【更新日:2023年6月19日 by 田所莉沙】
「ESG」とはE(Environment)・S(Social)・G(Governance)の3単語のうち、頭文字を
組み合わせた言葉です。近年では、世界各国で発生している社会問題の解決に貢献するものとして、注目されています。
一方でESG経営やESG投資などを積極的に行っている国は限られており、日本においても十分であるとは言えません。地球温暖化や気候変動など、深刻な問題を改善・解決するためにも、積極的な取り組みが必要です。
この記事では、ESGにおける課題についてを中心に、ESGの概要や世界・日本の現状などについて、解説します。
【この記事で分かること】 |
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ESGとは|SDGsとの違いも簡単に説明
「ESG」とは、Environment(環境)・Social(社会)・Governance(ガバナンス)の頭文字を、組み合わせた言葉です。地球温暖化や気候変動など、世界各国で起きているさまざまな問題を解決するために、近年ESGは注目されています。
ESGが注目されるようになったきっかけは、2006年に国際連合が発表したPRI(責任投資原則)です。「PRI(責任投資原則)」とは、企業などへの投資に環境・社会・ガバナンスの観点も視野に入れて、投資することを言います。
似たような言葉として、SDGsがあります。ESGは企業などが取り組むもので、長期的な発展のために実施します。一方でSDGsは、主に国や自治体が持続可能な社会の実現を目指して行うものです。
またESGは、世界各国の社会問題を改善するために行います。この取り組みはSDGsとも深く関わっており、ESGを実施することで、SDGsの目標達成にも貢献します。
ESG経営とは|3つの要素を重視した経営方法
「ESG経営」とは、環境・社会・ガバナンスの3つの要素を重視して、長期的な発展を目指す経営方法です。サステナビリティが重要視されている近年では、ESG経営を行うことが必要不可欠となっています。
企業がESG経営を行うことで、さまざまなメリットが得られます。たとえば企業のイメージが向上したり、投資家から投資されやすくなったりなどです。とくに企業の価値があがることで、優秀な人材が得やすくなり、離職する人も減っていきます。
関連記事:《徹底解説》ESG経営とは?|今注目される持続可能な企業経営を解説
ESG投資とは|7つの投資方法についても説明
「ESG投資」とは投資家が、企業がどのようなESG経営を行っているのか評価・分析したうえで、投資先を選ぶことです。寄付や援助とは違い、投資した分と相応のリターンを求めて、ESG投資を行います。
従来の投資では、企業の利益率やキャッシュフローなどの財務情報を踏まえて、投資する企業を選んでいました。しかし近年では、環境・社会・ガバナンスの3つの要素も考慮に入れて、投資を行う投資家が増加しています。
ESG投資をすることで、投資家は投資リスクを軽減できます。また、企業の持続成長が期待できるため長期リターンも見込めます。ESG投資には、7つの方法があります。
たとえば「ポジティブ・スクリーニング」では、環境保護に向けた政策や、ダイバーシティを促進している企業などに投資することです。また「サステナビリティ・テーマ投資」では、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを行っている企業に対し、投資をします。
そのほかの投資方法については、下記の記事をぜひご覧ください。
ESG投資 7つの方法 ・ネガティブ・スクリーニング ・ポジティブ・スクリーニング ・国際規範スクリーニング ・ESGインテグレーション ・サステナビリティ・テーマ投資 ・インパクト・コミュニティ投資 ・企業エンゲージメント |
関連記事:ESG投資のメリットとリスクを解説-ESG投資の今後の展望も紹介
ESG経営における課題3選
ここまでESGの内容や、ESG経営について説明していきました。
続いて、ESG経営を行ううえで、企業が直面する課題について、解説していきます。
1. 短期的に成果が現れない
ESG経営は、基本的に短期間では成果が現れにくいため、長期的に政策を実施します。そのため成果が現れるまで、時間がかかります。ESG経営は、短い期間で成果を求める企業にとっては、なかなか難しい経営方法です。
一般的にESG経営は、数年から数十年の月日をかけて政策を行います。長期の政策実施期間で、何度もフィードバックを行い、方針や取り組み内容を変更していく可能性もあります。また政策実施期間に、社会状況が変化する場合もあります。そのため社会の状況に応じて、政策内容を変更する場合もあります。
さらにESG経営の取り組みは、明確に数値として表しにくいものが多いです。そのため実際に取り組んだ政策が、どのような結果となったのか明確に判断しにくく、評価しにくくなっています。
2.評価基準が複数あり、目標が定めにくい
「ESG」という考え方は、近年注目され始めた考えです。そのため世界で共通した定義や、取り組みに対して評価をする基準がありません。また世界各国の企業は、独自の判断で目標や評価基準を設定しています。
中には目標を判断しにくいと感じ、ESG経営を実施できない状況にある企業も数多く存在します。かりにESG経営を行うために他の企業の財務情報を参考にしても、実際にどのような結果につながっているのか判断しにくい現状です。
3.中小企業までESG経営が浸透していない
ESG経営は、おもに大企業が実施していることがほとんどであり、中小企業ではあまり活発に取り組まれていません。とくに中小企業では、投資家からの支援が不足していたり、企業の業績が停滞していたりするという原因で、取り組みを行うことが難しくなっています。
またESG経営に取り組んでいる一部の中小企業でも、取り組み内容に偏りが生じています。たとえば商工中金が2022年に実施した調査の結果、中小企業が最も力を入れているのが、S(社会)に関連する取り組みでした。
一方でE(環境)に関わる取り組みは、他の取り組みと比べても、比較的少ない状況です。とくにE(環境)の政策は、費用がかかる場合があるため、コストが高いという理由で取り組みが広く行われていません。
ESG投資における課題3選
続いてESG投資をするうえで、投資家が直面する課題について、説明していきます。
1.企業が開示している情報が不十分である
ESG投資を行う投資家は、企業が公開している情報をもとに、投資する企業を選びます。そのため企業がどのようにESGに取り組んでいるかを、きちんと情報開示しなければ、投資家たちもなかなか投資先を選ぶことができません。
実際に2021年にTransition Pathway Initiative(TPI)が公開したレポートでは、401社のうち脱炭素化に向けた正確な取り組みを行っている企業は、たった15%でした。また401社のうち47%は、取り組んでいる政策に矛盾が生じていたり、つじつまが合っていなかったりしています。さらに16%を占める企業では、情報の開示が不十分であると評価されました。
今後さらにESG投資を活発化するためには、まず企業がESGの取り組みに対して、正確な情報を開示する必要があります。
Transition Pathway Initiative(TPI) …2017年に設立された、資産運用会社が支援するグローバルなイニシアティブのこと。低炭素経済への移行や、気候変動に対応する取り組みに対して、支援を行っている。 |
2.ESGの評価基準が曖昧である
ESGは、最近注目されているものの、定義やESGの取り組みに対する評価基準が確立されていません。そのため同じESGの取り組みでも、企業によって評価に差が現れてしまいます。
企業のESGに関する取り組みを数値化するものとして、「ESGスコア」というものがあります。「ESGスコア」とは、第三者機関によって企業の取り組みを環境的・社会的に配慮しているかどうか、評価する指標です。
しかしESGスコアを算出する第三者の機関は、世界に複数存在しており、各機関ごとに算出方法が異なっています。そのためどの評価が本当に正確な評価なのか、曖昧な状況です。ESG投資を行うためには、まず正確な評価基準を設けることが大切となります。
3.得られるリターンが不正確である
投資家たちは、企業へ資金を支援しているわけではなく、リターンのことも考慮して投資を行います。ESGは中・長期的な取り組みです。そのためESG投資を行っても、将来どのくらいのリターンが得られるかどうかは、明確ではありません。また場合によっては、リターンがまったく得られないという場合もあります。
ESG投資を行う際には、ESG投資を行うことで企業の価値が向上するかどうか、きちんと考えたうえで決めることが必要です。
ESG経営にむけた取り組み|それぞれの項目をわかりやすく説明
ここまでESG経営や、ESG経営やESG投資を行う際に直面する、いくつかの課題についてまとめていきました。
つぎにESG経営を行う際の各項目の取り組み内容について、具体例を挙げながら説明していきます。
環境項目-E(Environment)v
E(Environment)では、企業が事業展開をしている製品の生産時や、サービスを提供する時に発生する環境汚染を防止します。実際に企業が取り組む事例としては、温室効果ガスの排出量削減や、省エネルギー対策などが挙げられます。
たとえば近年では、地球温暖化によって平均気温が向上し続けています。また気温が上昇したことで、海面の水位が上がったり、動植物の生態系が崩壊したりと、さまざまな問題が生じています。
さらに世界には、安心・安全な水を確保できない人も、増加しつつあり、20億人もの人びとが水を得るのに苦労をしています。
これらの社会問題を改善するために、E(Environment)に関する取り組みは必要不可欠です。
E(Environment) 取り組み例 ・省エネルギー対策 ・リサイクル ・環境に配慮した製品づくり ・二酸化炭素排出量削減 ・プラスチックの削減 など |
社会項目-S(Social)
S(Social)では、企業に勤める人々に対する労働環境や、多様性の尊重を促進する項目です。実際に企業ができる取り組み例としては、労働環境の改善や、多様性の尊重などがあります。
たとえば世界経済フォーラム(WEF)が2021年に発表した、ジェンダーギャップ指数ランキングにおいて、日本は156か国中120位とかなり低い順位でした。また世界各国で所得格差が拡大することで貧困層が増加したり、最低限の読み書きと計算が、できない子どもがいたりします。
人々の人権を守り、すべての人が働きやすい環境を整えるためにも、S(Social)は重要な項目です。
S(Social) 取り組み例 ・労働環境の見直し ・女性の社会進出 ・人権問題 ・従業員の健康 ・商品の安全性 など |
ガバナンス項目-G(Governance)
G(Governance)では、企業が経営を行う際に不祥事のない、健全な管理体制を整えるための項目です。企業がESG経営を行うときに、G(Governance)が最も重要な要素です。しかし多くの企業では、G(Governance)に関する取り組みがあまり積極的に行われていません。
G(Governance)に関連した取り組みとしては、取締役会の設置や企業の情報を適切に開示することなどが挙げられます。G(Governance)の取り組みを行うと、企業の体制もきちんと整備されていきます。そのため不正会計や、不適切営業などの問題が少なくなり、周囲からの印象も向上します。
企業の経営状況を好循環にするためにも、G(Governance)の取り組みは重要なものです。
G(Governance) 取り組み例 ・取締役の設置 ・コンプライアンスの策定 ・社員の評価方法の公開 ・役員選出の理由公開 など |
日本企業におけるESG経営取り組み事例3選
ここまでESG経営の取り組み事例を、各項ごとに説明していきました。
最後に日本の企業が、実際に取り組んでいるESG経営について、紹介していきます。
関連記事:ESG経営に取り組む企業事例6選-メリットや注意点も網羅的に紹介
花王株式会社|大気や水質の汚染防止
花王株式会社は、洗濯用洗剤や化粧品などの製品を製造・販売を行っている化学品メーカーです。花王株式会社では、消費者の目線に立ち、役立つようなESG経営を行っています。なかでも花王株式会社が取り組んでいるのが、E(Environment)に関わる、大気や水質の汚染防止です。
たとえば製品の製造中や使用時に、大気や水資源へ放出した汚染物質が、環境や人へ悪影響を与えないように配慮しています。また大気汚染の防止に向けて、工場から排出される揮発性有機化合物の量を年間1トン以下にする目標を掲げています。
さらに製造した製品の運搬の際に、スマート物流を達成することも目標の一つです。そのためライオン株式会社と共同で、拠点間定期往復輸送を行っています。この方法で、従来の輸送方法よりトラックの空車走行距離も減らせるだけではなく、大気汚染物質の排出量を45%も削減できます。
揮発性有機化合物(VOC) …蒸発しやすく、大気中で気体となる有機化学物の総称のこと。おもなものだけでも200種類もあり、ガソリンや塗料などにも含まれている。 |
オムロン株式会社|従業員の保有能⼒発揮
オムロン株式会社は、工場などで使用されるFA機器や、体温計・体重計などのヘルスケア機器を取り扱う会社です。生きがいや働きがいを重視するようになった現代で、社会全体の豊かさと、自分らしさの追求が両立する「自立社会」の実現を目指しています。
ESG経営の中でS(Social)に関する取り組みとして、2016年から導入した「VOICE」という制度があります。「VOICE」とは、従業員が個々の能力を最大限に発揮できるよう、従業員が感じている課題点や要望に、企業が耳を傾ける制度です。
2021年度にはアンケートの回答率が91%を超え、人事評価制度の見直しや、リモートワークなどの柔軟な働き方などに取り組みました。また2022年度では新たな課題の発見のため、約20,000名を対象にエンゲージメントサーベイを実施しています。
エンゲージメントサーベイ …エンゲージメントを測定し、組織内の状態を数値化すること。 |
KDDI株式会社|コーポレートガバナンス・コードの遵守
KDDI株式会社は、日本の電気通信事業者であり、固定電話や携帯電話事業を展開しています。とくに携帯電話事業では、auなどのブランドを手掛けています。「豊かなコミュニケーション社会の発展に貢献する」というのが、企業理念です。この理念をもとに、インフラ企業として社会問題の解決に貢献しています。
ESG経営のうち重要なG(Governance)の取り組みでは、「コーポレートガバナンス・コード」の遵守と、「KDDIフィロソフィ」の実践を大切にしています。とくに2021年6月に改定されたコーポレート・ガバナンスでは、世界各国で直面している問題の解決につながるよう、サステナビリティに関連する取り組みを重要視しています。
また「KDDIフィロソフィ」は、従業員が持つべき考え方・価値観・行動規範を示したものです。KDDIフィロソフィに示されたことを実践することで、取引先の企業や消費者から信頼される企業を目指しています。
まとめ
「ESG」とは、E(Environment)・S(Social)・G(Governance)の頭文字を、組み合わせた言葉です。近年世界中で直面している社会問題の解決に向けて、必要な要素とされています。ESG経営やESG投資ではこの3つの要素を考慮したうえで、企業は経営し、投資家たちは投資先を選んでいきます。
社会問題の改善につながるESGですが、いくつかの課題もあります。たとえば評価基準があいまいであったり、企業が開示している情報が不足していたりすることです。ESGをさらに普及させるには、これらの課題を解決する必要があります。
実際に企業ができる取り組みは、省エネルギー対策や労働環境の改善などです。また企業にとって管理体制を、しっかり整えることも重要です。
SDGsCONNECT SEOライター。大学では文学を通じて、ジェンダーについて学んでいます。SDGsについて詳しくない人にとってもわかりやすく、かつ情報が正確な記事を書けるよう、心がけています。