【更新日:2023年1月13日 by 田所莉沙】
近年、ニュースで取り上げられるLGBTですが、日本では理解が進んでおらず、対策が不十分な現状です。そのため、LGBTをはじめ性的マイノリティの人々は、偏見や差別を受けたり、当たり前の権利を得ることが難しくなっています。
LGBTの人々が抱える問題とはどのようなものがあるのでしょうか。また企業は、LGBT支援として何ができるのでしょうか。
この記事では、LGBTの人々が直面する問題や、企業がLGBT支援に取り組む目的、国内外の企業によるLGBT支援の取り組み事例を紹介します。
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LGBTの意味
そもそも「LGBT」とは、一体どういう意味なのでしょうか。
「LGBT」とは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーという、4つの言葉の頭文字をとって組み合わせたものです。それぞれ「女性の同性愛者」・「男性の同性愛者」・「両性愛者」・「身体の性に違和感を持ち、心の性に従って生きたいと望む人」を意味します。
LGBTは人口に占める割合が少なく、人口の約5%の人が該当すると想定されています。また、セクシュアル・マイノリティ(性的少数者)と言われる場合もあります。
性を表す4つの要素
多くの人が「性」と言われると、「男性」もしくは「女性」の2つであると判断する傾向があります。しかし「性」は男性・女性という捉え方では捉えきれないほど、多様で複雑なものです。
「性」を表す要素として、4つの要素があります。これらの要素が、多数派と異なる場合に「性的マイノリティ」と言われます。それぞれの要素については、以下の通りです。
①身体の性(Sex Characteristics) | 出生時に判断された、身体的特徴による性のこと。 |
②性自認(Gender Identity) | 自分自身で認識している性のこと。「こころの性」のこと。 |
③性表現(Gender Expression) | 言葉や服装など、それぞれが表現する性のこと。 |
④性的指向(Sexual Orientation) | 他人を好きになったり、興味をひかれたりする性のこと。 |
LGBTの人々が直面する問題
ここまでLGBTにおける言葉の意味や、性の要素についてまとめていきました。
続いて、LGBTの人々が直面している問題について解説していきます。
関連記事:《徹底解説》女性とSDGsの関係性|日本の抱えるジェンダー問題を徹底解説
職場|差別や無配慮がある
LGBTの人々が実際に就職をして働くことになったとき、直面する問題はLGBTの人々にとって配慮されてない環境です。
LGBTの多くの人はカミングアウトすることができず、異性愛者の振りをしながら働かなければなりません。また更衣室が男性・女性と明確に別れている点も、LGBTの人々にとっては利用しにくい環境となっています。
そのほかにも「男性らしさ・女性らしさを強要される」ことも、差別やハラスメントに該当します。無意識と言えども、性自認に当てはまらない話は相手を傷つける可能性があります。
カミングアウト …誰にも言わなかった自分の秘密について、自分から打ち明けること。LBGTに関する言葉としては、「自分がセクシュアルマイノリティであることを打ち明ける」という意味で用いられる。 |
学校生活|差別的な授業や制度がある
LGBTの人々が困る問題は、学校生活の中にも存在します。それが授業や学校内の校則などです。
たとえば学校の授業では、体育の授業が男女で分かれています。授業分けは見た目の性別で判断されるため、性自認とは異なる割り振りをされる可能性があります。
そのほかにも中学校や高校では、制服が男性と女性で着用するものが定められています。制服においても見た目の性別で決まるため、性自認と異なる服を強要してしまう場合があります。
病院|保険証の提示や問診票にためらいがある
病院においても、LGBTの人々は抵抗感を抱きながら受診している可能性があります。
たとえば初診の患者さんに保険証を提示してもらうとき、性別と患者さんの見た目が異なって見える場合があります。このとき、LGBTの人々、とくにトランスジェンダーの人々にとって、疑われていないかと不安を抱いています。
そのほかにも問診票には、性別を記載する欄があります。そこでは男性・女性が明確に分けられているため、戸籍上の性別を書くべきか、性自認している性別を書くべきかどうか、悩む方人も多いといいます。
不動産賃貸|壁となる法的な問題がある
LGBTの人々が不動産屋で賃貸を借りるときにも、問題は生じています。それは法的な問題です。
たとえば住まいを探すとき、同性カップルは異性カップルと比べると、入居できる物件数が少なくなっています。
また実際にマイホームを購入することになっても、同性カップルだと住宅ローンを2人で組むことができません。そのためパートナーが他界してしまったときなどに、住まいにおける不安が残ってしまいます。
企業がLGBT支援に取り組む目的
ここまでLGBTの人々がさまざまな場面で抱える課題についてまとめていきました。では企業がLGBTの人々に向けた支援を行う目的は一体何でしょうか。
理由はいろいろとありますが、企業がLGBT支援を行うことは、企業にとってもメリットとなります。
たとえばすべての人が働きやすい環境を整えることで、多くの人から「選ばれる企業」となります。これにより、企業は優秀な逸材を獲得するチャンスを得られます。
そのほかにもメリットはさまざまあります。その利点については以下の通りです。
企業がLGBT支援を行うメリット | |
・生産性の向上
・職員の離職防止 ・人権侵害による訴訟リスクの回避 |
差別やハラスメントなどを防止することで、すべての人が安心して働けるようになる |
・海外からの集客
・企業価値の向上 |
企業がLGBT支援を行うことで、消費者や企業の取引先からのイメージが良くなる場合がある |
企業によるLGBT支援の取り組み7選
ここまで企業がLGBT支援に取り組むメリットについて、まとめていきました。
続いて、企業が実際に行っているLGBT支援を7つ紹介していきます。
関連記事:《徹底網羅》SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の取り組み9選
LGBTに関する方針や規定を作る
LBGTの人々の支援をする方法として、まずは企業内で方針や規定を明確に定めることが大切です。企業の中で性自認や性表現などを人権と捉えて、規定とすることで差別をなくしていくことで、すべての人が働きやすい環境づくりに繋がります。
たとえば企業における規定の中で差別禁止を定めたり、服装や髪型を自由に選べるようにしたりなど、さまざまな方法があります。
また規定を定めても、働いている人のLGBTに関する認識が低ければ、規定をしても環境は改善されません。ただ方針や規定を定めるだけではなく、方針・規定を周知させ、LGBTについての理解を深めていく必要があります。
人事・福利厚生制度を見直す
企業内で方針や規定を定めるだけでは、働きやすい環境づくりができているとは言えません。働きやすい環境のためには、人事や福利厚生の制度も見直すことが重要です。
たとえば福利厚生には結婚休暇や家族手当、介護休業などの制度があります。これらの制度において、同性カップルにも適応させることでLGBTの人々も福利厚生制度を利用しやすくなります。
LGBTに関する社内の相談窓口を設置する
LGBTにおける社内の相談窓口を設置することも、働きやすい環境づくりに貢献する方法の一つです。
LGBTの人々にとって、個人の情報が不本意で周りの人に知られることは、とても精神的なストレスとなります。こういったストレスをなくすため、社内に相談窓口を設けることで、プライベートを明かすことなく悩みを解決できます。
LGBTの人に限らず、カミングアウトや相談を受けた際にも相談窓口にて、専門的な知識を得られます。社内で相談窓口を設けることが難しい場合、LGBTに関する相談を受け付けている企業や団体に相談することもおすすめです。
LGBTに関する研修や周知啓発を行う
企業の中でLGBTに対する差別や偏見などを防ぐためには、LGBTへの理解を深める必要があります。そのためには、LGBTに関する研修や周知へ啓発をすることが大切です。
たとえ社員の人が悪意がなかったり、わざとではなかったりしても、言葉の表現の仕方や行動がLGBTの人々を傷つけてしまう可能性があります。些細なことでトラブルが生じないようにするためには、LGBTに対する理解を深め、適切な関わり方ができるようにすることが重要です。
LGBTの支援者や理解者は「アライ(Ally)」と呼ばれます。社内でアライが増えれば、すべての人が働きやすい環境となります。アライバッジを身に着けて、表明できる環境になるよう整えることも、社員がLGBTに関する知識が深まるきっかけとなるのではないでしょうか。
アライ(Ally) …自身はLGBTではないけれど、LGBTの人々の活動を支持・支援している人のこと。 |
トランスジェンダー社員が働きやすい職場環境の整備を行う
私たちが普段何気なく利用している物や施設が、トランスジェンダーの人々にとっては抵抗感を抱いている場合があります。すべての人が働きやすい環境とするためには、トランスジェンダーの人々も利用しやすい施設の整備が大切です。
たとえば男女別々のトイレではなく共同トイレを設置したり、資料の性別記述欄をなくしたりなどの工夫ができます。
さらに制服や服装の規定があるような職場では、男女間で明確に指定のものをわけるのではなく、区別を設けないようにすることも、ストレスなく働くために必要な方法です。
当事者コミュニティを立ち上げる
企業内でLGBTの支援をするために、LGBTの当事者やその支援者によるコミュニティをつくることも、すべての人が働きやすい環境づくりにつながります。LGBTの当事者だけではなく、アライも含めたコミュニティを形成することで、より働きやすい職場に近づきます。
コミュニティを作る際は、ルールを設けることが大切です。たとえばプライベートの話を無理やり聞きださないようにしたり、男女を明確に分けてしまう話題は避けたりなどがあります。また間違った言動をしてしまった場合、すぐに確認し、素直に謝ることもコミュニティにおいて重要です。
さらにアウティングや「女らしい」というような、決めつけをしてしまう言葉にも注意していくことも、LGBTコミュニティに必要なことになります。
アウティング …ある人のセクシュアリティについて、許可なく第三者に言いふらしたり、SNSに書き込むこと。 |
LGBTに関する社会貢献活動を行う
企業がLGBTに関する社会貢献をすることも、LGBTの人々が働きやすい環境づくりにつながります。社会貢献の活動内容として、LGBTに関するイベントの開催や協賛などがあります。イベントを通じてLGBTについてあまり詳しくない社員の人に興味・関心をもってもらうことで、企業内でより多くの人がLGBTについて理解を深められます。
また企業が社会貢献に取り組むことで、企業価値も向上していくため、企業にとってのメリットも多くあります。多くのイベントを開催したり参加することでLGBTの人々にとっても、LGBTフレンドリーな企業だと認知でき、より「選ばれる企業」となります。
【国内】企業によるLGBT支援の取り組み事例3選
ここまで企業が取り組んでいるLGBT支援の取り組みについて、まとめていきました。
つぎに日本の企業がLGBTの人々に向けて実施している取り組みについて、紹介していきます。
日本航空株式会社(JAL)|「ピンクドット沖縄」
JALは社会課題を解決し、サステナブルな人流・商流・物流創出することをESG戦略として、航空会社の強みを活かした取り組みを行っています。また重要課題として4つの領域と22の課題を設定し、解決に向けて政策などを行っています。
JALがLGBT支援として取り組んでいるのが「ピンクドット沖縄」です。「ピンクドット沖縄」とは、性的マイノリティが生きやすい社会を目指してLGBTの人々やその友人、家族、手指に賛同する人やアライ企業の人々が集まり、LGBTの理解を促進させていくイベントです。
また「ピンクドット沖縄」にあわせて運航しているのが「JAL LGBT ALLYチャーター」です。これは2019年9月から運航されているものであり、LGBTを支援する活動を多くの人に知ってもらうために取り組んでいます。
三菱商事株式会社|LGBTに関する基本方針
三菱商事株式会社は企業理念である「三綱領」に基づいて、物心ともに豊かな社会の実現に努力すると同時に、地球環境の維持に貢献することを目指して、さまざまな取り組みを実施しています。
三菱商事株式会社がLGBTの人々にとっても働きやすい職場とするために、LGBTに関する基本方針を定めました。三菱商事株式では性的指向・性自認・性表現にかかわらず、すべての社員が能力を最大限に発揮できるよう、2つの方針を設けています。
そのほかにも社内外の相談窓口にて、匿名で相談できる場を設けたり、社員のLGBTの理解をさらに深めるため、研修・セミナーを開催したりしています。
三菱商事 LGBTに関する基本方針 ①人格と個性と基本的権利を尊重するとともに、安全や健康面も含め適切な労働環境の確保に努める。 ②多様性を受容し、それを継続的な企業価値の創出に活かす。 |
大和ハウス工業株式会社|「ダイバーシティ&インクルージョン」
大和ハウス工業は人材を最大限の経営資源としており、多様な価値観やジェンダー、世代や言語・文化を活かした発想を活用しながら、持続可能な社会を目指して取り組みを行っています。
大和ハウス工業株式会社は、さまざまな人々が安心して能力を発揮できるような、職場をつくる「ダイバーシティ&インクルージョン」を進めています。その一環として実施しているのが「同性パートナーシップ制度」です。2021年11月に「同性パートナーシップ制度」を導入し、旅費や住宅手当支給など8つの規定や福利厚生を改定しています。
また大和ハウス工業株式会社が実施しているLGBT支援に向けた取り組みは、令和3年度「PRIDE指標2021」においてゴールドを受賞するなど、団体からも評価を得ています。
PRIDE指標 …任意団体work with Prideが2016年に策定した、LGBTなどのセクシュアリティへの取り組みへの評価指標のこと。LBGTの人々が誇りを持って働ける職場の実現を目指し、5つの評価指標が設けられている。 |
5つの評価指標 ①行動宣言(Policy) ②当事者コミュニティ(Representation) ③啓発活動(Inspirariton) ④人事制度・プログラム(Development) ⑤社会貢献・渉外活動(Engagement/ Enpowerment) |
【海外】企業によるLGBT支援の取り組み事例2選
ここまで日本企業が取り組んでいるLGBT支援について、まとめていきました。
続いて、海外の企業が実施しているLGBT支援に向けた取り組みについて、解説していきます。
ヴァージン・アトランティック航空|企業ポリシーの更新
ヴァージン・アトランティック航空は、イギリスの大手航空会社です。ヴァージン・アトランティック航空は2022年9月に、ジェンダーに関する企業ポリシーを更新しました。これにより、キャビンアテンダントやパイロットを含むすべての従業員の制服を、性別によって分けることを廃止しています。
そのほかにもポジティブな職場環境を目指し、自分らしさを表現するコーディネートについて、ルールを変更しています。これにより、タトゥーを隠さずに勤務できるようになったり、化粧をすることを任意にしたりと、従業員の意思を尊重したものになっています。
また2019年には「ワールドプライド2019」にあわせて、スタッフ全員がLGBTの者であるというフライトを運航しました。収益の一部は、イギリスのLGBT支援団体に寄付されています。
ワールドプライド …世界各国で行われている、プライド・パレードのこと。セクシュアル・マイノリティのパレードを指すものとして、国際的に認知されている。 |
アドビ|AdobeProud Employee Network
アドビはアメリカの中でもLBGTフレンドリーな会社の一つとしてとても有名であり、”Best Place to Work” for LGBTのリストにもランクインしています。
アドビがLGBT支援として取り組んでいるのは社内における環境づくりだけではなく、LGBTコミュニティに目を向けた取り組みも行っています。中でも社員で構成された「AdobeProud Employee Network」は、地域で開催されるイベントに積極的に参加することで、LGBTの人々を支援しています。
そのほかにもLGBTに関するディスカッションや、LGBT支援団体への寄付活動も行っています。
企業がLGBT支援を行う上での課題
ここまで海外の企業が行っているLGBT支援の取り組み例について、まとめていきました。
では企業がLGBT支援に取り組む際に直面する課題とは一体何でしょうか。
まず最初に直面することは、LGBTの当事者が見えにくいことです。2020年に実施されたLGBT当事者によるカミングアウトのアンケートによると、職場の同僚や上司に自身のことをカミングアウトしている人は、500人中わずか17.6%であり、5人に1人以下という結果でした。
カミングアウトしていない理由として、必要性を感じていないという考えだけではなく、会社や同僚・上司の理解が不十分であることも挙げられています。
カミングアウトしたくてもできない、という人々を少しでも減らすためには、まずLBGTに関する理解を深める必要があります。そのためには企業が積極的にLBGTの人々に向けた制度を導入したり、セミナーを実施したりと、工夫することが重要です。
まとめ
「LBGT」とは、レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーの4つの言葉の頭文字を組み合わせたものです。「性」には男女という区別ではなく、こころの性や性の表現など、4つの要素の組み合わせによって決まります。
LBGTの人々は、職場や学校、病院などさまざまな場面でストレスを抱えていたり、働きにくさを感じていたりと、問題を抱えています。すべての人が働きやすい環境をつくるためには、LBGTの人々も考慮した環境が大切です。取り組み例として、LBGTに関する知識を深める研修・セミナーの実施や、LBGTに関する方針・規定の策定などがあります。
「性」のあり方は多様であり複雑であるため、当たり前のことのように決めつけるのではなく、多様性を尊重していくことが重要です。企業も多くの人の価値観を大切にするため、まずはLBGTについて知ることから始めてみませんか。
SDGsCONNECT SEOライター。大学では文学を通じて、ジェンダーについて学んでいます。SDGsについて詳しくない人にとってもわかりやすく、かつ情報が正確な記事を書けるよう、心がけています。