近年、カーボンニュートラルへの取り組みの重要性が高まり、温室効果ガスを出さず、環境負荷が少ない再生可能エネルギーを普及させることに注目が集まっています。しかし、欧州に比べて日本の再エネ比率は低く、十分に普及しているとはいえない現状です。
なぜ日本では再生可能エネルギーが普及していないのでしょうか。また、再生可能エネルギーを普及させるための、日本の課題と必要な取り組みとは何でしょうか。
この記事では、日本で再生可能エネルギーを普及させるために必要な対応について解説します。
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日本の再生可能エネルギーの導入割合|再エネの電力比率は22.7%
2022年の日本の再生可能エネルギーの導入割合は、全発電電力量(自家消費含む)に占める自然エネルギーの22.7%でした。ただし、この数字は政府が定めた再生可能エネルギーの導入目標である「2030年に再生可能エネルギーの発電比率を22〜24%」に対してもやや低い水準であるため、今後の政策によって、さらなる拡大が求められています。
引用:環境NPO法人 環境エネルギー政策研究所「【速報】2022年(暦年)の自然エネルギー電力の割合」
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日本で再生可能エネルギーが普及していない理由6選
続いて、日本で再生可能エネルギーが普及していない6つの理由について紹介していきます。
①世界と比べて再エネの発電コストや導入コストが高いから
まず、日本の再エネ市場が世界に比べて未熟であるということが理由として挙げられます。再エネ市場が発展していないため、設備の需要や生産量が少ないため、製造コストが高くなっています。
また、日本の地理・天候的に、安定した電気供給に課題であるため開発コストがかかってしまうことも理由の1つです。日本は国土が狭く、風力や太陽光発電などの再生可能エネルギーを導入するスペースに制限があります。
さらに、海外と比較して災害対策コストがかかるという問題もあります。日本は地震や台風などの自然災害が多く、安定した電気供給を確保するためには、高い耐久性が求められます。そのため、導入コストが高くなり、競争力が低下する原因になっています。
②発電設備の設置場所が限定されているから
日本は地理的に山間部が多くあり、平野部が少ないことが再生可能エネルギーの普及を妨げる一因となっています。再生可能エネルギー発電設備を設置するには、広大な土地が必要となるため、平地が少ない地域では設置が難しいという課題があります。
さらに、日本は地震や台風などの自然災害が多く、これらの災害が再生可能エネルギー発電設備の設置場所を限定していることもあります。例えば、風力発電に必要な風車は高く建てられるため、台風や強風による被害のリスクが高いという問題があります。
また、太陽光発電に必要なパネルを設置するには、地盤が安定していて十分な日照量が確保できる場所が必要であり、災害によって地盤が不安定になる場所では設置が難しくなるのです。
これらの理由から、再生可能エネルギー発電設備の設置場所が限定されており、普及が遅れていると言われています。しかし、近年では技術の進歩により、災害に強い発電設備や屋上や壁面などの空間利用型の設備が開発されるなど、課題に対する取り組みが進められています。
③太陽光や風力の発電量を予測することが難しいから
太陽光や風力は自然エネルギーであり、天候や気象条件によって発電量が変動するため、予測が困難な場合があります。このため、発電量が安定しないという課題があり、需要と供給を合わせるためには、蓄電池などのシステムを利用するなどの対策が必要となります。
④長期的な安全性などの問題が見通せていないから
再生可能エネルギーにも、長期的な安全性や環境への影響などの問題が存在します。たとえば、太陽光発電にはパネルの製造や廃棄物処理などの問題があります。また、風力発電においては、風車の廃棄物処理などが課題となっています。これらの問題を解決するために、技術革新や法規制などの取り組みが進められています。
⑤再エネを電力系統に繋ぐ際の問題があるから
再生可能エネルギーを電力系統に接続する場合、電力系統の安定性や周波数制御などの問題が生じる場合があります。また、発電量が急激に増加した場合には、電力系統の安定性に悪影響を与えることがあります。このため、電力系統の改修や新しい技術の導入などが必要となります。
⑥再エネを大量に導入する際、適切な調整力を確保する必要があるから
再エネを大量に導入する際、適切な調整力を確保する必要があります。再生可能エネルギーは、天候や時間帯によって発電量が変動するため、発電量と需要を一致させるためには、調整力が必要です。
調整力とは、発電量の変動に応じて瞬時に発電量を増減させることができる発電設備や蓄電池のことです。しかし、これらの設備を導入するには多額の費用がかかります。
再生可能エネルギーを普及させるための課題と必要な取り組み4選
ここまで、日本で再生可能エネルギーが普及していない6つの理由について紹介していきました。
次に、再生可能エネルギーを普及させるための課題と必要な取り組みを4つ紹介していきます。
①コスト競争力の強化
再エネコストを下げるために、次のような制度や取り組みがあります。
- FIT制度
- FIP制度
- コスト効率の良い事業者を基準に買取価格を設定する「トップランナー方式」の導入
- 新しい技術の開発・導入
再生可能エネルギーの普及において、コスト競争力を強化することが重要な課題です。製造コストの削減や効率の向上、投資助成金などの政策支援、市場競争による価格競争の促進などが挙げられます。また、海外の先進手法を参考にして、入札制度や制電力市場への直接販売など、自立化への橋渡しとなる仕組みについて継続的に検討することも大切です。
②長期間安定的に発電を支える事業環境の整備
長期安定的な電源を確保するためには、再生可能エネルギーの事業者に対して、廃棄物処理や運転管理の責任など、長期間稼働し続けるために規制や支援策を設けることが不可欠です。
FIT制度においては、買取期間が終了した後も発電を続けることができるような環境整備や、蓄電池やスマートグリッドなどの技術を利用して、再生可能エネルギーの安定的な供給を支える取り組みが必要です。
また、再生可能エネルギーだけではなく、他の電源も組み合わせることで、長期的な電源の安定供給を目指すことも大切です。具体的には、電力会社が再生可能エネルギーなど複数の電源を組み合わせた運用計画を策定し、適切に調整することが求められます。
③系統制約の克服
系統制約の問題を克服するためには、再生可能エネルギー発電量が急増した際に電力系統に大きな影響を与えることが問題となっています。
系統制約を克服するには、既存の電力系統を最大限活用することが重要です。また、系統制約を解消するためには、先進的な海外の手法を導入し、新しいルール作りを行う必要があります。
例えば、電力系統に制約を課すことなく、再生可能エネルギー発電量を増やすことができる「仮想発電所」と呼ばれるシステムが海外で注目されています。このようなシステムを導入することで、系統制約の問題を解消し、再生可能エネルギーの導入拡大を図ることができます。
④調整力の確保
再生可能エネルギーを普及させるための課題の1つは、再エネ発電の変動性の高さに対する調整力の確保です。再生可能エネルギー発電は、天候や風向きなどの自然条件に左右されるため、予測が難しく、変動性が高いと言われています。
当面は火力や揚水発電によって再エネ発電の変動に対応しなければなりません。しかし、今後は電力システム全体の改革により、広域的な調達など、より柔軟で効率的な調整力の確保を進める方針です。具体的には、再エネ発電の予測精度の向上や、需要家側の負荷変動の柔軟性の高い需要側管理の導入、そして新たなエネルギーシステムの構築などが挙げられます。
また、発電計画と発電実績とのギャップを縮める取り組みなどにより、再エネ変動によるインバランスを減らしていく必要があります。このために、電力会社や関連企業は、再エネ発電の予測技術やエネルギーマネジメント技術の開発に取り組んでいます。この技術によって、再エネ発電の変動性に対する調整力を高め、再生可能エネルギーをより効率的に活用できます。
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再生可能エネルギーを普及するために行われている取り組み・制度
続いては再生可能エネルギーを普及するために行われている取り組みや制度を紹介していきます。
固定価格買取制度
固定価格買取制度(FIT制度)とは、再生可能エネルギー発電に対して、一定期間にわたって固定された価格で買い取り、発電事業者が収益を確保できるようにする制度です。この制度は、太陽光発電や風力発電など、再生可能エネルギーの普及を促進するために2012年に導入され、2022年からはFIP制度(フィード・イン・プレミアム制度)に移行することが決定されました。
発電事業者は、自らの発電量を市場価格より高い価格で売ることができ、経済的なメリットが得られるため、再生可能エネルギー発電の導入につながります。また、電力会社は、再生可能エネルギー発電の導入を義務付けられることで、CO2排出量の削減などの環境負荷の軽減に貢献することができます。
エネルギーミックス
エネルギーミックスとは、複数のエネルギー源を組み合わせてエネルギーを供給することで、エネルギーの供給安定性を確保することを目的とした政策です。
再生可能エネルギーの普及は、石炭や天然ガスなどの化石燃料による発電量の削減につながりますが、太陽光や風力といった再生可能エネルギーは天候や風向きに左右されるため、安定した電力供給が困難な場合があります。
エネルギーミックスは、再生可能エネルギーだけでなく、化石燃料や原子力などの多様なエネルギー源をバランスよく組み合わせ、エネルギー供給の安定性を確保することができます。
ノンファーム型接続
ノンファーム型接続とは、太陽光発電などの自家発電設備を設置した場合、電力会社がその発電設備から発生した電力を買い取る制度です。この制度により、自家発電設備を設置することで余った電力を売ることができるため、再生可能エネルギーの普及につながっています。
再生可能エネルギーの電力ごとに必要な対応
ここまでは、再生可能エネルギーを普及するために行われている取り組みや制度を紹介してきました。
ここからは再生可能エネルギーの種類ごとに必要な対応を紹介していきます。
大型電源として売電市場での活用|太陽光・風力
太陽光発電や風力発電は、再生可能エネルギーであり、化石燃料に比べて環境に優しく、温室効果ガスの排出削減につながります。しかし、その導入にあたっては、環境問題や周辺住民の反発などがあるため、適切な配慮が求められています。
そのため、環境に配慮した導入方法を検討する必要があります。たとえば、太陽光発電では、既存の建物の屋根や壁面、工場や倉庫などの空きスペースを活用する「分散型太陽光発電」や、土地利用に配慮した「農地利用型太陽光発電」などがあります。風力発電では、風速が安定している地域を選定したり、周辺住民に配慮した騒音対策を実施するなどが考慮されます。
また、太陽光発電や風力発電は、急速なコストダウンが見込まれており、将来的には大幅なコスト低減が実現されると期待されています。そこで、自家消費や地産地消のエネルギー源として活用するとともに、売電市場でも活用されることが期待されています。例えば、発電した電力を電力会社に売る「売電」によって、電力需要が高い時間帯に電力を供給することができ、電力会社からの収益を得ることができます。
売電市場での大型電源としての太陽光発電や風力発電の活用により、再生可能エネルギーの普及が進み、温室効果ガスの排出削減につながります。ただし、その導入にあたっては、周辺環境や住民の反発を考慮し、適切な配慮が必要です。
地域との共生を計りながら自立化へ|地熱・中小水力・バイオマス・地中熱
地熱、中小水力、バイオマス、地中熱は、地域との共生を計りながら自立化へ向けた取り組みが主な目的です。これらのエネルギー源は、地域の自然エネルギー資源を活用し、地域の電力需要を自給自足することを目的としています。たとえば、地熱発電は、温泉地域で地熱を利用した発電所を設置することで、地域経済の活性化を図ることができます。
中小水力やバイオマスは、地域の森林や農業資源を活用することで、地域の電力需要をまかなえます。また、地中熱は建物の冷暖房などに利用されます。これらのエネルギー源は、地域のエネルギー自給率を高め、地域経済の発展につながることが期待されています。
企業が再生可能エネルギーに転換するメリット3選
最後に企業が再生可能エネルギーに転換するメリットを3つ紹介していきます。
①脱炭素社会への適応が経営戦略の1つになる
企業が気候変動への対応を財務情報として開示するTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)¹や、サプライヤーを含めた脱炭素への目標設定・取り組みを行うSBT(Science Based Targets)²、RE100(Renewable Energy 100%)³などの取り組みが増えています。
これらの取り組みは、企業が脱炭素経営に取り組むための方向性を示すものであり、企業にとっては競争優位性を維持するために重要な戦略となっています。大企業だけでなく、中小企業にとっても、脱炭素社会への適応は重要な経営戦略となっています。企業は脱炭素経営に取り組むことによって、社会的責任を果たし、持続可能な経済発展に貢献することができます。
¹TCFD:各企業の気候変動への取り組みを財務情報として具体的に開示することを推奨する、国際的な組織。
²SBT:企業が「パリ協定」が求める⽔準と整合した温室効果ガス排出量削減目標を設定することを促進する取り組み。
³RE100:事業活動で消費するエネルギーを100%再生可能エネルギーとして導入することを目標とする国際的イニシアチブ。
②環境配慮によってESG投資を呼び込み、事業基盤を強化できる
再生可能エネルギーへの転換は、ESG投資家⁴からの支持を得るための重要な施策の1つとなります。ESG投資家からの支持を受けることは、企業の事業基盤を強化するためにも重要です。
ESG投資家は、企業の長期的な成長戦略やサステナビリティ戦略を支援することができ、企業の事業基盤を強化することにつながります。そのため、再生可能エネルギーへの転換は、ESG投資家からの支持を受けることにより、企業の事業基盤を強化することにつながるといえます。
⁴ESG投資家:企業が環境への配慮ある取り組みを行っていることを評価し、その企業に投資する投資家。
③電力自給⁵により電力供給リスクを低減することができる
自社で再生可能エネルギーを導入して発電することにより、電力の供給リスクを低減することが可能です。例えば、自社で太陽光発電を導入した場合、天候によって発電量が変動することがありますが、自社で発電した電力を使用でき、外部からの電力供給に頼らなくても事業運営ができます。
⁵電力自給:自社で発電した電力を自社で利用すること。
まとめ
今回は、日本で再生可能エネルギーを普及させるための必要な対応についてまとめていきました。
再生可能エネルギーの普及には、環境負荷の低減、エネルギー安全保障の確保、地域経済の活性化など多くのメリットがあります。一方で、投資費用や技術的課題、地域社会との調整、エネルギー変動による調整などの課題も存在します。
これらの課題を解消し、再生可能エネルギーを普及させることができれば、長期的な安定化や持続可能な社会の実現につながると考えられます。