《徹底解説》SXとは|DXとの違いやESGとの関係性まで徹底網羅

#持続可能#経済成長#金融 2021.06.28

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【更新日:2021年9月11日 by 森あゆみ

近年国内では、ますますSDGsへの取り組みが盛んになっています。特に多くの企業ではSDGsやESGへの貢献に繋がる事業の推進が多く見受けられます。

しかしこのような中長期のスパンで推進される持続可能的な戦略方針は投資家の理解を得にくいなどの課題があります。

そんな中、「SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)」が話題になっています。

今回はそんな「SX」について詳しく紹介していきます。

SXとは

経産省によるSXの定義

SXが注目されたきっかけは、経済産業省で2019年11月に開催された「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会」がきっかけです。

その検討会でSXについて検討され、注目され始めました。

「SX」というのはサステナビリティ・トランスフォーメーションの通称です。

日本語にすると「持続可能な変容」という意味ですが、経済産業省発行の「サステナブルな企業価値創造に向けた対話の実質化検討会 中間取りまとめ~サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の 実現に向けて~」では次のように定義しています。

「企業のサステナビリティ」と「社会のサステナビリティ」を同期化させた上で、企業と投資家の対話において双方が前提としている時間軸を長期に引き延ばすことの重要視した経営の在り方や対話の在り方を「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)という。

経済産業省環境経済室長 梶川文博氏へのインタビューはこちら▼

SXとはなにか

経済産業省が定義するSXを、よりわかりやすく噛み砕いて説明します。

SX(サステナビリティサステナビリティ・トランスフォーメーション)とは、企業が短期的ではなく長期的な「持続可能性」を重視し、ビジネスの安定だけでなく、ESGに掲げられた環境、社会、ガバナンスを両立し、企業経営だけでなく投資家との対話のあり方を変革させていくことを指す言葉です。

現在、第4次産業革命や気候変動、新型コロナウイルスの感染拡大などによる経済危機の発生でグローバル経済の先行きに不確実性が露呈しています。そんな中で、SDGsの注目も受け、企業が社会の持続可能性(サステナビリティ)に貢献することが求められています。

企業を取り巻く環境変化によって、企業は自社の持続可能性を高め、中長期的な企業価値創造を実現していく重要性が高まっています。

しかし、資本市場の大きなトレンドの変化であるパッシブ運用の拡大などにより、中長期的な企業価値向上に関心のあるアクティブ投資家の絶対数が不足し、結果として企業と投資家の間でギャップが起こり、企業の戦略に対し理解を得にくくなってしまっているのです。

このギャップを解消し、中長期的な企業価値向上に向けた対話を実現するために、企業と投資家は共有する時間軸を5年、10年と、より長期に引き延ばし、「企業のサステナビリティ(企業の稼ぐ力の持続性)」と「社会のサステナビリティ(将来的な社会の姿や持続可能性)を同期化させる対話個人と組織が一体となり、双方の成長に貢献しあう関係を築いていくことが必要であり、この上記のような経営の在り方を「SX」と呼んでいるのです。

SXに必要な3つの改革

経済産業省によると、SXを通じて5年、10年と長期の時間軸に渡って経営のあり方や投資家との対話を変革するには、以下の3点が重要とされています。

①企業として中長期的に稼ぐ安定性の向上

SXを推し進める上で、まず重要とされているのは企業の稼ぐ力の向上です。安定した企業経営を実現するには、自社のビジネスを安定化させることが重要です。
そのために、事業のポートフォリオ(企業が手掛けている事業の組み合わせ)を適切に管理し、各事業における収益性や安全性、成長性などのバランスを整えていくことが重要です。

また、イノベーションに対する投資などを通して新たな事業づくりの種植えをおこなうことで、さらに企業のサステナビリティを向上させることができます。

②不確実な環境の中でリスクと機会を把握すること。

世界的な感染症の拡大や、サプライチェーンの分断、気候変動など企業を経営していく上で、ありとあらゆるリスクが今後も想定されてます。

その環境下で企業の持続性を維持するためには、長期的に見た社会からの要請を踏まえ、そこから逆算して、自社のビジネスの持続性や成長性のリスク、機会を把握し、経営に把握させていくことが重要です。

③ ①と②を踏まえて中長期的な成長ストーリーをつくること。

企業を取り巻く環境は常に変動を続けています

一度、事業のポートフォリオを決めたり、リスクと機会を把握したとしても、想定したシナリオが変更されてしまう危険性は常に存在します。
そこで、あらかじめ定めたシナリオには変更が生じることを念頭においた上で、企業と投資家が長期的な視点で対話を繰り返し、企業の価値創造ストーリーを磨き続けることが重要です。

これにより、企業経営のレジリエンスを高めていくことができます。

SXが求められる3つの理由

上述の通り、中長期的に企業価値を向上させていく必要があり、これからの長期的な環境変化を踏まえて企業は変革を続けなければなりません

しかし、このような取り組みは投資家の理解を得られにくいことが問題となっています。

特に理解が得られにくいものとして、以下の3点が挙げられています。

①多角的な事業展開に対する企業と投資家の認識の乖離による企業価値の低迷

多角化経営は、環境変化の不確実性の高まりに対応し中長期での持続的な企業価値向上を実現するための1つの手段と認識されています。
持続的に企業価値を向上させるために、多くの企業ではM&Aなどを通じて事業を多角化させています。

しかし、単体でそれらのビジネスを営む場合と比べ、多角的に事業を展開している企業のほうが市場からの評価が低下してしまい、自社と市場の評価に乖離を感じているケースが課題視されています。

また、多角的に事業を展開しても、複数の事業のシナジーが投資から評価されず、株価が下がってしまうケースも散見されるといいます。

AIなどのIT分野の発展とともに自社の技術を生かして新規事業を展開しても、投資家の理解が得られない場合もあり、企業評価の向上に課題が生じてしまいます。

さらに事業を多角化させるために新規事業を立ち上げても、収益化に時間がかかることもあり、この点も投資家からの評価が低迷する原因になっているといいます。

SXでも企業と投資家のコミュニケーションが重視されているように、自社の多角的な事業を1つのストーリーとして発信することが重要です。

また、経営資源の分散を理由とするだけでなく、中長期的に見て、企業の競争優位性が持続・強化され、企業価値が持続的に向上することを説明していく姿勢が企業に求められているといえます。

②新規事業に対して適切な評価がしづらい投資家の現状

SXが求められている背景には新規事業に対して投資家が評価しづらい現状があります。

現在、多くの企業は利益の一部を再投資することで、新規事業を模索し、さらに自社のビジネスの拡大を目指しています

しかし、新規事業創出やイノベーションにつながる活動や、利益を上げていない新規事業に対して、未実現の利益は評価できないという理由で積極的な評価がされない現状があります。

また、新規事業は百発百中ではありません

時間をかけ、試行錯誤を繰り返し、失敗を積み重ねてこそ、イノベーションが生まれるため、企業は多くの種植えを行う必要があります

この新規事業では、既存事業と似た分野であれば立ち上げ後の市場規模や収益性についても説明しやすいですが、不確実性の高い環境の現在、成功する確度が低く、市場規模や収益性も未知数な新規事業の取り組みも求められています。

しかし、投資家サイドでは、過去の前例がないためにどの程度の収益性のある事業なのかどうかを判断することができないという声も上がっており、企業側は、いつ、どのような確度で、どのような市場に成長するのかをストーリーとして説明していく必要があるとされています。

未実現の利益であっても、投資家がそれを評価していくためには、以下のような手法を取り入れ、SXを実践していくことが重要です。

① 企業から、投資家に対して、具体的に、どの時点で、どの程度の経営資源を投入して種植えを行うのか、そして、その種植えが、将来的に、どの程度の確度で、どの時点で芽を出し、どの程度の市場に成長し、どの程度のリターンがあると想定しているのかを投資家の疑問点も踏まえながら丁寧に説明すること。

② 個々の新規事業創出やイノベーションに対する種植えに関して説明するだけでなく、
企業として、新規事業を生み出すための仕組みや企業そのもののガバナンスがどのよ
うに整備されているかを評価してもらうこと。

③ 数々の失敗の中から成功が生まれるというイノベーションの特質を踏まえて、個々の
取組それ自体は未実現の利益であって評価できないとしても、それらを束ねた新規事
業群の「塊」として捉え、その「塊」を評価してもらうこと。

③経済価値と社会的価値の両立の難しさ

企業側・投資家側ともに社会的価値と経済的価値をどのように両立していくかという点については課題として認識されています。

SDGsやESGとの関連性が明確である事業は、投資家から評価されやすい現状がありますが、関連性が不明確な事業では、どのようにSDGsやESGに取り組めば投資家から評価され、中長期的案企業価値向上につながるのかの確信が持てずSDGsやESGに積極的に取り組むことができない現状があります。

また、温室効果ガスの削減のための環境投資について、将来的には炭素税の導入などを見越して長期的なリスクマネジメントとして実施していても、足下の利益に結びつくものではないとして評価されないケースもあります。

さらに、高い年齢層の従業員の中では、SDGsやESGに取り組むことに対して、利益にはつながらないコストと捉えるケースもあり、社内での認識の差異から、全社的なSDGsやESGの活動に繋がらないなどの問題も指摘されています。

投資家サイドでは、ESG投資の学術的な研究が、まだまだ未発展であり、ESGへの取り組みをどのように投資判断に取り込めば、中長期での企業価値向上につながるのかという点で、一定の共通見解を形成することができていないという課題があります。

企業・投資家の両者が、SDGsやESGの社会的価値と経済的価値をどのように両立していくかを課題として認識している理由は、SDGsやESGの中長期的な機会を十分に捉えられず、さらにそれを具体的な行動に反映させることができていないからであると考えられます。

これを解決するには、前提となる時間軸が長期のものとし、ESG/SDGs の企業経営に対するリスク的側面とオポチュニティ的側面の両面を適切に把握具体的にアクションに反映させることが重要です。

SXとSDGsの関係性

SDGsは「Sustainable Development Goals」の略称です。日本語では「持続可能な開発目標」と表されます。
2015年9月の国連サミットで採択されたSDGsは、2016年から2030年までの15年で達成すべき17のゴールと169のターゲットで構成されています。SDGsでは経済や環境、社会の課題が幅広く取り上げられ、持続可能な社会を築き上げるために、国連が主導してさまざまな取り組みが広がっています。

SX(サステナビリティサステナビリティ・トランスフォーメーション)は、企業が長期的な「持続可能性」を重視し、ビジネスの安定だけでなく、環境、社会、ガバナンスを両立し、企業経営だけでなく投資家との対話のあり方を変革させることを指します。

SDGsに掲げられた17の目標と169のターゲットでは、環境、社会、ガバナンスに紐づく多くの課題が列挙されています。

特にSDGs 目標13「気候変動に具体的な対策を」をはじめ、環境に紐付いた課題はいくつか挙げられています。

社会については、貧困問題や、医療、エネルギーなどの課題が挙げられています。

ガバナンスでは、SDGs 目標 8「働きがいも 経済成長も」に挙げられる働きがいだけでなく、SDGs 16「平和と公正をすべての人に」などでもガバナンスにちなんだ課題が設定されています。

このように、SXを成し遂げる上で、SDGsに掲げられた目標をチェックシートのように活用していくことができます。

SXとDXの関係性

SXをより強力に推進していくためには、ダイナミック・ケイパビリティ(企業変革力)が重要です。

ダイナミック・ケイパビリティは、カリフォルニア大学バークレー校のディヴィッド・J・ティース氏によって提唱されました。

ダイナミック・ケイパビリティは環境や状況が激しく変化する今、企業がその変化に対応して変革する能力を指す言葉で、以下の3つの能力に分類できます。

感知(センシング):リスクを感知する能力
捕捉(シージング):機会を捉えて既存の資産や知識、技術を再構成し、競争力を獲得する能力
変容(トランスフォーミング):競争力を持続的にするために、組織全体を変容させる能力

この3つの能力をさらに向上させていくために、SXとDXを組み合わせていく必要があります。

DXは、経済産業省による定義では、以下が示されています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。

上記の定義からわかるようにDXでは、環境への変化に対して、データとデジタル技術を活用し、競争優位性を維持していくことが掲げられています。これはSXで掲げられた「不確実な環境の中でリスクと機会を把握すること」「企業として中長期的に稼ぐ安定性の向上」の2点と重なります。

これから、さらに多様化する社会で、企業を長期的に成長させるためには、DXで掲げられたようにデータやデジタル技術を活用していくことが重要です。

スマートフォンなどを通して多くのデータが収拾されるようになった今、ユーザのデータなどから時代や社会の変化を読み取ることで、感知力を高め、機敏に対応することができます。

特に近年、めざましく発展を遂げるAI(人工知能)技術では、膨大なデータから、環境変化の可視化したり、将来のリスクの予測が可能になり、企業の捕捉力を大きく向上させることも可能です。

近年、DXやSXなど、定義があいまいになりがちなキーワードが多く生まれるようになりました。

これらの言葉を別々のものとして考えるのではなく、つなげて考えることで、これからの社会の中で企業がどうあるべきかを考えるきっかけになると言えるでしょう。

まとめ

今回はSXについて紹介していきました。
サステナビリティな社会へ貢献する企業の取組はなぜ必要なのかが分かったと思います。

SDGsなどで掲げられている17のゴールだけに捕らわれるのではなく、「なぜこの活動が必要なのか」というのを考えてから行動に移していくことが非常に大切です。

なぜSDGsが掲げている17のゴールが必要であるのか、という観点に沿って皆さんも行動してみてください。

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