【更新日:2022年6月6日 by 大川 智也】
SDGs目標9では「持続可能な産業の促進と技術革新」に向けて世界で取り組まれているテーマです。
現在コロナウイルスが世界に影響を及ぼしており、経済を維持するのが難しい状況が続いています。しかし、こういった災害やパンデミックが起きたとしても日本だけでなく、世界全体で速やかに産業を立て直すための取り組みが大切です。
今回は、SDGs目標9の世界の取り組みn選を紹介し、課題から日本・個人の取り組みまでをわかりやすく徹底解説します。
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SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」
SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」とは
SDGs目標9は「強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新の拡大を図る」がテーマとなっており、8個のターゲットが設定されています。
SDGs目標9では、インフラ開発の促進や持続的な産業化が主なターゲットとして設定されており、私たちの生活の基盤を作り、豊かにしていくことが目的だといえます。
SDGs CONNECTではSDGs目標9について詳しく解説した記事を公開しています。
SDGs目標9のターゲット
目標9では以下8個のターゲットが設定されています。
またこれらターゲットは、1~5の達成目標とa~bの実現方法で構成されています。
9.1 | 全ての人々に安価で公平なアクセスに重点を置いた経済発展と人間の福祉を支援するために地域・越境インフラを含む質の高い、信頼でき、持続可能かつ強靭(レジリエント)なインフラを開発する。 |
9.2 | 包摂的かつ持続可能な産業化を促進し、2030 年までに各国の状況に応じて雇用及び GDP に占める産業セクターの割合を大幅に増加させる。後発開発途上国については同割合を倍増させる。 |
9.3 | 特に開発途上国における小規模の製造業その他の企業の、安価な資金貸与などの金融サービスやバ リューチェーン及び市場への統合へのアクセスを拡大する。 |
9.4 | 2030 年までに、資源利用効率の向上とクリーン技術及び環境に配慮した技術・産業プロセスの導 入拡大を通じたインフラ改良や産業改善により、持続可能性を向上させる。全ての国々は各国の能 力に応じた取り組みを行う。 |
9.5 | 2030 年までにイノベーションを促進させることや 100 万人当たりの研究開発従事者数を大幅に 増加させ、また官民研究開発の支出を拡大させるなど、開発途上国をはじめとする全ての国々の産 業セクターにおける科学研究を促進し、技術能力を向上させる。 |
9.a | アフリカ諸国、後発開発途上国、内陸開発途上国及び小島嶼開発途上国への金融・テクノロジー・ 技術の支援強化を通じて、開発途上国における持続可能かつ強靭(レジリエント)なインフラ開発 を促進する。 |
9.b | 産業の多様化や商品への付加価値創造などに資する政策環境の確保などを通じて、開発途上国の国 内における技術開発、研究及びイノベーションを支援する。 |
9.c | 後発開発途上国において情報通信技術へのアクセスを大幅に向上させ、2020 年までに普遍的かつ 安価なインターネットアクセスを提供できるよう図る。 |
SDGs目標9を簡単にいうと何?わかりやすく解説
インターネットの普及に始まりネット授業や自動運転など、我々が生活していく中でも様々な技術が発展しています。
これらの技術、そして産業の更なる発展を支えるために、目標9では災害に強く復旧能力にも優れた強靭(レジリエント)なインフラ構築をテーマとして掲げています。
(参考:SDGs目標9. 産業と技術革新の基盤をつくろう | EduTownSDGs)
SDGs9の課題は?取り組みの前に知っておきたい3つの課題
交通インフラが整っていない
現在、世界人口の半数が都市に集中していることから、特に都市部のインフラの整備が重要視されています。
中でも途上国では、貧困による資金不足のため道路の舗装や建物の老朽化が進んでいます。重ねて、舗装のされていない道路など不十分なアクセス状況は貧困を加速させる要因の一つとなっているため、悪循環を生んでいます。
また人口の集中している場所では渋滞と排気ガスによる環境汚染だけでなく、今後さらなる人口増加も予想されるため交通インフラの整備が急がれています。
(参考:SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」を考える|インフラの現状や企業の取り組みも)
インターネット普及に格差がある
2021年11月に公開された国際電気通信連合(ITU)の報告によると、世界人口の37%(約29億人)が未だにインターネットを利用したことがないことが明らかになりました。また、その内の96%は発展途上国で暮らす人々だと推測されています。
近年のパンデミックにより、インターネットの需要は増加しました。
先進国で授業や会議のオンライン化が進む一方、インターネットの普及が充分でない地域との間に広がる格差が問題となっています。
(参考:29億人がネット未経験 世界人口の3分の1超―国連機関:時事ドットコム)
関連記事:《SDGs基礎》目標10「人や国の不平等をなくそう」を徹底解説
日本ではICT技術が遅れている
インターネットの普及に伴い、オンライン授業やリモートワークなど世界中でICTを活用した取り組みが進んでいます。
ICT(Information and Communication Technology)とは、日本語で情報通信技術を意味します。
GLOBAL NOTEの統計によると2020年時点の日本のインターネット普及率は92.73%であり、25位にランクインしています。
しかし日本におけるICTの導入は「予算が確保できない」などの理由から不十分であり、ICT教育の後れや技術者の不足といった課題を残しています。
(参考:世界のインターネット普及率 国別ランキング・推移 – Global Note)
関連記事:《徹底網羅》SDGs目標9の課題とは|産業基盤と技術革新の国内外の課題まで解説
SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の解決策・取り組み事例12選
SDGs目標9の達成に向けた世界の取り組み
まずは、世界の具体的な取り組み事例を紹介します。
アフリカの人々の暮らしを救う「Watly」
「Watly」とは、イタリアとスペインの合併企業であるスタートアップが開発した、太陽光発電を利用して、電気や水、そしてインターネットまでもを提供できる機械です。
世界では、未だに約6億6,300万人もの人が、安心して飲める水を確保できていない状態で暮らしていますが、その半数近くがサハラ以南のアフリカに集中しています。また、同地域では約6億人もの人が電気のない暮らしをしています。
この「Watly」は、太陽エネルギーを電力に変換し蓄電することができ、その電力で水を濾過・沸騰・濾過・沸騰・蒸留することで年間300万リットルの水を提供することができるため、アフリカの人々を救う技術革新として注目を集めています。
グローバル・インフラストラクチャー・ファシリティー(GIF)
世界のインフラサービスを拡大するためには年間1兆ドル以上の追加投資が必要です。しかし、開発途上国や新興国ではインフラ整備にかけられる資金が限られています。
そこで民間金融機関及び機関投資家は、国際開発金融機関とともにグローバル・インフラストラクチャー・ファシリティー(GIF)を設立しました。
GIFは、一企業では実行不可能で複雑な事業を達成するための協調を促進するプラットフォームで、民間セクターパートナーだけで12兆ドルの運用資産を保有しています。
GIFの投資活動やインフラ整備事業は発展途上国のインフラ整備に大きく貢献しています。
東南アジアで展開している「Grab」
Grab は、2012年にマレーシアで設立された、元々は配車を専門としていたアプリサービスです。
現在では、デリバリーやショッピング、電子決済の「GrabPay」まで幅広いジャンルのサービスを提供しており、ITを活用することで東南アジアの生活水準向上に貢献しています。
2018年にUberが東南アジア事業をGrabに売却したり、マイクロソフトやトヨタからの投資を受けたりと、Grabが東南アジア最大の配車サービスとなっています。
フィンランドの「Whim」
「Whim(ウィム)」とは、フィンランドの運輸通信省の支援のもと、MaaS Global社が立ち上げたMaaSアプリです。
MaaSとは、Mobility as a Serviceの略で、あらゆる公共交通機関をITと結びつけ、単なる移動手段ではなくサービスとして捉えることで、全ての人々が効率よく、便利に使えるようにするシステムのこと。
利用者がWhimに目的地を入力すると、公共交通機関を利用した目的地までのいくつかの経路と料金が提案されます。利用者は希望のものを選択し、その場で決済します。
Whimには4種類の決済プランがあり、定額制の「Whim Unlimited」を使用すると電車やバス、タクシーさらにはレンタカーからレンタルサイクルまであらゆる交通機関が乗り放題になります。
このようにMaaSが広まると、より多くの人々が公共交通機関に手軽にアクセスできるようになり、さらに公共交通機関の利用が増えるため、温室効果ガスの削減や渋滞の緩和などのメリットがあります。
関連記事:SDGsの取り組み事例51選|企業と個人の事例を17のゴール別に徹底網羅
SDGs目標9の達成に向けた日本の取り組み
では次に、日本の取り組み事例を紹介します。
「e-F@ctory」:三菱電機株式会社
三菱電機株式会社は、IoT化によるビッグデータの活用でスマート工場を実現する「e-F@ctory」をグローバルに提供しています。
「e-F@ctory」は工場内で現場の情報とICTを結ぶ仕組みで、製造現場の情報を取得し、その情報を元に生産性やコストの改善につなげます。
スマート工場化は東南アジアを中心に関心が高まっており、日本の技術が東南アジアの産業化に貢献しています。
「SHIP」:ビジネスでSDGs達成を目指す
「SHIP」とは、SDGsの達成をイノベーションの機会と捉え、企業のSDGsへの取り組みを促進することを目的に、一般社団法人Japan Innovation Network(JIN)と国連開発計画(UNDP)が、その他多くのパートナーと協働して運営しているオープンイノベーション・プラットフォームです。
「SHIP」では、企業がSDGsをビジネスに取り入れるために様々なプログラムを提供しています。
このグローバルなプラットフォームは、新たなイノベーション機会を提供しており技術革新が生まれるチャンスにもなります。
「見える電話」:NTTドコモ
「見える電話」とは、電話の内容を文字として可視化するサービスです。
主に、環境音の影響で電話の声が聞き取りづらいと感じる人や聴覚障害の人に向けたサービスで、電話を通じた便利さをより多くの人に提供しています。
また、NTTドコモは全国にスマートフォンに必要な電波を送受信する基地局を20万局以上設置しており、常に安定した電波を供給しています。
この基地局には蓄電池が設置されており、災害時に利用することもできます。
通院が困難な方への支援:長野県伊那市
長野県伊那市は、長野県で3番目の面積を持つことや、医師不足が原因で人々の通院の負担が課題でした。
そこで、長野県伊那市はMONET Technologies株式会社・フィリップジャパンと協業し、オンライン診療で通院が困難な方への支援をしています。
診察が必要な患者の家まで看護師が乗って診察車が赴き、その車内でオンラインで医師から診療を受けられるという仕組みです。オンラインなので医者が広い市内を移動する時間が削減され、より多くの人が診察を受けられるようになりました。
このようなMaaSの活用も、日本では徐々に進んでいます。
大学やその他への研究支援:文部科学省
文部科学省は、大学やその他の研究機関へ支援を行なっています。特に地域開発や科学技術の開発に注力しており研究機関と研究機関と一体となって課題解決に取り組んでいます。
例えば、LEDに使用されている「窒化ガリウム(GaN)」という半導体を応用して照明以外の部分でも省エネを実現できるよう、高品質なGaNを安定して作る技術を大学や企業と協力して開発しています。
SDGs目標9の達成に向けた個人の取り組み
最後に、個人でできる取り組み事例を紹介します。
身の回りのインフラ設備を知る
どのようにして水・電気が供給されているのか、またそれらが遮断された時どのような影響が予想できるのか。
自分の住んでいる家や地域のインフラ整備を把握しておくことは“現状”の理解に繋がります。身の回りのインフラが自分の生活にどのように関わっているのかを知ることで、世界のインフラ状況と現地の生活状況を紐づけて想像する際に役立ちます。
仕組みの理解と知識の獲得は、まさにSDGs9達成に向けた第一歩と言えます。
寄付・募金
自然災害への復旧支援、または途上国の水や電気、インターネット設備を整える団体への募金は私たち個人にできる大きな取り組みの1つです。
そのために世界で行われている支援プロジェクトやボランティア活動を調べてみるのも良いかもしれません。
災害対策
災害は時として断水や停電といった被害を生みます。
そのような「もしも」に備えて、モバイルバッテリーや発電機を準備しておくと良いかもしれません。
事前の備えは自身の身を守るだけでなく、復旧までの間インフラを圧迫しないための工夫にもなるため日頃の災害対策は重要です。
関連記事:SDGs目標9達成のための解決策とは|具体的な解決策から企業の事例まで網羅
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まとめ
今回は、SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」についての取り組みをご紹介しました。
SDGsの達成・進捗状況を報告した「Sustainable Development Report 2021」によると、SDGs目標9は現在最も優先して取り組まなければならない達成項目の1つとなっています。
地域格差がなく、生活基盤が整った社会の実現に向けた取り組みが、今後更に広まっていくことに期待したいですね。