「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの排出量と、吸収量を同じにし、全体で排出量ゼロを目指すことです。年々世界の気温が上昇しており、このまま対策をしなければさらに気温が上昇すると見込まれています。
また世界各国で豪雨や猛暑などの異常気象が発生しているため、さまざまな国や企業がカーボンニュートラルの実現を目指して取り組みを行っています。では世界や日本では、一体どのような取り組みが行われているのでしょうか。
この記事ではカーボンニュートラルの内容や、世界・日本企業が実際に取り組んでいる事例について紹介していきます。また私たちが身近にできる取り組みについても、解説していきます。
【この記事で分かること】 |
見出し
カーボンニュートラルとは|脱炭素との違いも説明
「カーボンニュートラル」とは、温室効果ガスの排出量と吸収量を同じにし、全体で排出量ゼロを目指すことです。ゼロにするということは、排出された量に対し、森林など植物が吸収する量と、最新技術を通して温室効果ガスを除去する量を差し引いて、実質的にゼロにすることを指します。
2015年に行われたパリ協定で、「世界的な平均気温上昇を工業化以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること」「今世紀後半に温室効果ガスの人為的な発生源による排出量と吸収源による除去量との間の均衡を達成すること」が採択されたことがきっかけで、世界中で取り組みが始まりました。日本は2050年までにカーボンニュートラルを目指すことを宣言しています。
一方、「脱炭素」とは、温室効果ガスの排出量ゼロを目指すことです。カーボンニュートラルと似た意味で使用される言葉ですが、カーボンニュートラルと異なる点は、全体としてゼロを目指すのではなく、「温室効果ガスの量自体を減らす」ことです。また、カーボンニュートラルの対象が二酸化炭素、メタン、フロンガス、N2O(一酸化二窒素)等も含まれるのに対し、脱炭素は二酸化炭素のみを対象としています。
なぜカーボンニュートラルが必要なのか|気候変動などの現状についても説明
カーボンニュートラルが必要とされる理由は、気候危機を回避するためです。現在、世界では様々な異常気象が発生しています。例えば地球温暖化による豪雨災害や猛暑、砂漠化などです。世界の気象災害発生件数は、1970年から2019年の50年間で約5倍近くに増加しました。これらは、温室効果ガス増加による気候変動が原因の一つだと考えられています。
また、1985年から2020年までの35年間で、地球全体のCO2濃度は1.2倍まで上昇しました。さらに、世界の平均気温は産業革命前に比べ約1.1℃上昇しています。このまま気候変動が続けば、さらに私たちの生活に悪影響を及ぼすと考えられます。そのため、カーボンニュートラルで温室効果ガスを減らすことが必要なのです。
▼詳しくはこちら
《徹底解説》今注目の脱炭素社会(カーボンニュートラル)とは?|SDGsとの関係も解説
カーボンニュートラルに取り組む際に直面する課題とは
カーボンニュートラルに取り組む際に直面する課題に、エネルギー供給の問題があります。日本はエネルギー生産の大半を火力発電所でまかなっています。そして二酸化炭素の排出量の約4割が火力発電所などで構成されるエネルギー転換部門です。そのため、二酸化炭素排出量が少ない太陽光発電や水力発電、風力発電等に切り替えていく必要があります。
しかし太陽光発電などの再生可能エネルギーは天候に左右されやすく、供給量も一定ではないため、インフラ等に影響を与える可能性があります。さらに、日本は再生可能エネルギー設備の設置に適した土地を持っていません。また、主要エネルギーの切り替えは多額の資金がかかるため国民の負担もあります。
このように環境面や資金面で様々な障壁があるため、カーボンニュートラルの推進に歯止めがかかっているという課題があります。
企業ができるカーボンニュートラルの取り組み内容4選
企業ができるカーボンニュートラルの取り組みを4つ紹介します。
自社の二酸化炭素排出量を把握する
二酸化炭素の排出量を把握することで、具体的な削減量を設定しやすくなります。例えばCO2排出量管理システムを導入することで簡単に計測できます。このシステムは電気料金の請求書などをアップロードして読み込むだけでCO2排出量を自動計算してくれるため、業務効率化にもつながると言えます。また、データをもとにコンサルタントに相談できるサービスや、削減に向けたプランを提示してくれるサービスもあります。
節電・省エネルギー対策を行う
節電・省エネルギー対策を行うことで、二酸化炭素排出量を抑えられます。この方法はコストが低く、ハードルも低いため始めやすい施策です。
具体的には空調機を清掃したり、窓の断熱性・遮熱性を向上したり、高効率冷凍・冷蔵設備を導入したりすることが挙げられます。まずは段階的に進めていくのはいかがでしょうか。
再生可能エネルギーを導入する
再生可能エネルギーを導入することで、二酸化炭素排出量を大幅に軽減できます。例えば太陽光パネルを設置することで電気代の節約に繋がるでしょう。しかし、自社内で設備を整えるのには土地やメンテナンス、コストがかかります。
その場合は電力会社と契約し自然エネルギー100%の電力を購入したり、省エネ対策があるプランを購入したりすることで対策ができます。それぞれメリットとデメリットがあるため、自社にとって適切な方法を選んでみてください。
補助金を利用する
カーボンニュートラルを実現するにはコストがかかります。そこで国や自治体が用意している補助制度を利用するのがおすすめです。
以下の表は国が実施している補助制度をいくつかまとめたものです。ぜひ参考にしてみてください。
(参考:環境省中小規模事業者のための脱炭素経営ハンドブック-温室効果ガス削減目標を達成するために-Ver .1.1)
補助金名 | 補助率 | 申請条件 | 設備対象 | |
1 | 中小企業等に対するエネルギー利用最適化推進事業 | A:専門家一人で診断 10,450 円
B:専門家二人で診断 16,500 円 いずれも税込 |
●中小企業者(中小企業基本法に定める中小企業者)
①資本金又は出資金が5億円以上の法人に直接又は間接に 100%の株式を保有される中小・規模事業者 ②直近過去3年分の各年又は各事 業年度の課税所得の年平均額が15 億円を超える中小・小規模事業者 |
・ 設備・機器の最適な使い方
・ メンテナンス方法の改善による省エ ネ ・ 温度、照度など設定値の適正化 ・ 高効率機器への更新 ・ 排熱等エネルギーロスの改善、有効利用 ・ 太陽光発電など再エネ設備導入提案 |
2 | テナントビルの省 CO2 改修支援事業 | 1/3 | ・テナントビルにおいて改修前に比べ 20%以上の CO2 削減
・ビル所有者 |
改修前に比べ 20%以上の CO2 削減に寄
与する省 CO2 改修費用(設備費等) |
3 | 工場・事業場における先導的な脱炭素化取組推進事業
(SHIFT 事業) |
① 脱炭素化促進計画策定 1/2
② 設備更新 1/3 |
①CO2 排出削減目標を含む「脱炭素化促進計画」の策定(CO2 排出量 50t 以上 3,000t 未満の工場・事業場を保有)
②工場・事業場単位で 15%削減または備 系統で 30%削減 |
①脱炭素化促進計画策定支援
②設備更新、電化・燃料転換、運用改善 |
4 | 脱フロン・低酸素社会の早期実現のための省エネ型自然冷媒機器導入加速化事業(農水省、経産省、国交省連携) | 1/3 | 冷凍冷蔵倉庫及び食品製造工場に用いられる省エネ型自然冷媒機器並びに食品小売店舗におけるショーケースその他の省エネ型自然冷媒機器を導入する事業であること | 冷凍冷蔵倉庫及び食品製造工場に用いられる
省エネ型自然冷媒機器、食品小売店舗におけるショーケースその他の省エネ型自然冷媒機器 |
日本政府が取り組むカーボンニュートラルの取り組み
日本政府によるカーボンニュートラルの3つの取り組みについて紹介します。
1つ目はカーボンプライシングに関する議論です。カーボンプライシングとは炭素に価格をつけ取引することです。二酸化炭素排出量に応じた税を課す炭素税と、排出量を上回る企業が下回る企業に売る国内排出量取引など複数の手法があります。カーボンプライシングを利用することで企業や消費者に脱炭素を促すことができます。しかし、全体として温室効果ガスが増える可能性もあるため、経済動向と関連づけながら議論が進められています。
2つ目は脱炭素のエネルギー開発です。現在の主要な供給源である火力発電は二酸化炭素を多く排出します。そのため火力発電にかわるエネルギー転換が必要とされます。そこで注目されているのが水素エネルギーです。天然ガスの火力発電に混ぜたり、水素だけの火力発電を行うことで二酸化炭素排出量をゼロにできます。
3つ目はカーボンリサイクルです。カーボンリサイクルとは排出された炭素を大気中から回収し、新たな製品を作り出すことです。回収された炭素はコンクリートや化学素材に生まれ変わります。政府はカーボンリサイクルを実現するためにロードマップを作成し、低コスト化を目指しています。
日本企業が取り組むカーボンニュートラルの取り組み事例3選
日本企業が取り組むカーボンニュートラルの取り組みを3つ紹介します。
- トヨタ自動車株式会社|ゼロエミッション車
- 協栄産業株式会社|ペットボトルの水平リサイクル
- イオン株式会社|使用電力の再生可能エネルギー化
トヨタ自動車株式会社|ゼロエミッション車
トヨタ自動車は水素燃料社会の実現を目指し、様々な取り組みを行っています。その中でも公用車をゼロエミッション車へ転換する取り組みがあります。ゼロエミッション車とは電気自動車や燃料電池車など、温室効果ガスが発生しない車です。しかし、まだまだ水素スタンドの数が少ないため、スタンドの数を増やすことが求められています。また、2035年には電気自動車を100%にする目標が立てられています。
協栄産業株式会社|ペットボトルの水平リサイクル
協栄産業株式会社は使用済みペットボトルを新しいペットボトルに作り替える技術を開発しました。従来のリサイクル方法だと、ペットボトルを細かく粉砕して別の商品に生まれ変わらせていたため、環境への負荷やコストがかかるという問題を抱えていました。しかし水平リサイクルでは原油からPET樹脂を製造する場合と比べて、CO2排出量を63%まで抑えられるようになりました。ゴミを減らすことにもつながるため、海洋問題解決にも役立っています。
イオン株式会社|使用電力の再生可能エネルギー化
イオンは、2025年までにイオンモール全店舗の使用電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指して、取り組みを行っています。例えば店舗屋上などへの太陽光発電システムやPPAモデルの導入拡大、卒FIT電力の買い取り強化、各地域での再エネ直接契約を推進しています。
また、EV車を利用している方に向け余った分のエネルギーを放電するとポイントを還元する計画も行っています。このように、街全体で脱炭素化を目指しています。
世界で行われているカーボンニュートラルの取り組み事例2選
世界で行われているカーボンニュートラルの取り組みを2つ紹介します。
アメリカ|クリーン自動車の普及
アメリカは2030年までに新車販売の50%をクリーン自動車にすることを目指しています。またクリーン自動車の充電スポット拡大のため、50億ドル分に相当するEV充電プログラム予算が見積もられました。これにより2030年までに充電スポットが50万基になる予定です。さらに航空部門においても機体をゼロエミッションに変更する計画が立てられています。
ドイツ|太陽光パネル義務化
ドイツでは太陽光パネルの義務化が検討されています。そのうちの3州ではすでに義務化されており、2050年までにベルリン市内の電力需要の約25%を太陽光エネルギーで賄うことが見据えられています。
また、税政策として再生可能エネルギー賦課金を2023年に廃止し、電力価格を下げる方針をとっています。
個人でできるカーボンニュートラルの取り組み4選
一人一人が取り組みを行うことで、温室効果ガスを少しずつ減らすことができます。そこで個人でできるカーボンニュートラルの取り組みを紹介します。ぜひ参考にしてみてください。
節電・省エネルギーを習慣化する
節電・省エネルギーを習慣化することで二酸化炭素を減らせるだけでなく節約にもなります。こまめに電気を消したり、冷房温度を高めに設定したりすることがおすすめです。また、長期間外出する際は家電のコンセントを抜くと節電になります。
自動車の使用頻度を減らす
自動車は二酸化炭素をたくさん排出するため、なるべく控えると良いです。最近は自転車のレンタルサービスが充実しているため、気軽に借りることができます。また自動車と比べて、公共交通機関は一人当たりの温室効果ガス排出量が少ないです。そのため、バスや電車などを利用して通勤・通学を行うことも、温室効果ガスの排出量削減に繋がります
ごみの量を減らす
ゴミの量を減らすとゴミを処理する際に出る温室効果ガスも減ります。過剰包装でない商品を選んだり、お気に入りや長く使用できる商品を愛用してみてはいかがでしょうか。また、食べ残しや食品ロスに気をつけたり、ゴミ袋を使いすぎないようにすると効果的です。
マイバック・マイ箸を活用する
レジ袋や割り箸などは毎回大勢の人が利用していると大量のゴミになってしまいます。個人でマイバックやマイ箸を持つようになれば、そうした小さなゴミが減らせます。お店にはさまざまな色や形のマイバッグやマイ箸が並んでおり、自分好みのものを選ぶことができます。楽しみながら使ってみてください。
まとめ
今回はカーボンニュートラルの取り組み事例について紹介してきました。異常気象や災害は私たちが排出している温室効果ガスによる原因が考えられます。カーボンニュートラルの実現は今後の未来を守ることになるため、積極的に行動する必要があります。
企業だけでなく個人の取り組みから始められるため、今できることから挑戦してみてください。
SDGs CONNECT ライター。好きな食べ物はナポリタンとレモンティー。SDGsの重要性を多くの人に広めます。