海外のLGBT教育現場はどうなっているのでしょうか。
LGBT教育は文化的・科学的観点の両方から行うことで、子どもたちはLGBTへの理解にとどまらず、より多角的な視野を持てるようになります。
今回は海外のLGBT教育現場を5つ紹介すると共にLGBT教育のメリット・デメリットや日本との比較についても解説します。
【この記事でわかること】 |
LGBTとは-分かりやすく簡単に説明
LGBTとは1つの意味を持つ言葉ではなく、意味の違う4つのアルファベットの頭文字をとったものです。
それぞれの頭文字は異なる「性」のあり方を表しています。
LGBTの意味と定義-それぞれの頭文字について
LGBTの4つのアルファベットにはそれぞれ意味があります。
L : レズビアン(Lesbian)
レズビアンとは、性自認が女性で性的指向も女性であるセクシュアルマイノリティのことです。
日本ではレズビアンはさらに2つの種類にカテゴライズされています。
フェム&ボイ
レズビアンのカップルの中には、どちらかが男性役でどちらかが女性役といったパターンが存在しています。
フェムとは、女性的な見た目のレズビアンを指した言葉です。
また、ボイは男性的な見た目をしているレズビアンを表現した言葉です。
これらの表現はカップルの中で分担したものではなく、性表現のひとつとして個人が行っているものです。
つまり、レズビアンであることに加え、社会的にどのように見られたいか意思表明している種類です。
ネコ&タチ
日本国内では、レズビアンの人たちを“ネコ”や“タチ”と呼ぶことがあります。
ネコとは恋愛関係上、そして性的行為において受け身のレズビアンを指しています。
一方でタチは能動的な立場のレズビアンを指しています。
フェム&ボイとは違い、ネコ&タチはレズビアンのカップルの中での立ち位置の種類を表しています。
▼レズビアンついて詳しくはこちら
レズビアンとは?意味や女性の同性愛について簡単にわかりやすく解説。きっかけも紹介。
G : ゲイ (Gay)
ゲイとは、性自認が男性で性的指向も男性であるセクシュアルマイノリティのことです。
海外では同性愛者をまとめて「ゲイ」と表現することもあります。
B : バイセクシャル (Bisexual)
バイセクシャルとは、男性と女性の両方に恋愛感情や性的欲求を抱くセクシュアルマイノリティのことです。日本語では「両性愛者」と表記されることもあります。
バイセクシュアルは男性と女性の両方に性愛感情が向く人を意味するため、レズビアンやゲイと違い本人の性別は関係ありません。
▼バイセクシャルついて詳しくはこちら
バイセクシャルの意味と特徴とは?パンセクシャルとの違いも解説
T : トランスジェンダー (Transgender)
トランスジェンダーとは、身体的特徴としての性と自身の性についての認識が異なる状態を指す言葉です。
日本では医学用語の「性同一性障害」と混同されることもありますが、トランスジェンダーとは性別に違和感をもつ人々のことを表します。
このように、それぞれの性の対象や性の不一致をまとめてLGBTと呼んでいるのです。
▼LGBTについて詳しくはこちら
あなたは「LGBT」という言葉を知っていますか?
なぜLGBTに分類する必要があるのか-「性」のあり方はグラデーション
LGBTそれぞれが異なる性のあり方を表していることが理解できましたでしょうか。
異性を好きになることが当たり前とされる世の中では、LGBTの方々は生活しにくくなってしまいます。
自身の性のあり方や性の認識に寛容な世の中にするためにLGBTという言葉が存在するのです。
LGBT以外のマイノリティも存在する-LGBTQやLGBT+とは
LGBTの他にも性的マイノリティは存在します。
ここでは2種類の性的マイノリティを紹介します。
LGBTQ
LGBTQとはLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)にQ(クエスチョニング)を加えたものです。
クエスチョニングとは、自身の性のあり方(自分の性を何と考えるか)や性的指向(どんな性を好きになるか)が定まっていないセクシュアリティを表した言葉です。
▼LGBTQについて詳しくはこちら
《徹底解説》LGBTQとは|SDGsとの関係から、現状や課題まで徹底網羅
LGBT+
性のあり方はLGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダー)の他にも数多く存在しています。つまり、LGBT+とはLGBT以外の性のあり方を表しています。
LGBT以外の性のあり方を5つ紹介します。
・アセクシュアル・・・どの性別も性的対象としない無性愛者 ・パンセクシュアル・・・相手の性自認に関係なく、すべての人を恋愛対象とする人 ・Xジェンダー・・・性自認が男性にも女性にも当てはまらないという人 ・ジェンダーフルイド・・・性表現がその時々で変わる人 ・ノンバイナリー・・・性自認と性表現が性別の枠にとらわれない人 |
その他にも性のあり方を表す言葉は多く存在しています。
▼LGBT+について詳しくはこちら
今知っておきたい!LGBTQIA+とは? – JapanWonderGuide
SDGsとLGBTの関係性
LGBTを理解することは、SDGsが目標とする「誰も置き去りにしない社会」を達成するために不可欠なことです。
LGBTとそれを取り巻くSDGsの関係を2つ紹介します。
目標4「質の高い教育をみんなに」
LGBTの人は男女分けが多い学校に馴染めないケースがあります。
また、性のあり方が違うことでいじめられたり、自分の性について打ち明けられずに苦しんだりすることもあります。
目標6「安全な水とトイレを世界中に」
トランスジェンダーの人の困りごとの1つとして男女別のトイレが使いにくいということがあります。
例えば、多目的トイレを増やすなどの対策が求められています。
紹介した2つ以外にもLGBTとSDGsの関係は多数存在しています。
▼LGBTとSDGsの関係性について詳しくはこちら
よく耳にするLGBTQ+って何のこと? SDGsとの関係は?
▼SDGs目標5について詳しくはこちら
LGBT教育のメリット・デメリット
LGBT教育のメリットとデメリットをそれぞれ紹介します。
メリット-多様性を受け入れられるようになる
LGBT教育のメリットとして、LGBT問題に限らず、「多様性」を受け入れられるようになることが挙げられます。
性的マイノリティに対する理解が進むことによって、マイノリティを持つ人々が過ごしやすくなります。
デメリット-いじめやカミングアウトの助長
LGBT教育のデメリットとして、正しい教育や配慮された環境が整っていないといじめや不本意なカミングアウトを助長してしまう可能性があります。
カミングアウトとは自分の性に対する考え方を周りに伝えることを指します。
また、正しい教育をするためには学校の先生だけでは十分でないことが多く、外部団体にお金を払って講義をしてもらうということが一般的です。
海外のLGBT教育現場5選
海外のLGBT教育の現状について5つ紹介します。
スウェーデン-就学前から行われているLGBT教育
1つ目に紹介する国はスウェーデンです。
スウェーデンでは学校教育の中で性の多様性を理解するための価値観や知識を教えることが義務づけられています。
しかし、スウェーデンのLGBT教育は就学前から行われています。
性の多様性について子供たちが初めて学ぶ機会は、義務教育開始前の「就学前学校(フォースコーラ)」です。スウェーデンでは両親が育児休暇を終了する1歳、または1歳半から就学前に学校に通い始める人が多数を占めています。
就学前学校は日本の幼稚園に相当するため、役になりきる「ごっこ遊び」をする子どもたちが多数います。衣装に着替える際に、男女関係なしに子どもたちは自由に衣装を選びます。
ここで重要なことは、たとえ男の子がドレスを着たがったとしても教師は特に問題視することはないということです。
また、読書コーナーには性的少数者や人間の性器に関する絵本も置いてあります。中には、子どもを欲しがっていた雄キリンのカップルが主人公の本もあります。
スウェーデンでは日常のあらゆるところで「性のあり方は多様である」ということを学ぶことができるのです。
▼スウェーデンのLGBT教育について詳しくはこちら
【世界から】スウェーデン、就学前から多様な性について学ぶ意味
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フィンランド-全ての人の「性の権利」を尊重
2つ目に紹介する国はフィンランドです。
フィンランドもスウェーデンと同じく、ジェンダー平等の先進国として知られています。
その一例として、2002年に行われたトランスジェンダー法の制定や2017年に行われた
同性婚の合法化などが挙げられます。
フィンランドでは主に13歳から15歳の生物や健康教育の科目の中で性に関する学習が行われています。
広告における性表現の問題をはじめとするメディアリテラシーの観点からも性教育が行われていることが特徴的です。
多くの人の目に触れる広告で自由な性表現を認めることによって、性の多様性を自然に受け入れられるようになるのです。
▼フィンランドのLGBT教育について詳しくはこちら
【EU諸国と日本でどう違う?】学校の性教育におけるLGBTs
アメリカ-州ごとに異なるLGBT教育
3つ目に紹介する国はアメリカです。
アメリカにおけるLGBT教育の転機は2017年に起きました。カリフォルニア州教育委員会が、中学校までの教科書にLGBTに関する内容を記載することを認めたのです。
一方で、LGBT教育に消極的な州もあります。
ルイジアナ州、ミシシッピ州、オクラホマ州、テキサス州の4つの州では性教育を異性との関係に限定するといった法律が制定されています。
また、2022年にはフロリダ州で小学校での性自認や性的指向などの話し合いを禁じる法律が成立しました。
州ごとにLGBTに対する教育方針が異なっているため、アメリカ全体での価値観の統一が求められています。
▼アメリカのLGBT教育について詳しくはこちら
小学校での「性的指向の議論禁止」法案、フロリダ州で可決の見通し 米政府は非難 | BBC NEWS JAPAN
フランス-科学の授業でのLGBT教育
4つ目に紹介する国はフランスです。
フランスでは、戦時下に同性愛者が強制収容所に送られるほど差別を受けていました。
しかし、現在のフランスでは同性パートナーシップの制度が整備されています。
このように社会が性の多様性を理解するきっかけとなったのがLGBT教育です。
フランスのLGBT教育の特徴は、科学の授業の中でも「生物領域」という科目でLGBTについて教えることです。
また、生命倫理、歴史、社会制度といった様々な角度からLGBT教育が行われることにより、LGBTフレンドリーな風潮に結びついています。
▼フランスのLGBT教育について詳しくはこちら
LGBT教育に必要なこととは?課題や取り組み事例を紹介
オランダ-「性の多様性」の必修授業
5つ目に紹介する国はオランダです。
オランダは世界で初めて同性婚を合法化したことで知られています。
性の多様性に寛容なオランダでは、2012年から学校教育で「性の多様性」を扱うことが義務づけられています。
例えば、初等教育の「社会・環境学習」の科目には「セクシュアリティと性的多様性」という学習項目があり、セクシュアリティや文化の違いを尊重することの重要性について学びます。
また、学校以外でも性の多様性について学ぶ機会が多くあります。
例えば、性教育用のテレビ番組では同性愛や両性愛といったテーマが扱われています。番組内ではLGBTの人たちに対する様々な問題についてクイズ形式で学ぶことができます。
▼オランダのLGBT教育について詳しくはこちら
【EU諸国と日本でどう違う?】学校の性教育におけるLGBTs
日本のLGBT教育の現状-海外との違い
日本のLGBT教育と海外の教育にはいくつかの違いがあります。
文部科学省の方針
文部科学省はLGBT教育への対応として様々な取り組みを行っています。
2010年には児童生徒が抱える問題に対しての教育相談を徹底するように、教育委員会に連絡しています。
2015年には「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細かな対応の実施等について」を発出し、性同一性障害の児童生徒への支援について具体的にやるべきことを取りまとめています。
2016年には教職員向け手引きの作成と公表、2017年には「いじめ防止対策推進法に基づく基本方針」の改定が行われ、LGBTへの対応が盛り込まれました。
▼文部科学省の方針について詳しくはこちら
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海外に比べて「遅れている」と言われる理由
日本のLGBT教育が海外に比べて遅れていると言われる理由の1つとして教員の理解不足が挙げられます。
また、教科書に同性愛や性同一性障害の記載がないことも日本のLGBT教育が海外に比べて遅れている原因の1つです。
日本の学校での取り組み事例-LGBTを扱う教科書の導入
2017年度から高校の家庭基礎と家庭総合の教科書にLGBTの内容が記載されるようになりました。
また、2020年度からは小学校で使われる保健体育の教科書にもLGBTについての記載が追加されることになり、年齢の低い児童にもLGBTの教育が施されています。
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まとめ
LGBT教育について新しく知ったことはありましたでしょうか?
日本のLGBT教育は海外のLGBT教育に比べて足りないところが多くあります。
LGBTについての知識を備えた教員を増やすことや、小さいうちから性の多様性の重要性を教えることなど、取り組むべきことは数多くあります。
LGBTの方々が過ごしやすい社会になるために、一刻も早い対応が求められます。
大学では国際デザイン経営学科に所属し、解決が困難な問題をあらゆる角度から解決できるようにするため、日々勉学に努めている。