街を歩けば必ず目にする、コンビニエンスストア。最近は食料品だけでなく、日用品の販売や公共料金の支払いなどもできるようになり、私たちの生活に欠かせないものとなっている。
そんな中、ローソンは自社だけではなく業界としても、コンビニという価値を高めていくために、環境ビジョンである「Lawson Blue Challenge 2050!」を掲げ、SDGsの取り組みを積極的に行っている。
ローソンが目指す企業、業界のあり方とはどういった姿なのだろうか。今回は、SDGs推進室の有元さんにお話を伺った。
マチと人をつなぐローソン。
ーー自己紹介をお願いします。
有元:SDGs推進室室長の有元です。
2005年に入社してから現場に立つことが多く、店舗指導員からスタートしました。その後、支店長になってからは千葉県内の約200店舗を担当し、店舗開発や機会ロス削減に向けた取り組みなどを実施していました。
その後、マネジメントオーナーと一緒に新規事業の開拓に向けた活動をしていました。
ーーマネジメントオーナーとはなんですか?
有元:地域密着型で多店舗経営をしていただく、ローソン公式認定のオーナーです。
多い方ですと、当時40店舗ほど経営されていた方もいらっしゃいます。こうした方たちは、経営者として非常に能力が高く、店舗運営にも長けているので、ローソンとシナジーを出せるような事業を展開できないかという動きがありました。
そこで、新たに新規事業のマネジメントなどを行う推進部が立ち上がり、推進部の責任者として本社に移りました。
ーーSDGs推進室が立ち上がった経緯を教えてください。
有元:SDGs推進室の前身である、環境社会共生地域連携推進部はSDGsというよりは環境法令の遵守、あるいは自治体との連携などの社会貢献活動をメインにした部署でした。
SDGs推進の流れが各企業に浸透し、また、社会的責任が問われるようにもなり、2021年3月にSDGs推進部として新たに発足しました。前身である環境社会共生地域連携推進部は、事業サポート本部の後方支援のような立ち位置でしたが、SDGs推進部は経営戦略本部の中に入り、経営の根幹を担う大きな部署へと生まれ変わりました。
さらに、2022年3月からは社長直轄の独立した組織となり、よりスピード感をもった意志決定ができるようになりました。
ーー当時は、コンビニのレジ袋有料化などが話題になりましたよね。何か推進室として取り組まれたことはありましたか?
有元:私が環境社会共生地域連携推進部に異動してすぐの2020年に、レジ袋の有料化がありました。
レジ袋の有料化に関しては、経営陣も非常に不安でした。というのも、ほとんどの方がレジ袋を利用するので、もし価格設定にご理解いただけなければ多くのお客様を失う可能性があったからです。
一般的に、各社が素材や価格帯を協議し、合わせていくことは法律違反となります。
しかし、レジ袋の有料化は、環境配慮に向けた取り組みであり、非競争領域として国全体で推進していくべきことです。そこで、国内のコンビニチェーンすべてが加入している日本フランチャイズチェーン協会を通して協議を行い、公正取引委員会に確認のうえ、業界としての方向性を決めて、協調できる部分を推進していきました。
ーー「Lawson Blue Challenge 2050!」について教えてください。
有元:「Lawson Blue Challenge 2050!」は2050年までにローソンが関わる社会課題を解決するために、2019年に策定された環境ビジョンです
具体的には、脱炭素、プラスチック削減、食品ロスの目標を掲げています。また、2030年、2050年とそれぞれ目標を定め、全社横断で特に関連のある部局と一緒にワーキンググループを作りました。
四半期に1回の委員会を開催したり、推進部会を月に1回開催し、ビジョン実現に向けた取り組みの進捗確認、加えて他の本部からアイデアを貰いながら、ビジョンの実現に向けて意見交換をしています。
ーー委員会と推進部会の違いは何でしょう?
有元:基本的には、四半期に一度の委員会で決済や方向性が示され、月に一度の推進部会では委員会の内容をきちんと落とし込んで、現場でどのように連携して進めていくかを決めたり、意見をいただいたりしています。
推進部会は、より現場に近い社員が参加するので、現場を見ているからこそわかるリアルな意見を吸収する場として設けています。
ーー委員会では具体的にどのようなことを決めていらっしゃるのですか?
有元:2022年は、「守りのSDGs 」と「攻めのSDGs」の2つを使い分け、コンビニ業界全体としてのイメージを上げていきたいです。
私たちコンビニ業界はどうしてもネガティブインパクトを出しているところがあります。使い捨てのプラスチックや廃棄などの食品ロス、店舗運営の際に出るCO2などを継続的に無くしていきたいです。加えて、それらの活動をきちんと世の中に開示することが必要であるとも考えています。
一方で、ネガティブインパクトを減らすといった、「守りのSDGs」だけでは正直、私は同質化してくると思っています。他の業界、企業もやることはある程度決まっているので、守りだけで満足してはいけないと考えています。
いかに社会に敏感に反応して先んじて社会への取り組みができるか、「攻めのSDGs」が重要だと感じています。今後は「攻めのSDGs」の割合を委員会に広げていき、他の本部の人も話しやすく、より消費者側の意見を大事にしたいと思っています。例えば、Z世代の意見を取り入れるなど、柔軟に対応していきたいです。
ーーSDGsに対してどのような方針で取り組まれていますか?
有元:基本的には社員や取引先サプライヤー、ローソンの加盟店から今課題として感じていることを集め、顕在化している社会課題とマッチさせることで、重要課題をピックアップしていきます。そこで事業方針として以下の3つの言葉を設定しました。
①「圧倒的な美味しさ」
②「人への優しさ」
③「地球(マチ)への優しさ」社員全員が分かりやすく、覚えやすい言葉にしており、この3つの言葉の中にマテリアリティが散りばめられています。例えば「圧倒的な美味しさ」に関しては、「安全・安心と社会・環境に配慮した圧倒的な高付加価値商品・サービスの提供」というマテリアリティが入っています。
▼ローソンの重点課題(マテリアリティ)
事業方針 | 重点課題(マテリアリティ) |
圧倒的な美味しさ | 安全・安心と社会・環境に配慮した圧倒的な高付加価値商品・サービスの提供 |
人への優しさ | 商品や店舗を通じてすべての人の健康増進を支援 |
働きやすく、働きがいのある環境の提供 | |
子どもの成長と女性・高齢者の活躍への支援 | |
地球(マチ)への優しさ | 社会インフラの提供による地域社会との共生 |
脱炭素社会への持続可能な環境保全活動 |
【参考】ローソンにおける重点課題
ーー具体的にどのような取り組みをされていますか?
有元:CO2に関しては、省エネ機器を導入し、店舗の照明などをLEDに変えていくことで効率性を上げています。
また、大きな取り組みとしては、「オフサイトPPA*」という太陽光発電設備を今後導入していきます。これにより、安定して再生可能エネルギーを店舗に供給することができます。
これらの取り組みのおかげで、現在は店舗の電力量が軽減されるようになっています。
そのほかにも、物流の効率化も意識しており、ローソンの店舗以外の加盟店なども包括的に効率化するために、物流で協力する体制をとっています。
オフサイト(コーポレート)PPA:電力需要施設とは離れた土地に太陽光発電システムを導入し、発電した電気を送配電ネットワークを経由して電力需要施設に送る「自己託送」システムを活用した電力購入契約のこと。
ーー今までの取り組みの実績を教えてください。
有元:数字で見ると悪くないですが、省エネ機器の導入だけではやはり電力削減の限界があります。従って、先ほどお話ししたような「オフサイトPPA」などの、ある程度再生可能エネルギーを確保しなければなりません。
理想は、非化石証書を購入するなどの取り組みを行うのではなく、追加性(アデショナリティ)のある取り組みをローソン自身が行うことです。
私たちの強みは全国に店舗があることや、自治体との繋がりもあることです。各自治体からは現在、再生可能エネルギーへの転換に向けて、地域ごとに連携を進めてほしいという指示が出ている状況なので、企業として貢献していきたいです。具体的には、まさに電力の地産地消を進めていく必要性がこれから高くなっていくと考えています。
ーーCO2削減に取り組んだ時に、課題のようなものはありましたか?
有元:1番の課題は数字として計りづらいことです。
例えば4月にならないと去年の排出係数がわからないため、そもそも検査ができないのです。
この商品のためにCO2をどれぐらい排出しているのかをざっくりとした係数で出すので、本当に減っているのかわからず、その効果が本当にあるのかと考えてしまい、不安な状況ではあります。
そのため、国が法制化して、共通のプラットフォームで共有できるような仕組みを作っていただきたいと強く思っています。
ーー次に食品ロスについてもお伺いします。元々意識をされていたと思いますが、ここ数年ではどのような動きがありますか?
有元:今まではどちらかというと、売り場にびっしり商品を並べて機会損失のないようにしようという意識が強くありましたが、最近ではバランスを取るためにAIを入れて、ある程度の最適な数字で、商品を発注しています。ですが、現状なかなかうまくいかないところもあります。
一方で、無駄をなくすために発注抑制をしようと思うと品切れになってしまい、機会損失に繋がる可能性があります。なおかつ、私たちはフランチャイズビジネスを展開していますので、オーナーさんは、自身の人生がかかっているので、機会損失がリスクになってしまいます。
仕入れを減らすのではなく、廃棄として出てしまう商品を少なくしていくために、ダイナミック・プライシング* のような形をとっていこうと考えています。2023年度中にはAIを仕組みの中に入れていくつもりです。
ダイナミック・プライシング:商品やサービスの価格を需要と供給の状況に合わせて変動させる価格戦略のこと。
ーーその他にも、工夫されていることはありますか?
有元:商品本部の方では、プラスチックの減量化や素材変更をしていますが、それ以外にも売り方の工夫を心掛けています。
また、ローソンはマチカフェとして、コーヒーを中心にレジ横ドリンクを提供しています。以前からタンブラーの持ち込みで10円引きという企画を行っていたのですが、なかなか浸透していませんでした。そこで、1〜2年前に、なにか面白いローソンらしい取り組みはないかということで社員の方にアンケートを取り、アイデアを募集したところ、タンブラーの持ち込みで39円引きする案が出て、キャンペーンを実施しました。
他のカフェチェーンでもこのようなタンブラーの持ち込み企画が流行っていたので、シナジー効果も高く、時代にマッチすると考えました。スターバックス様とのコラボも非常に話題になったので、良い影響を与えられたら嬉しいです。
マチカフェでマチづくりに関わる。
ーーローソンさんは店舗が全国各地にあり、いろいろな街づくりにも関わってきたと思いますが、いかがでしょうか?
有元:もともとグループ理念として「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします。」と掲げており、マチを良くすることは私たちの使命だと考えています。
2年ほど前からSDGsという言葉が多く使われ、社会貢献への関心が高まっています。その中でローソンのフランチャイズ加盟店がもともとそのマチの幸せのために活動していることに改めて気づいてもらいたいという気持ちがありました。
従って、本部だけが勝手に取り組んでいるということではなく、現場でお客様に触れている方と一緒に取り組むことが、マチを幸せにするためにダイレクトに繋がる方法だと考えました。
そこで、活動の一環として、2年ほど前から加盟店の優秀なSDGsの取り組みの表彰を行っています。
ーー感度高く注力してくださるオーナーさんはいらっしゃいますか?
有元:そうですね。具体的に取り組みをする以前から個別に、私たちの部署に連絡してくださるオーナーさんもいました。
また、今回表彰された10店舗の売上の前年比が1年間を通して、本社全体よりも大体5%ほど高く、かつアルバイトの方の離職率もこの10店舗の平均は30%と、通常の20%近く低い数字となっています。
ーーSDGsに取り組むことで従業員の方々にも良い影響があったのですね。
有元:SDGsに取り組むことがアルバイトにとって働きがいにつながり、結果として、お店やお客様との対話が素晴らしいものになり、自然と人が集まるような環境になっているのかなと思っています。
今回の店舗の取り組みにもっとスポットを当てて水平展開していき、エントリーしてもらえる店舗を増やせれば結果的にローソンの売上も上がり、社員やアルバイトの定着率も上がると考えています。
ーー最後に、今後の展望を教えてください。
有元:SDGs全般で考えると、人権の問題や国と国の対立など、数年前では出てこなかったものが多く出てきています。
このような環境下においても、小売業であるローソンの特徴を生かし、お客様と一緒に取り組めることを1つでも多く創造していきたいと思います。
さいごに
今や社会のインフラとなっているコンビニ。
そのため、コンビニ業界は従来よりも多くのことが求められている。
その中で、常に顧客のニーズに対応し、変化を続けるローソンは、コンビニ業界のパイオニアとも言える。
ローソンがつくる2030年、2050年のマチはどのようなものになるか楽しみである。