三菱地所グループは、130年以上にわたり丸の内エリアを中心としたまちづくりをしており、アウトレットモールの開発や不動産投資信託市場へ参入するなどさまざまな領域へと事業を拡大している。三菱地所は、2025年に内神田で26階建てのオフィスビルを建設する「内神田一丁目計画」を進めている。
内神田一丁目計画とは
新築建物内の2階、3階、4階部分を「食と農」をテーマにした産業支援施設としており、日本全国の生産者や加工者のチャレンジャーをサポートするコミュニティスペースを作ることを目的としている。 詳しくはこちら▶三菱地所公式ホームページより |
そんななか、プロジェクトの一環として地域の生産者と都心の生活者をつなぐために、ロフトワーク、シグマクシス、70seedsと共同で「めぐるめくプロジェクト」をスタートさせた。
今回は、プロジェクト開発部内神田開発室主事の広瀬さんとサステナビリティ推進部マネジメントユニット副主事の中村さんにプロジェクトの概要や思いについて伺った。
見出し
経営とサステナビリティの一体化へ|三菱地所のサステナビリティ推進部
ーー自己紹介をお願いします。
広瀬:プロジェクト開発部内神田開発室主事の広瀬と申します。
新卒で不動産会社に入社し、まちづくりや場づくりに興味がありました。ハードだけではなくソフトの場づくり、すなわちコミュニティづくりにもチャレンジしたいと思い、2年前に三菱地所に入社しました。現在は内神田開発室というところで、内神田一丁目計画の物件担当として、プロジェクトの企画推進を担当しています。
中村:サステナビリティ推進部マネジメントユニット副主事の中村と申します。
大学卒業後は不動産会社以外の仕事も経験し、2010年に三菱地所に入社しました。人と何かを作り上げることが好きというのがベースにあります。
ーーどういった経緯でサステナビリティ推進部の立ち上げにいたったのですか?
中村:以前から環境、社会、人権などCSR活動として取り組んできましたが、サステナブルなまちづくりに挑戦し続ける姿勢をより強化し、グループ全体で推進する中心的機能を明確化するために、環境・CSR推進部からサステナビリティ推進部へ改称したのが2019年度です。
経営とサステナビリティを一体化して取り組みを深化させるため、組織として経営企画部と同じ担当役員のもとにサステナビリティ推進部をスタートさせました。
サステナビリティ推進室では、統合報告書の中では掲載しきれないような、詳細なESGのデータも含めて、グループ全体の取り組みをサステナビリティレポート等で開示しています。
オープンイノベーションで食の発展を|4社合同プロジェクトの狙い
ーーめぐるめくプロジェクトが立ち上がったきっかけを教えてください。
広瀬:三菱地所では、領域横断的に産業支援に取り組んでいます。内神田一丁目計画における産業支援施設のテーマとして、「食と農の産業を活性化する」ことを目指したプロジェクトが立ち上がりました。我々としては、スペースとして場を提供するだけではなく、しっかりとしたコミュニティを作っていくことが大事だと思っています。単なるハードとしての場所に留まらず、地域の生産者や加工者の皆さんと連携するようなコミュニティを作っていきたいです。
ーーなぜ「食と農」にテーマを決めたのですか?
広瀬:計画地に、農業系や水産系の団体が入居する建物があるなど、もともと食と農にゆかりがある場所だったからです。また、三菱地所では今までも食をテーマにした取り組みを行っていましたが、消費側にフォーカスポイントをおいた取り組みが多かったと思います。しかし、今後は生産・加工などバリューチェーンの上流に対するアプローチも必要だと感じていたので、生産・加工に力点を置き、また消費者と生産者をつなげることをテーマに設定しました。
ーーなぜ、三菱地所、ロフトワーク、シグマクシス、70seedsの4社共同で取り組むことになったのですか?
広瀬:適材適所という言葉どおり、三菱地所が得意な部分がある一方、それ以外の分野においてはそれぞれのスペシャリストがいるので、各社で連携しながらイノベーションを起こすことが重要だと考えています。今回共同で参画していただいている3社は、我々の目指している“”農と食がめぐる、やさしい世界をつくる”という目標が一致しているので、共同で取り組みを進めることになりました。
ロフトワークさんは、渋谷でQWSの運営をしており、コミュニティの醸成や場づくりをとても得意としているクリエイティブカンパニーだと感じています。
シグマクシスさんは、コンサルティングファームですが、フードテックを中心とする食のコミュニティを形成し、「Smart Kitchen Summit Japan」というサミットを2017年から立ち上げています。
70seedsさんは、地域のプロモーションなどに携わられている会社です。代表の岡山さんも農業のIT化などへの取り組みをされているなど、今回のプロジェクトとの親和性があることから、お声がけさせて頂きました。
切り取り方ひとつで、可能性の拡大や、価値の最大化ができる食は多大な可能性を秘めています。また、食は食べて終わりではないと思います。食の価値を広げるためには、さまざまな感性がないといけません。三菱地所内で、さまざまな感性を持ち合わせているつもりですが、感性が多いほど取り組みが発展していくと思います。私自身も4社共同で進めていくことで、良い関係性が築けるのではないかと期待しています。
参加型プロジェクトで当事者に|めぐるめくプロジェクトが描く「食と農」の未来
ーーめぐるめくプロジェクトはどのような課題解決に繋がると考えていますか?
広瀬: 「食と農」の課題は、バリューチェーンの各プレイヤーが分断されている点です。今まで作られてきた産業構造は、食料を安定供給させるために、いかに合理的、効率的な仕組みづくりをするかが主題でした。生産者は、どのように消費者に届いているのかを把握することが難しく、分からず、生産者と消費者の関係性が希薄になっています。地域の特色を持った生産・加工が増えているにもかかわらず、消費者に伝わらない。なかなかワクワク感や背景にあるストーリーが伝わりづらいのが現状です。
課題を解決するためには、お互いの全体の関係を見直すことが重要だと思っています。今回我々が重視している点は、「参加する」ということです。話を聞いて学ぶだけでなく、実際に体験することで、より互いへの理解が深まっていくと思っています。
私たちは、食の生産・加工を「タベモノヅクリ(=食べ物+モノづくりの造語)」と定義しています。タベモノヅクリに対して生産者だけではなく、消費者も参加できる。例えば、米農家さんが、米作りをする際に消費者も何かの工程に参加できると、新しいチャレンジが加速していく取り組みになるんじゃないかと期待しております。応援購入みたいな関わり方や、営農という形で農業をお手伝いする形もあると思います。今回のプロジェクトでは、1つの目的を1人だけで達成する世の中というよりは、1つの目的を皆で1%ずつ出し合って、100人集まれば100%になる取り組みにしていきたいです。
ーー地域の方々との取り組みについて教えてください。
広瀬:全てを東京に持ってきて、集約を目指す世の中ではないと思っているので、ローカル to ローカルという意識を持っています。
今まで地域の特産物を作る際には地域内で完結しなければならないという意識があったと思いますが、なかなかうまくいかない部分もありました。そこで地域同士でコラボレーションしたら、うまくいくのではないかと考えました。地域同士で交流を持つことでコミュニティの中で気付き・学び合いができる関係を築いていけると良いと思っています。そのため、地域側の窓口の方とお話させていただいていて、生産者の方に広げていっていただくというような関係を築いています。生産者の中には認知を広めたくても、難しいというジレンマを抱えている方もいるので、私たちは場を作り発信していく必要があります。
東京で広く浅く特産物を扱うことももちろん大切ですが、地域の特産物をある程度深く知ってもらう時には、生産現場で背景をしっかり理解できるようなツアーの企画ができればと思っています。また、都内でも「このトマト農家さんは会ったことがあるから、買ってみようかな」というような関係性がつくられる食体験も増やしていきたいです。また、コミュニティにはいろいろな方が参入する形が理想だと思っています。大学の研究機関や食関連以外の会社、一、食に関わるような社会貢献活動をしているという会社の方々にも参加していただきたいなと思っています。
ーー今後の展望を教えてください
広瀬:「場所だけできてもそれって誰がどう使うの?」という疑問を持っているからこそソフトな場づくりを目指しています。ハードの場所を提供することも価値があると思うのですが、中身も一緒にしっかりとつくっていくことが重要だと考えます。ハードとソフト両面から、タベモノヅクリに関わる人々が活動する上で必要な場所をつくっていきたいです。
また、オンラインが普及していますが、現地に足を運んで直接生産者さんに会うことも大切だと思っています。さらに何度も足を運ぶのも重要です。一度だけでなく、回数を重ねることで、生産者の方々にも熱意や本気度が伝わると感じています。現地に足を運ぶ中で、数珠つなぎで「ここの生産者さんがいいよ」と教えてもらうことで、どんどんコミュニティが繋がっていきます。コミュニティを差別化して、ライバル関係を作るのではなく、仲間として一緒に取り組みができる関係性を築いていきたいです。
いわゆる二項対立で、消費者と生産者で立場を分けて考えるのではなく、フラットな関係で皆が公平にアイディアを出しあえるような世の中になっていくと、より良い世の中になると思います。
さいごに
リモートワークが主流になっていく中で、広瀬さんは同じ地域に多い時で年に6度も足を運ぶという。
そういった地道な努力と真剣さが、食材を地域から地域に巡らすことができるのだと感じた。東京にいても生産者の顔や思いが浮かぶようになると、食材選びをする時間が楽しめるようになると思う。
これからの「食と農」のスタンダードが、めぐるめくプロジェクトから発信されるのかもしれない。
SDGsコネクトインタビューユニットライター。大学では大きなくくりで性について勉強しています。人の熱量をそのままに記事を発信していきたいです。好きなものはピンクと美しいもの。