2016年12月に日本政府はSDGsの達成に向けて、日本ならではの中長期国家戦略「SDGs実施指針」を策定しました。
8つの優先課題とはSDGs実施方針に掲げられているもので、SDGsのゴールのうち特に日本が注力すべき課題を示したものです。
今回は、8つの優先課題に対応する「5つのP」の概要や、「8つの優先課題」について詳しく解説していきます。
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SDGsの8つの優先課題とは
5つのPとは
「5つのP」とは、SDGsが目指す持続可能な世界を説明した5つのキーワードのことを言います。そしてSDGsの17個のゴールは、「5つのP」をより具体的に説明したものになります。
5つの項目は以下の通りです。
【SDGsの5つのP】 People:人間 Prosperity:繁栄 Planet:地球 Peace:平和 Partnership:パートナーシップ |
この5つのPはSDGsの基本概念であるとされ、目標に向けてバランスのよい進展が必要とされています。
関連記事:《必見》『5つのP』とは?|SDGsの基本概念について解説
5つのPに対応する8つの優先課題
8つの優先課題とはSDGs目標達成を目指すうえで、日本政府が独自に定めた、重点課題のことを指します。
5つのPに対応する8つの優先課題としては以下のものが挙げられます。
①あらゆる人々が活躍する社会、ジェンダー平等の実現 |
②健康、長寿の達成 |
③成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション |
④持続可能で強靭な国土と質の高いインフラの整備 |
⑤省・再生可能エネルギー、災害・気候変動対策、循環型社会 |
⑥生物多様性、森林、海洋等の保全 |
⑦平和と安全・安心社会の実現 |
⑧SDGs 実施推進の体制と手段 |
ここからは2022年のSDGsアクションプランで発表された優先課題について一つひとつ解説していきます。
8つの優先課題と具体的な施策
①あらゆる人々の活躍の推進
近年、新型コロナウイルスの影響で私たちの生活は大きく変化しました。これにより、世界中で生活に苦しむ人の割合が増加しました。
職を失ってしまった人や、十分な生活支援を受けることができない人も多くいます。
1つ目の優先課題「あらゆる人々が活躍する社会・ジェンダー平等の実現」では、新型コロナウイルスの影響で弱い立場にいる女性や子供、高齢者や障害者などが大きな影響を受けている人々に対し、事業や生活の支援を行います。
また、資源の価格高騰や景気下振れのリスクに対応していき、女性が活躍できる社会を目指して女性の人材育成などの取り組みを推進していきます。
▼目標5「ジェンダー平等を実現しよう」について詳しくはこちら
関連記事:《徹底網羅》 SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」の取り組み 9選②健康・長寿の達成
さきほども述べたように、新型コロナウイルスは私たちの生活様式を大きく変化させました。
それと同時に、改めて「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の重要さが再認知されました。「UHC」とは「すべての人が、適切な健康増進、予防、治療、機能回復に関するサービスを、支払い可能な費用で受けられる」ことを意味します。経済的に窮地に立たされている人々にとって医療サービスを受けることは容易なことではありません。
これからの時代に求められる、より強靭、公平で持続可能なUHCの達成に向けて新たな「グロ―バルヘルス戦略」を策定し、取り組みを推進します。
グローバルヘルス戦略とは:パンデミックを含む公衆衛生危機に対するPPR(予防・備え・対応)を強化し、国際的な協力・協調体制の構築を行うこと。また、人々の安全保障を具現化するため、ポスト・コロナの新たな時代に求められるより強靭(resilient)・より公平(equitable)かつより持続可能(sustainable)なUHC達成を目指すこと。
▼SDGs目標3「すべての人に健康と福祉を」について詳しくはこちら
③成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション
現在、多くの国で都市部の人口が増加し、都市部と地方との間に格差が生まれています。そのため、地方における経済成長は滞ってしまっています。
この問題を解決するため、持続可能なまちづくりを目指して「SDGs未来都市」を選出し、地方共同体が連携した取り組みに対して支援を行い、地方の経済の好循環につなげます。
また、少子化や高齢化による労働力不足となっている地方に対し、スマート農業のようなデジタルによる技術支援を行います。さらに、観光や農業などの地域特有の資源を活かし、地方の経済を回します。
関連記事:《徹底解説》SDGs未来都市とは|概要から自治体一覧まで網羅
④持続可能な国土とインフラ整備
世界中のあらゆるところで自然災害が発生します。世界の中でも日本は自然災害が多い国です。地震や台風など季節によってさまざまな災害が起こります。1995年に起きた「阪神・淡路大震災」や2011年に起きた「東日本大震災」はマグニチュード7以上のとても大きな地震でした。そして、多くの地域が地震の被害を受けました。
このような過去の災害をふまえて、防災や被害の最小化に努め、「強靭さ・しなやかさ」をもった安全、安心な地域・経済社会を目指しています。
この取り組みは日本国内に留めるのではなく、世界にも広める必要があります。発展途上国において、水道や電気などの「質」の高いインフラ整備は必要不可欠です。そのため、各地域に適したインフラ整備を設置できるよう、支援していきます。
▼SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」について詳しくはこちら
⑤循環型社会の形成
近年、地球温暖化の影響により様々な問題が起こっています。気候の変化や水面上昇などが私たちの生活に大きな被害を与えていまいます。そのため、環境を意識した商品が増加しています。
日本政府は地球上の温室効果ガスの排出量と吸収量・除去量を均衡させる、カーボンニュートラルの達成率を50%まで高めることを目指し、二酸化炭素などの大気汚染・地球温暖化の原因となる物質の排出をしない、または排出が少ないクリーンエネルギー分野への投資を進めるとしています。
また、私たちの生活において、重要な電気を生み出す方法として用いられている「火力発電」は二酸化炭素の排出など環境への影響が大きいです。そのため、廃棄物などの排出をゼロにするゼロエミッション化を目指し、アンモニアや水素への燃料転換を進めます。
この活動は日本だけに留まらず、アジアの国々の脱炭素化に貢献していきます。
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⑥生物・森林・海洋の保全
地球温暖化の影響は気候の変化や水面上昇だけに留まらず、動植物にも大きな影響を与えています。近年、絶滅の危機に陥っている動物は年々増加しており、レッドリストに記載される数も増加しています。
森林・海洋資源は持続可能な社会を目指していく上で必要不可欠なものです。そのため、私たちがこれからも暮らしていくためにも、動植物の保全をしていく必要があります。
そのため、増加しているプラスチック廃棄物量が増加している地域や途上国における支援など海洋プラスチックごみ対策を推進します。
また、2050年までに海洋プラスチックごみによる汚染ゼロを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」の実現を目指し、海洋プラスチックごみ対策について世界規模で行うよう積極的に取り組んでいきます。
▼SDGs目標15「陸の豊かさを守ろう」について詳しくはこちら
⑦平和・安全な社会の実現
新型コロナウイルスの影響で、生活の水準が低下し不安を抱きながら暮らす人々がいます。経済成長ばかり重視するのではなく、人々の安全も重視する必要があります。
そのため、国連が行っている「新たな時代の人間の安全保障に関する特別報告書」の議論を支援し、人間の安全保障に関する議論を推進します。
途上国においては、人間の安全保障の理念に基づいて地域機関などと連携し、絶え間ない支援を行い、人材育成や能力構築などに取り組みつつ、2022年に開催予定となっている「第8回アフリカ開発会議(TICAD)」を通じてアフリカ各国など参加国との連携を強化していくとしています。
また、新型コロナウイルスの影響により、学校の休校や外出禁止の時期がありました。これによりDVや児童虐待のような問題も起こっています。このような被害の防止を目指して、日本国内のみならず、世界各国と協力して被害防止のための取り組みを行っていきます。
⑧SDGs推進体制や手段
SDGs達成には私たち一人ひとりの心がけがとても重要になります。政府や関係者、企業のみが実施して達成されることではありません。そのため、少しでも多くの人が「他人事」ではなく、「自分事」として考えなければなりません。
政府・開発機関・民間企業・貧困や飢餓など世界的な問題に対し取り組む団体である、非政府組織(NGO)などの団体がそれぞれの得意分野を活かした活動を行い、互いに連携し、市民へと広げていきます。さらに、「SDGs実施指針」を踏まえて企業の利害関係者である「ステークホルダー」との意見交換を行います。
また、このような行いは日本国内だけにとどめるのではなく、世界規模で行うことでよりSDGs達成への近道となります。「持続可能な開発のための国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)」や「日メコンSDGsフォーラム」などの国際会議を通して、各国や地域、国際機関との連携も強めていきます。
8つの優先課題の成り立ち
SDGs実施指針とSDGsアクションプランの関係性
「SDGs実施指針」とはSDGs推進本部が会合にて決定した、SDGs達成のための中長期的な国家戦略のことを言います。いま多くの問題がある中で、経済・社会・環境の三側面から取り組み、SDGs推進本部の下、関係府省庁が一体となり、持続可能な世界の実現を目指します。
SDGs達成を目指すうえで、具体例として策定されたのが「SDGsアクションプラン」です。「SDGsアクションプラン2022」では先ほど述べた5つのP(People、Prosperity、Planet、Peace、Partnership)に基づき、重点的に取り組むべき課題として、8つの優先課題を定めました。
8つの優先課題への日本の取り組み
持続可能な開発目標(SDGs)と日本の取り組み(外務省国際協力局)
優先課題①あらゆる人々の活躍の推進|「女性の活躍推進のための開発戦略」
2016年、日本政府は「女性の活躍推進のための開発戦略」を発表しました。この開発戦略では、女性と女児の権利の尊重や脆弱な状況の改善、女性の能力発揮のための基盤の整備、政治・経済・公共分野における女性のリーダーシップ向上などを重視しています。
母子保健サービスの拡大や理系分野で活躍する女性の拡大もこの戦略のうちの1つです。
2016年5月に行われた「G7伊勢志摩サミット」では女性行政官などの人材育成や女子生徒の学習環境の改善を表明し、2016年12月に行われた「第3回国際女性会議WAW!」では途上国での女性活躍推進を目指し、2016年から2018年の3年間で総額30億ドル以上の支援を行うことを表明しました。
優先課題②健康・長寿の達成|「平和と健康のための基本方針」
日本政府は2015年9月に「平和と健康のための基本方針」を策定しました。公衆衛生危機や災害に対する強靭な国際健康安全保障体制の構築や、すべての人が基礎的保険サービスを必要なとき負担可能な費用で享受できる、「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」の達成に向けた取り組みを行っています。
2017年12月には、「UHCフォーラム2017」を開催し、国際保健機関(WHO)に対し約29億ドルを拠出することを表明しました。
さらに現在、新型コロナウイルスの世界的拡大をふまえ、日本国内の感染対策や世界の新型コロナウイルス感染症の早期沈静化にむけて世界各国と協力していきます。
優先課題③成長市場の創出、地域活性化、科学技術イノベーション|「地方におけるSDGs推進」
地方創生を目指し、日本政府は2018年6月に「SDGs未来都市」として29都市選出しました。各都市における未来都市としての体制作りや、未来のビジョンづくり、民間企業と地方公共団体との連携を行います。
こうした行いを通して、SDGsを活用したビジネス連携の促進をし、各地域の社会的問題の解決を目指します。
また、集落ネットワーク圏の促進や、農業・漁業に向けたロボット技術などの支援を行うことで、地方の所得向上や、雇用の拡大を促進させ、地方の経済を活性化させます。
さらに、途上国において研修・セミナーなどを通した人材の育成を行い、途上国の経済成長に貢献しつつ、生産から製造、加工、流通、消費の各段階に付加価値をつける「フードバリューチェーン」の構築を目指します。
優先課題④持続可能な国土とインフラ整備|「持続可能で強靭なまちづくり」
日本政府は「持続可能で強靭なまちづくり」をテーマに、地方における医療・福祉・商業などの生活機能を確保することを目指しています。自動車による移動や運搬を行うサービスであるモビリティサービスの推進や、デジタル技術を活用して都市インフラ・施設などを最適化し、企業や市民の生活の利便性の向上を目指したスマートシティの推進などさまざまな取組を行います。
企業や市民の生活の利便性を高めるのみではなく、大規模災害に備え、防災にも力を入れています。生活に必要不可欠な水や電気の供給を正確に行うため、ガスの製造設備・同館などの供給インフラ強化や災害時の燃料供給拠点となる「住民拠点SS」を整備することで災害発生時のエネルギー供給を的確に行います。
また、途上国の「質」の高いインフラ整備を推進するため、さまざまな国への支援を行っています。タイにおける都市鉄道「レッドライン」の整備や、ケニアにおける地熱発電所の建設を支援しています。
優先課題⑤循環型社会の形成|徹底した「省エネ・再エネ」の推進
日本政府はCO2排出量削減を目指し、大幅な省エネを実現したうえで年間で消費するエネルギー量をまかなうことを目指した住宅や建物である、ZEH・ZEBの導入を推進しています。これらの建物には太陽光発電が設置されていたり、断熱性の高い素材を用いた住宅となっているため、年間のエネルギー使用量を減少させることができます。
また、火力発電の二酸化炭素排出量を大幅に削減するためにCO2分離回収や、CO2の有効利用に関する技術などの技術開発を行っています。さらに、地方公共団体や民間事業者へ再生可能エネルギ―を普及するため、整備の導入時に発生する費用を一部補助する取り組みも行っています。
このような省エネルギー・再生可能エネルギーの推進は他国とも協力をして行っています。インドやタイ、中国などのアジア諸国において環境的に持続可能な交通(EST)を普及するため、国連地域開発センター(UNCRD)と連携し、アジア各国との政策対話を実施しています。
優先課題⑥生物・森林・海洋の保全|環境で地方を元気にする「地域循環共生圏づくり」
日本政府は各地域がそれぞれの特性を活かした強みを発揮できるよう、地域資源を活かした自立・分散型社会を形成し、それぞれの地域が互いに支えあうような環境づくりを目指します。地域住民による森林の保全管理活動などの支援や、湖辺の環境修復のため河川からの良好な土砂の供給などの取り組みを行っています。
また、海洋生物の安全のため、海洋プラスチックごみ対策の推進をしています。環境省が実施している「プラスチック・スマート」キャンペーンでは、消費者をはじめ、自治体やNGO、企業などの幅広い人々にむけてプラスチックとの賢い付き合い方について広めています。
さらに途上国において、植林を増加させるために土地利用計画の策定や、温室効果ガスの排出量削減を支援しています。
優先課題⑦平和・安全な社会の実現|「子どもや女性が安心・安全な社会」
日本はUNICEFなどが中心となって設立された「子どもに対する暴力撲滅グローバル・パートナーシップGPeVAC)」に積極的に取り組んでいます。2022年3月には「児童に対する暴力撲滅基金」に65億円を拠出しています。
また、女性に対する暴力や差別をなくし、安心・安全な環境づくりを目指し、「女性活躍加速のための重点方針2018」に基づき、性暴力への対策やハラスメント根絶に向けた対策、女性への暴力の予防と根絶のための基盤作りなどの取り組みを行います。
2021年3月には国連最大規模の会議「第14回国際連合防犯防止刑事司法会議(京都コングレス)」では日本がホスト国となり、SDGs達成のための犯罪防止・刑事司法分野のアプローチについての論議を主導したり、世界各国への「法の支配」の促進に取り組んでいます。
優先課題⑧SDGs推進体制や手段|SDGsを「知る」から「行動する」、そして「貢献する」
日本政府はSDGsをまず「知ってもらう」ためにエンタメ業界やメディアと連携し、SDGsの認知度を高めていきます。また、メディアのみならず、地方とのSDGs達成に向けた活動や万博開催を通じたSDGsの推進も積極的に行います。
そのほかにも、2018年9月よりJICAなどの途上国のSDGsへビジネスで貢献することを目指す企業の現地調査や事業化に向けた普及活動を支援する取り組みも行っています。さらに、独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)が所持する国内外のネットワークを活用した日本企業の海外展開も支援しています。
このような活動を「知ってもらう」ことで、興味や関心をひろげ、一人ひとりが「行動する」ことを目指していきます。
まとめ
SDGsが目指す持続可能な世界を説明した5つのキーワードである「5つのP」や、日本の政府が独自に定めた「8つの優先課題」に対して日本が行っている取り組みについて知ることができたのではないでしょうか。SDGs達成に向けて、日本のみならず、世界各国で協力・支援をすることで持続可能な社会を目指しています。
私たちにできることとして、SDGsについて学び、自分たちでできることを考えることがとても大切なことです。
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SDGsCONNECT SEOライター。大学では文学を通じて、ジェンダーについて学んでいます。SDGsについて詳しくない人にとってもわかりやすく、かつ情報が正確な記事を書けるよう、心がけています。