:私が入社した当時、調理場は男性主体で、女性にとっては仕事がしづらい環境でした。
調理台や棚が高かったり、調理道具が重すぎたりと、女性が男性と同様に働く上では多くの課題があったんです。
そこで、12年ほど前から女性の調理長を輩出することを目標に、女性も働きやすい環境作りに力を入れてきました。
低めにセッティングした調理台や、軽量化された調理道具の導入、性別に関わらず気兼ねなく着れるユニフォームの支給など、早い段階から女性の意見を取り入れて誰もが働きやすい環境になるよう改善してきました。
いまだ課題はあるものの、女性の働きやすさにフォーカスすることで、結果的に「どんな人も働きやすい環境」を生み出せると考えています。
教育への投資は惜しまない、いつまでも愛される企業に
ーーSDGsを推進していく上での課題はありますか。
嶋津: パートやアルバイトといったスタッフも含め、社内全体へSDGsの取り組みを伝えることです。
私を含めたグループマネジャーたちが店舗訪問をしているとはいえ、現場で全員と話すことができるのは店長です。
教育への投資は結果的に人の成長、企業の成長につながります。
直接会って話すことを大切にしながらも、新しいコミュニケーションツールを導入することで、社内での「伝え方」を研究していく必要があると感じています。
ーーこれからの展望を教えて下さい。
嶋津:中国料理の良さを伝え、食事を通してお客様の健康をサポートしていきたいです。
実は、中国料理は栄養バランスの高い食事なんです。
例えば、弊社の五目ラーメンは一杯で1日の3分の2の野菜が摂取できますし、餃子は栄養が凝縮された優秀な一品です。
浜木綿の特徴である「油少なめ野菜多め」の中国料理を、新たな日本の食文化として広めていきたいです。
そして、これからも積極的な外国人雇用や質の高い教育、女性が働きやすい環境作りを通して、何年先もお客様、スタッフに愛される企業を目指しています。
さいごに
今回の取材を通して印象的だったのは、教育や職場環境の整備といった長期的な投資を惜しまない姿勢と課題に対してとことん考え抜く力だ。
8都府県にある店舗へ訪問することは労力がかかる。
しかし、確実に現場の声を反映しやすくなり、より細やかなサポートができるはずだ。
多様な視点を持って話し合い、より良い職場を目指してきた浜木綿。
これからの取り組みも見逃せない企業だ。