公平な取引によって途上国の生産者・労働者の生活改善を目指す「フェアトレード」ですが、近年、さまざまな問題点も生じています。
また、世界と比べて日本でのフェアトレードの認知度は低いままです。
フェアトレードの問題点やフェアトレードの普及が進まない理由は何でしょうか。
この記事では、フェアトレードの概要と目指す成果に触れつつ、フェアトレードの問題点や普及が進まない要因、私たちにできる「生産者・労働者の自立支援」への取り組みについて解説していきます。
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フェアトレードとは
みなさんは「フェアトレード」についてどのくらいご存知ですか。まずは「フェアトレード」について詳しく説明していきます。
フェアトレードの概要
「フェアトレード」とは、発展途上国の原材料や製品を適正な価格で継続的に購入することを通じて、立場の弱い発展途上国に住む生産者・労働者の生活改善と自立を目指す運動のことを言います。
この運動は国際的な貧困対策・環境保護を目的としており、アジア・アフリカ・中南米などの発展途上国から、アメリカやイギリスのような先進国へ輸出する際に行われます。
現在はコーヒーやカカオのような食品から衣類まで、さまざまな原材料・製品の輸出においてフェアトレードを行っています。
フェアトレードの基準
フェアトレードの基準はさまざまな団体によって決められていますが、ここでは代表的な国際フェアトレードの基準をご紹介します。
国際フェアトレード基準は国際フェアトレードラベル機構(Fairtrade International)によって設定されており、フェアトレード全般に関する基準となっています。
この基準は2月・3月・6月・9月・11月に行われる会議にて見直されており、発展途上国の小規模生産者・労働者の持続可能な開発が促進されるよう定められています。
基準はさまざまですが、経済・環境・社会の3原則はすべての基準において共通しています。
3つの共通基準は以下の通りです。
○経済的基準 ・フェアトレード最低価格の保証 ・フェアトレードプレミアム(輸入時の品物代金とは別に設けられている、地域経済的・社会的・環境的開発のために使われる資金)の支払い ・長期的な取引の促進 ・必要に応じた前払いの保証 など |
○環境的基準 ・安全な労働環境 ・民主的な運営 ・差別の禁止 ・児童労働、強制労働の禁止 など |
○社会的基準 ・農薬、薬品の使用削減と適正使用 ・有機栽培の奨励 ・土壌、水源、生物多様性の保全 ・遺伝子組み換え品の禁止 など |
フェアトレードが目指す4つの成果
ここまでフェアトレードについて説明してきました。
続いて、フェアトレードが目指す目標について説明していきます。
児童労働の減少
「児童労働」とは義務教育を妨げる労働や、法律で禁止されている18歳未満の危険・有害な労働のことです。UNICEFと国際労働機関(ILO)が2021年に発表した報告書によると、世界全体の児童労働に従事する子どもの数は1億6000万人であり、2016年と比べて800万人も増加しています。
この数は、世界の子どもたち(5歳〜17歳)のほぼ10人に1人が児童労働をしていることになります。児童労働の原因として、貧困や教育を受けにくい環境であることなどが挙げられます。
とくにサハラ砂漠以南アフリカに住む子どもたちが多く児童労働をしており、4人に1人が従事しています。近年サハラ砂漠以南のアフリカでは人口増加や極度の貧困、不十分な社会的保護措置が起こっており、児童労働をせざる得ない状況です。
強制労働の減少
「強制労働」とは、ある者が処罰の脅威下に置かれ、自らの自由意志行わない労務のことです。1930年にILOが定めた強制労働に関する条約にて強制労働を基本的人権の侵害と定めているものの、現代にも強制労働を強いられている人(現代奴隷)が多く存在します。
強制労働の原因として貧困・宗教・人種による差別や、国の規制の緩さなどが挙げられ、とくに女性や子ども、移民などの人が多く対象となっています。
2017年にILOとオーストラリアNGOが発表したレポートによると、現代奴隷の数が世界で4000万人を超えており、全体の71%が成人女性・女児、25%が子どもであることがわかりました。
このような児童労働・強制労働者を減らすことは、フェアトレードが目指す目標の一つです。
途上国生産者の劣悪な労働環境の改善
世界には児童労働・強制労働者以外にも失業者や、仕事があっても十分な収入を得られないような悪い環境で働く人がいます。
ILOの推計によると、毎日6300人もの人々が労働災害や仕事に関連した疾病によりなくなっており、その数は毎年230万人を超えるといいます。
貧富の格差が拡大していると言われている現代において、ディセント・ワーク(働きがいがあり、十分な収入を得られる仕事)を実現することが大切です。
子どもが教育を受けられる機会の増加
発展途上国に住む多くの子どもたちは生活が苦しく、生きていくために働いたり家事をする必要があります。これらが理由で学校に通える子どもの数が少ないことが現状です。
先進国の支援により、発展途上国の識字率は年々向上しています。しかし、今もなおアフリカ大陸にある一部の国では識字率が50%を下回る国があります。UNICEFが2021年に発表した「世界子供白書」によると、2019年において男女ともに識字率が低い国は中央アフリカ共和国となっています。
また、識字率において男性よりも女性の方が低い傾向にあります。一部の国では女性は教育を受けるのではなく、結婚して家事に専念させるという古くからの考えに基づいているからです。
国が発展していくためには未来を担う子どもの力が大きな影響を与えます。フェアトレードを行うことで発展途上国で働く人の生活を改善し、多くの子どもたちが教育を受けられる時間を設けることを目指します。
2019年 若者男性(15~24歳)の識字率(%) |
2019年 若者女性(15~24歳)の識字率(%) |
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南スーダン | 48 | 47 |
ニジェール | 51 | 36 |
中央アフリカ共和国 | 48 | 29 |
ギニア | 70 | 43 |
マリ | 58 | 43 |
フェアトレードの5つの問題点
フェアトレードを行うことで児童労働・強制労働の減少や労働環境の改善、子どもの教育時間確保という3つの目標達成を目指していることがわかりました。
ではフェアトレードの問題点とは何でしょうか。ここから5つの問題点について説明していきます。
SDGsウォッシュやグリーンウォッシュにつながることがある
「SDGsウォッシュ」とは国際連合が定める17の持続可能な開発目標(SDGs)に取り組んでいるように見えて、実態が伴っていないビジネスのことを揶揄した表現のことです。この言葉は実際はそうでもないにもかかわらず、広告などで環境によいように思い込ませる「グリーンウォッシュ」という言葉がもとになっていると言われています。
根拠や情報源の不明な情報を利用したり、事実よりも誇張した表現、事実と関連性の低いビジュアルを用いた場合、「SDGsウォッシュ」と疑われる可能性が高くなります。
フェアトレードの基準が曖昧
フェアトレードを見極める基準として「国際フェアトレード認証ラベル」、「フェアトレード団体マーク」、その他企業・団体が独自に基準を定めたマークの3種類があります。
「国際フェアトレード認証ラベル」と「フェアトレード団体マーク」には明確な条件が定められているものの、企業・団体が独自に設けた基準はどんな基準でもフェアトレードを主張できてしまうため、とても曖昧です。
生産者へ恩恵が届いているか把握が難しい
価格が高く設定されているフェアトレード商品ですが、企業がフェアトレードの利益を十分に生産者・労働者に還元できておらず、どのくらい取り分が設けられているのか調べることはなかなか難しいです。
フェアトレード商品を購入しても、肝心の生産者に恩恵があまり与えられていなければ意味がありません。
企業は消費者に見える形で、生産者への恩恵が行き届いているかなどの情報を公開することが重要です。
メディアの報道の偏り
一部のメディアではフェアトレードが目指す目標には言及せず、公平な支払いなどの表面的な部分のみを取り扱うことがあります。そのため、フェアトレード商品によって発展途上国の労働者の、公平な賃金のみを支えているという認識が生まれてしまいます。
フェアトレードの目標は児童労働・強制労働の減少や、子どもたちの教育時間の確保などです。
フェアトレードを通じて労働者の賃金だけでなく、国の発展も促すことを多くの人に伝える必要があります。
フェアトレード=ボランティアというイメージが広まっている
メディアの取り扱う多くのことが、フェアトレードに従事する人々や企業の「社会貢献」に関する事例です。そのため、「フェアトレード=ボランティア」という印象を強く与えてしまいます。
フェアトレード商品を買うことは単なるボランティアではありません。フェアトレードは、発展途上国に住む人々の生活改善を目指した取り組みであることを理解することが大切です。
フェアトレードが進まない3つの理由
ここまでフェアトレードの問題点を5つ取り上げてきました。
次に、フェアトレードが進まない理由を3つまとめていきます。
一般的な商品と比べて価格が高い
フェアトレード商品はスーパーなどで販売されている商品よりも価格が高いため、すべての人が購入できるわけではありません。
ネットショップで、同じ200gのコーヒー豆を購入する際、フェアトレード商品とそうでない商品の金額の差が700円以上の場合もあります。
生産者に公平な報酬を与えたり、フェアトレード商品の認証を得るための手数料などが原因で価格が高く設定されています。
日本での認知度がまだ低い
日本におけるフェアトレードの認知度は、一般社団法人日本フェアトレード・フォーラム(FTFJ)によると、2019年の段階で53.8%で、2015年と比べて認知度が0.4%低下しています。
しかしイギリスやスイス、オランダなどのヨーロッパ地域におけるフェアトレード認知度は80%を超えていました。
この数字から、いかに日本の認知度が低いのかわかります。児童労働・強制労働の減少や、子どもの教育時間を確保するためには、まずフェアトレードについて多くの人に知ってもらわなければなりません。
商品のバリエーションが少ない
フェアトレード商品は徐々に増加してはいるものの、いまだ少ないのが現状です。そのため、消費者のニーズに合う商品が見つからないことがあります。
日本ではコーヒーや紅茶、チョコレートやコットンが多くフェアトレード商品に該当していますが、たくさんの消費者のニーズに答えるためにはフェアトレード商品のバリエーションを増やしていくことが大切です。
該当商品については、フェアトレード・ラベル・ジャパン公式サイトにて掲載されています。
フェアトレード・ラベル・ジャパン公式サイト▼
https://www.fairtrade-jp.org/products/
私たちができる「生産者・労働者の自立支援」への取り組み2選
ここまで認知度の低さや、商品の価格の高さなどフェアトレードが進まない3つの理由について説明してきました。
最後にフェアトレードの目標達成に向けて私たちができることを2つ紹介していきます。
フェアトレード認証ラベルがついた商品を購入する
私たちが生活していく中で一番簡単にできることは、フェアトレード認証ラベルがついた商品を購入することです。
バレンタインデーや母の日などで贈り物をする際に、フェアトレード商品を贈ることもフェアトレードの目標達成に貢献できる一つの手段となります。
フェアトレード商品が生産者支援に繋がっているか企業サイトで確認する
森永製菓株式会社や株式会社明治ではフェアトレード商品を販売しており、公式サイトにも情報を掲載しています。
株式会社明治が取り扱うフェアトレード商品ブランドPeople Treeでは、大部分のカカオ生産者に30%~50%の代金を前払いすることで生産者の人々が現地のローンに依存せず、自立できるように支援しています。また、金銭面的なサポートのみならず地元の教育や医療のサポートも行っています。
フェアトレード商品を取り扱うその他の企業も公式サイトにて情報公開をしているため、簡単に調べることができます。
みなさんも買い物に行く前に一度調べてみませんか。
まとめ
「フェアトレード」とは、発展途上国の原材料や製品を適切な価格で継続的に購入することで、発展途上国に住む生産者・労働者の生活改善を目指す運動です。
しかし日本において、認知度が低かったり価格が高いことから活動があまり進んでいません。また、メディアの偏った報道によりボランティアという間違った印象を与えてしまっています。
そのため、まずはフェアトレードの目標や概要について多くの人に詳しく知ってもらうことが大切です。
みなさんもまずはフェアトレードについて知ることからはじめてみませんか。
SDGsCONNECT SEOライター。大学では文学を通じて、ジェンダーについて学んでいます。SDGsについて詳しくない人にとってもわかりやすく、かつ情報が正確な記事を書けるよう、心がけています。